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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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2/7

02 前の王様がやらかしてた。


 それを先王ダスティンのやらかしと人は言う。


 それは学園にて惚れた男爵家の庶子を王妃にするためから、あれやこれ。


 ――終いの慟哭までを。


 ダスティンは学園で出会った、とある男爵の愛人であった平民との間に産まれたたいそう可愛らしい少女に惚れてしまい。

 それまで自分に尽くしてくれていた幼い頃からの婚約者を裏切った。本気で男爵令嬢を王太子妃にするために。

 けれどもそんな彼が王になれたのは――彼が優秀だったから。


 彼は公爵令嬢とは婚約を白紙にし、すぐさま彼女の婚約を弟にかえることで公爵家の面子を保ち、王家との縁は変わらないとした。

 弟も年上になるが美しく優秀な公爵令嬢と結婚できるのはありがたいと受け入れ。むしろ仄かに恋していたので、彼は兄に感謝したほど。


 人々はダスティンが弟王子の恋を知って身を引いた――とすら。


 それほどまでに考え動けるほどのダスティンが、それほどまで妃に望むのならばと、周りも認めるしかなく。


 それは「ダスティン王の真実の愛」と――やらかしと呼ばれる前は。


 恋に狂ってしまったことはしかたがないが、それ以外は本当に優秀な王太子だった。

 立太子をすでにしていたから王太子の地位にすでに就いていたし、すでに国はダスティンを王にするために動いていた。

 弟王子にも慕われ、国民にも慕われ。

 むしろ平民あがりを妻にしたことでさらにダスティンは民から支持が集まった。


 ダスティンはやがて王位に就いたのだが。


 ダスティンはその可愛らしい令嬢を妃にし。

 すぐに、現実を悟ったが彼はそれでも妃だけを愛した。


 妃は可愛いだけが取り柄だったのに。


 そしてあくまでも血筋は平民あがり。


 ――そんな王太子ダスティンの治世はともかく、血統が、長くあるはずがない。


 それほど望んだ妃には子が産まれなかったからだ。

 今の王はそんなダスティン王の弟の息子だ。子がない以上は血統により、ダスティンは甥を後継者に選ぶしか無かった。


 男爵家の庶子を、その血を、王家に混ぜるのを、許さない多くの者たちがいた。


 例えば結婚までは許したとはいえダスティンの婚約者の家であった公爵家や国の主だった血統正しい貴族たちが。

 例えば彼の母、王妃の故郷であった隣国とか。


 例えば王家、その存在有り様自体が。


 例えば――神とか。


 優秀であった彼が恋に狂い、そこだけ道を外したのも、それが運命とでもいうのだろうか。


 後にそれは「魅了」によるのではないかと噂になった。

 晩年に入るにはまだ早いけれども。

 ダスティンが愛してやまない可愛い妃が病により身罷った――直後。


 王宮にダスティン王の慟哭が響いた。


 それは愛する妃の死を哀しみ嘆くものではなかった。決して。

 彼は怨嗟の声で泣き叫んでいた。

 自分はなんという愚かな。

 顔だけ美しいだけの女にどうしてここまで執着し、心まで美しかったかつての婚約者を裏切ったのかと――。

 側妃は妻が嫌がるからと、子ができぬならば娶るのが王としては役割でもあるのにそれすら拒んでいたダスティンだ。

 それもまた真実の愛の美談として。


 側妃はきっと婚約者がなってくれただろうに。

 公爵家も一度は白紙となっても歳下であった王弟の成人まで令嬢の立場があやふやであったので、側妃としてもすぐに身が固まるならばそちらを選んだかもしれない。


 それでも結局。

 その婚約者は弟の妻となり。

 ダスティン自身が妃のためにと、頑なに拒んだために。



 ――側妃が立てば、平民あがりの妃などさっさとお役御免になっただろうに。


 ――その慟哭は起きなかっただろう。



 ダスティンの幸いで不幸であったのは、彼は優秀であり、可愛いだけが仕事の妃の仕事も彼がこなせてしまったこと。

 女性たちのまとめは弟の妻、王弟妃となったかつての婚約者がこなしてくれたこと。


 ダスティンが優秀で統治の面では本当に理想的な王であったために。


 婚約者であった公爵令嬢は自分ではなく男爵令嬢を選んだことに「それならば仕方なし」と納得したのだ。側妃となる場合もいっときは覚悟しながら。

 むしろ「妃が嫌がるから」と側妃の話をダスティンの方から無しと宣言されほっとしたほど。


 彼は確かに長くあった婚約を学園でであった男爵令嬢の為に裏切ったが、それなりに筋を通して婚約を白紙にしてくれた。

 それに公爵家としては王家の繋がりはまだ婚約者が定まっていなかった第二王子と結ぶこともできたし。

 なんだかんだ、夫となった王弟は自分を愛してくれて。ダスティンとは「愛」というより「同志」な関係であったと、愛される喜びを自分にも与えてくれたと感謝すら。

 だから可愛いしかできない王妃のために、王弟妃として国の女性方面のまとめを引き受けてきた。

 「王」として優秀で一人で立てる彼は、「共に並び立つ妃」より、「癒し甘えてくる妃」を、欲したのならば。


 そう、皆は思っていたのに。

 ダスティン王の真実の愛、だと。

 

 その日――ダスティンは正気に戻った。


 愛していた公爵令嬢とどうして自分は婚約を白紙にしてしまったのか。

 それを、公爵令嬢を弟に譲ってしまったのか。

 どうして自分は独りなのだ。


 すべてすべて――この女のせいだ!


 今際の際まで愛しい妃と呼びかけていた相手を、憎しみで睨みつけるダスティン王に。皆は愛する妃を失ってさては気を狂わされたかと――お労しいと慰めていたのだが。


「王に妻がいないのは、やはり諸外国の客人を饗す場や、形式的にも悪いだろう。ここは申しわけないが、弟には妃を譲ってもらいたい。もともと王妃になるはずだったのだから。ああ、彼女の子は、そのまま私の後継者として……いや、今からでも」


 やがて、かつての婚約者であった公爵令嬢――今は弟の妻に冷静に執着し始めた彼に、皆は恐れ察した。


 そうして。

 ダスティン王は最後の最後にやらかした。

 弟の妻を欲したのだ。

 それこそが真の彼の――ダスティン王のやらかし。

 彼の後継は王弟の息子。

 そう、彼のかつての婚約者の公爵令嬢との子と、すでに決まっていたのもあり。王弟とその妃でも、その子が成人するまで国政は回せて。

 彼は虚に嗤い、幽閉先の離宮にて独りさみしく過ごしたという。

 あれほど愛した可愛い妃のことなど――怨みをこめるばかりで。



「つまり、魅了にかかって本当に好きだった公爵令嬢さまを手放して大後悔! ってこと?」



 こうしてやらかしは繰り返す…はずだったのを。頑張れ。

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