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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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20/21

20 聖女ちゃ――さんを、いや様をつけよう!


 さてさて。

 テオドールとユベール攻略ルートと、いうべきか。

 神殿ルート――いや、聖女ルート。


 それを「主人公」が選んだ場合。

 その悪役令嬢ポジション、ライバルがまた聖女となるのは当然というものだろうか。

 「聖女」。

 それは神殿付きの魔法使いと説明するのが一番わかりやすいだろうか。

 帝国の宮廷付きや属国の王宮付きの、その神殿版だ。


 しかしやはり神殿とあるとおり、治癒魔法や結界などの護りを得意とする魔法使いが集められていた。

 魔法には適性、特性があり、治癒魔法などの適性があるものは、自ら神殿に身を寄せるものが多い。その方が先達たちからより多くを学べたりもするからだ。

 テオドールのように適性がありながらも剣の方に進みたいというものも当然いる。特性とはそうしたものだろう。

 国々にしても治癒魔法が使えるものが多くいてくれる方がありがたい。彼らがより高い治癒魔法や結界魔法を極めてくれたら助かるのは確かだ。

 そうした意味での寄付金もあつまり。そのあたりは上手く整えるのが上の役目。


 魔法による治療院は神殿預かりで、神官や聖女たち治癒魔法に秀でたものが派遣されている形だ。就職先としてまず安泰とはここに。

 そのような中、何故「聖女」という呼称が出来たかというと。

 神殿付きの魔法使いは女性ばかりではないのだが。神官たちとて魔法適性のあるものとている。

 しかしながらより魔力高い女性神官を「聖女」と、いつしか呼ぶようになったのだ。


 歴史の中。かつての大戦よりも前に。争いが大陸を覆っていた時代に。

 敵味方問わず、人々を癒した女性神官がいた。


 彼女を讃えて「聖女」という呼称ができたという。


 今では神殿ごとに一番魔力なり、成果を上げた女性神官を「聖女」と呼ぶように。

 名誉職である。

 けれども女性にとって憧れであり。

 治癒魔法や結界などの防御魔法に適性がある女性神官は、その名に相応しくあろうと修行を頑張るのである。


 

 神殿が祀る神々の中で、神殿では主神夫婦の他に医療の神を祀るところも多くある。

 神が多くあるこの世界で、祀る神によって神殿も特色が違う。

「神社も商売繁盛で恵比寿さんとかいろいろあったもんなぁ」

 と、メルヴィンは納得することにしていた。実のところよくわかっていない。

 自分のところの神殿は主神夫婦と医療の神、それと音楽、芸術の神を祀っていると聞いて「まあ、恋愛ゲームだからなぁ。良いBGMとイラストは必要不可欠」とも、納得。それらを伸ばすパラメーターもあったはず。

 ゲーム会社がお祓いに行くって本当かなぁとも、ふわっと気になったり。


 公爵家は自領に農耕神を祀る碑があるそうなので、そちらも大切にしなければ。普段は近くの領民たちが手入れしてお供えとかしてくれているらしいので、領地の見回りとかで訪れたらお礼言わなくては。



 そうして「聖女」、なのだが。

 もしも「主人公」が魔力の、治癒魔法系統へパラメーターを振り分けるなどをしてルートを決めたら。

 「聖女」となることを選んだのならば。

 そのライバル役となるのは当然それも聖女となる。

 しかも現役の。

 聖女ヘレネ。

 彼女はテオドールとユベールを相手に選んだときのライバル役になる――はずだった。


 年上のテオドールとユベールの相手だからか、ヘレネも当時、作中にはすでに聖女として活躍する年上の女性だった。

 「悪役令嬢」なるオーレリアが同い年なので、別ルートではまた趣向を変えたのもあるのか。

 ちょっと大人なやりとりも、ほんのり匂わせな全年齢作品というやつだ。


 さてさて。

 神官であるユベールとは、同じ神殿で活動しているのでそうした接点があるのだが。

 テオドールとは――いつどこで?


