24 ところでレオナルド。前編
閑話休題。
王太子レオナルド。
攻略対象其の一。
彼は王道ルートと言うべきか。
金の髪に深い青の瞳。
学園の制服も似合う、鍛えられた細身の長身の美青年だった。
少しばかり俺様気質なのは、王太子として――王族として仕方がないが、それもまた彼の魅力であった。
彼は傲慢に近いその性格で、平民上がりで身分差を気にせず誰にも分け隔てなく接する「主人公」を物珍しく見ていたはずが、いつしか惹かれていき――。
そうした彼を攻略対象として選ぶと「主人公」は将来の王太子妃――王妃ルート。またそのエンディングとなる。
――の、だが。
「えー、ちょっとルカ! その苺の、俺が狙ってた!」
「駄目です、早いもの勝ちです。っていうか、もう何個目です?」
「まだ五つ」
「……オレンジのも美味しかったですよ」
「え、本当? うん、美味い! じゃあ、お次は桃の……」
「それはお嬢様がお好き――」
「皆、食べちゃ駄目! オーレリア来るまで手出だしちゃ駄目!」
今日のおやつは一口サイズのプチタルト。カスタードクリームやジャムたっぷり。
その口の端にクリームを付けた高貴な少年は、平民どころか孤児であった子供と同席でも、そして同じものを饗されても怒る様子は微塵もない。
今日は本来ならば婚約者との親睦を深めるお茶会でもあるのだが、その兄であるメルヴィンとは親しい幼馴染だし、その執事となる予定のルカとも不思議とも友情が。
とくにメルヴィンの趣味が菓子作りだから、お茶会はこうしてときに彼の新作菓子のお披露目にもなる。
今はまだ、婚約者同士のお茶会ではなく、子供同士の楽しい集まりだ。レオナルドの護衛や守役さんたちもお菓子の感想是非にとご一緒してもらいつつ――毒味かねれるし。
幼くも互いに立場ある彼らには、こうした時間も良き思い出になろうと、王家と公爵家の計らいだ。
オーレリアはまだお稽古が長引き――というより、レオナルドが彼らに逢いたいと早く来すぎなので。
しかし、俺様気質は何処?
レオナルドの様子にメルヴィンはタルトにクリームを詰めつつ、首を傾げる。
ゲーム中は幼少期から王子さまとして少しばかり偉そうで。選民思考も。それがルカ――19とも仲良さそうに。
むしろその口調。
時折、下町の子供のような。
「レオ、それ食べても良いよ。リアが来たら新しく作るから」
今日のタルトは小さく一口サイズに焼いたクッキー生地にその場でクリームを詰めて果物などを乗せるものだ。生地のザクザク食感を、是非しなしなになる前に味わって欲しい。
美味しいうちに食べて欲しいは、料理人として。
「まじ? やったぁ! 俺も桃好き! 次はやっぱり苺ちょうだい!」
好き嫌いないのもえらいな。
メルヴィンはやっぱり首を傾げる。
季節の旬な時に砂糖煮にして瓶詰しておいた桃をはじめとした果物は皆様に好評で、それにドヤ顔してしまいつつ。
公爵家にこうした保存庫として氷室を新しく増設してもらったメルヴィンであった。
息子のおねだりに弱い親たちにもタルトをお届けしつつ。
「バニラの次は、何お取り寄せしてもらおっかなあ」
本日のカスタードクリームにもバニラ使用。
「あ、あちこちのチーズとか良いかも。クリームチーズあったらチーズケーキも作れるよね!」
また美味いものの気配とレオナルドの目も輝く。
「そういやこないだ行った村の特産のチーズ、コクがあって美味かったなぁ……」
それには大人たちもまた、慟哭を繰り返さまいと悩んだからだ。
王太子の息子であるレオナルドだが。
もう数年後には、代替わりにより彼自身が王太子となる予定であった。
レオナルドの資質を良く見て――決められた。
祖父王と王太子なる父や母だけならず、国としてもそのように動いていた。
その、予定であったのだが。
「メルヴィン……コーディング公爵子息が、そのような、夢を……」
祖父にして王――ハーロルトはぞっとして口元を抑えた。
彼は覚えている。
彼の伯父であるダスティン王の慟哭を。
あの哀しみと怒りの混じった瞳を。
後悔と執着と――愛憎で母を見る瞳を。
あれを、孫が。
レオナルドまで繰り返すというのか。
コーディング公爵夫人の伝手により、帝国より宮廷付き魔法使いを招くことができた。彼女の助けもあり、魅了に対抗する魔法や護符を開発することになった。
世の中にそうしたものはあるにはあるが、古代遺産など、数が少ない。残存するものはきっと帝国や力ある国の宝物庫に厳重に保管されているくらいだろう。
これまでどうして開発されなかったのだろうかと疑問になったほどだ。
だが、研究しているものはあちらこちらにはいた。
しかしながら魔法の研究は、その専門的な環境も必要で。王宮付きにもならねば金もかかるそれに、志半ばで道を諦め、別な仕事に就職したりと……。
王宮付き。
やはり狭き門でもある。
しかしそうした野生ともいうべき専門家たちの方が、時に特出した知識を持っていたりもする。
この度、そうした理由で門の出入り口を別に向けたらあっさり通れたのがアルベルトであった。
彼は印文を専門に研究をしていたが、それに偏っていたために今までは王宮付きには受からなかった。
そうした野生のプロたちにも広く門戸を開けば、この国の魔法部門もまた転換期を迎えることができた。
そうした準備をしながら。
とある人物がレオナルドを一時預かろうかと申し出て。
「話を聞くと……平民上がりの明るさ? よく解らないが、そういうのが物珍しくて惹かれるんだろう? だったら先に平民見せてやれば?」
それだ。
王様は今度はそう叫ばないために口を覆った。
「良いのか、バルドル……」
「ああ、まずはお試しで一週間くらいどうかな? ちょうど初心者たちの面倒も見ることになっていたから、護衛任務の護衛側を見せてやるよ」
そう、護ってくれてる側を知るのも勉強になる。いざというときにどう行動したら彼らの邪魔にならないか。
もちろん、レオナルドもそうしながら護衛対象に含む複雑な任務になるが。
「子供用の防具、たしか倉庫にあったな。念のため、こないだ見つかった古代遺産の防御リングも持たせるか……準備できたらまた連絡する」
「ありがとう。お前には迷惑をかけてばかりだ……」
「それは言わない約束だぜ、兄上」
そう申し出てくれたのは王の弟、バルドルだった。
隠しキャラの前にちょっとキャラクター小話を。レオナルドの影薄いかもしれない、と…(汗。
レオナルドはこうして先んじて平民(現実)を勉強してましたよというお話。前後編です。
九州はじめ、各地の災害。
どうぞ当方の作品を、皆様の一時の息抜きにでもしていただけたら幸いです。