 それは戦場で。


 魔法があったりする世界なので、当然それによる生物というか――魔物なる存在もあったりする。

 また当然、騎士は討伐に。聖女や神官もその際は後方支援として同行する。そのあたりは国々と神殿との協力体制だ。協力しないと魔物の方が大変だ。


 テオドールが近衛騎士となる前に参加した魔物討伐部隊にて二人は縁ができ、そしてヘレネはほのかに……テオドールに恋する――そして騎士として活躍する彼を応援するという……。

 近衛騎士となっても危険はつきもの。王族をかばい傷を受けたら治すのはもちろん「聖女」の役目だ。

 「聖女」とは、神殿で最も優れた女性神官でもあるのだから。

 そのためにヘレネもまた聖女として日々研鑽を重ねる。密かに思うテオドールのために。

「胸キュンだぁ」

 かつて妹一号が「主人公」を選んでテオドール攻略をしていたときも、ヘレネの方にも幸せになってほしいと、横でみていた妹二号と一緒に頷いたものだ。

 なんせヘレネさんは「主人公」がテオドールと結ばれたら彼の幸せを祈って「聖女」の座を譲り、また別の神殿へと移っていくという。これはユベールルートでも。

 ユベールとでは神官として、互いに切磋琢磨するのが少しばかり違うだろうか。

 ユベールルートでは友情と恋情が入り混じり――しかし、彼が「主人公」と結ばれると、彼女はまた二人の幸せを祈って遠ざかる。

 なんていじらしい。


 ――の、だが。


 ここに、すでに、テオドールがルートから外れていた。

 ルートというか、シナリオというか、すでに彼の在り方というか――一人で、自分で、治癒魔法を高めてしまっていたのである。

 メルヴィンたちが「突撃! 隣りの(以下略)」していたことによって。



「騎士様! ああ、傷が――今、治します!」

 その魔物は手強く、後方支援であった神官たちの陣幕近くまで接近してしまった。

 負傷者たちが集められているから、その血の匂いに引き寄せられもしたのだろう。

 そして神官になったばかりだが討伐に参加していたヘレネに迫った――ところを、また同じ騎士になったばかりのテオドールがかばい傷を負った。

 魔物の爪はテオドールのわき腹を大きくえぐったのだ。

 ここまでは、シナリオとおりであった。


 ここまでは。

 テオドールがヘレネをかばったところ、までは。


「大丈夫! この程度ならば自分で!」

「え、自分で……て……この程度?」


 しかしテオドールは魔物にえぐられた腹に己の手を当てた。

 内臓すらはみ出しかけない大怪我を。

「……えぇあ?」

 それを自分で――治しちゃった。

 あっという間に。

 そして「逃がすかあ!」と元気に魔物を追いかけ走って行ってしまった。

 ヘレネの目が、信じられないと丸くなる。何ならまばたきも繰り返した。


 それは、その治癒魔法は。


「……私より、早い、んです、が?」

 ヘレネとて治癒魔法を日々高めている。聖女を目指して。しかし、テオドールの治癒魔法の方が上だった。その回復速度がその証。しかも精度も、遥かに上。


 騎士が――神官(自分)より。


 本来ならば、ここで治癒魔法を受けるテオドールとヘレネは互いを認識し、意識しはじめる。

 その、はず、だった……――。




「修行の旅に出ます。探さないでください。ヘレネ」


 そんな書き置きが、神殿に一つ残され。



 そうして数年後。

 大陸のあちこちで旅の「聖女」が人々を癒しているという噂が。

 彼女は「まだまだ、こんな早さでは……魔力も足りない……私程度を聖女と呼ばれるなど、畏れ多いです」と、人々の讃え感謝する言葉に引き留められず、一処に留まることを良しとしないという。

 大神殿では賞賛に値すると、彼女の後を追っているらしいが――。




 面子が足りないと知ったメルヴィンは、そしていなくなっていた当代の「聖女」枠に。

 その不在の理由を聞いて。そっとテオドールをみた。

「メルヴィン様、何か?」

 何か顔についていましたか、と。幼馴染たる王太子の後ろにいる近衛騎士は首を傾げるだけ。ヘレネ、聖女と聞いても反応なし。

 当然テオドールにはヘレネと出会い、互いに意識しあう記憶はなく。


「これ、ある意味……俺より強いやつに、会いに……な、やつじゃん?」


 この世界、聖女の方が脳筋枠であったと……――。



 だって書いてる奴が脳筋好きなんだもん。

 しかして、負けずに強くなるモンはおらん、のです。


 これにてまずは第一幕。

 次からは少し年月が経った後になります。


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