19 それもまた選択の果てを。(彼自身の真っ直ぐルート。
自分ではどうしようもできない非道い真実を知った人間のうち、その真実に押し潰されて立ち上がれない人間が多くいるというのに。
ユベールのそれからは。
彼はむしろあのタイミングで出自を明かされたのが良かったのだ。
まだ幼いと呼べるほど若く、まだ未来に希望を持てるタイミングだった。
神殿の腐敗という、汚らしいことにも素直に嫌悪を抱ける年頃であったことも。
彼はそこで様々な、自分が甘えて目を背けていたことに立ち向かった。
目を背けて見ていなかったことに
真っ向から。
生まれは不幸であろうとも、彼は神殿に来てからは甘やかされた状況にあったと気がつけたのだ。
実の父親という存在を、その正体を知ったことにより。
彼は自ら総本山たる大神殿に向かった。
まだ見習いのうちだったが、また一からすべてがやり直しになる。
今度は父親からの隠れた援助もない。
しかもそんな――不正をしていた者の子、しかも隠し子だというマイナスからのスタートだ。
むしろモーガンに護られ、甘やかされていた己を恥じるように。彼は修行に明け暮れた。
神殿に監査が入ったことにより同じように大神殿に回された子らを励ましながら、彼は修行を一からやり直した。
大神殿は地方の神殿よりも仕事も修行も格が違う。
真面目に、一切の手抜きや誤魔化しもなく。
ただひたすらに顔をあげて。うつむかないで。
人々に何を言われようとも――真っ直ぐに。
やがて彼は大神殿の神官長にまで登り詰める。
それは大神官とも呼ばれる――神官長の頂点。
神殿の最も偉く、皇帝すら時に膝を付く相手だ。
一介の属国の出身の神官がその座に就いたのは、彼が初めてであった。
彼の父とは違い、後ろも何も薄暗くなく――身も清らかなまま。
ただ、故郷のとある公爵家が折りにふれ無事を、不自由をしていないかと気遣ってくれたという。彼だけでなくこの時に大神殿や他の神殿に送られた孤児の子らも。
彼はそれに感謝し――決して恨み言の一つも口にはしなかったとか。
ユベールは生涯独身であったという。そのかわりに孤児の子らを引き取り、多くの子を育て上げた。
多くの子の「父」となった。
中にはまた彼の背を見て育ったと後を追い神官になった子や、世界に出て人々を助ける仕事に就いた子もいる。
ただ平穏に、幸せに暮らした子も。
彼ほど多くの子らに慕われ、見守られながら天に帰った神官はかつてないほどだった。
彼は歴史に名を残す大神官たちの中でも、最も慈悲深く、何より清らかな大神官であったと尊び記されていた。
――汚れた娼婦の子と呼ばれ続けながらも、彼は清らかで穏やかな微笑みを浮かべたという。
これはもしもの世界。
もしも「主人公」が「聖女」なる道を選んだとき。
神殿ルートとも呼ばれる。聖女ルートとも。
魔力を高めたのち、治癒や防御、結界という、人々を護る魔法方面を選択――この場合は学ぶことを選んだりと、道の開き方もコツがある。
学園に通いながらであるので難しい道であるというが。
その時にユベールも攻略対象となる。
白に近いような淡い緑色の髪に、透明な湖のような翠の瞳をした彼は、その神秘的な美しい容姿もあり、とても人気があった。彼のためにそのルートを選ぶプレイヤーも多くいた。
己の出自で悩む彼は、またそれにより謎めいた色気が。
それを「主人公」と共に、悩みやトラウマを克服するなどのイベントを越えて。
彼は「聖女」となった「主人公」と共に生きることでエンディングを迎える。
やがて彼はこの神殿の神官長へと――尊敬していた神官長の跡を継いで……。
――それが実は父親の跡を継いだこととなったのだと判明するのが、そのエンディングの後の世界だ。
彼は知らなかった。
自分の父親が汚い金を使い自分の後ろ盾となっていたことを。
そもそも、自分が彼の息子であったことも。
汚れた娼婦の子と呼ばれ続けたことを。乗り越えたはずのそれを最悪な形で世に出された。しかもその娼婦が神官長の愛人で、彼はその不義の子であることまで。
彼は神官長となって三日も経たずにその座を降ろされた。
彼の寵愛する聖女――そう、「主人公」はそういう形に見られていた――も、さては汚い手段で「聖女」の地位についたのではないかと疑いの目で見られた。
「主人公」の前にいた聖女も、彼らのせいで神殿を出てしまったのも。
真実の聖女を押しのけてその座についた。
真実の聖女を蔑ろにした。
そうして二人は堕ちていく。
そんな未来も、また在った。
これもまた――夢もなく。
幼い方が傷が少ないかもだけど、少なくても深い、てことはあると思います。でも最悪なタイミングで明かされるより…。
茄子うめぇです。この季節は水茄子の浅漬けでさらさらとお茶漬けするのが良きです。食わねばもたぬ。
とりあえず食欲だけはあったのが回復になったなぁ、と。
次にて一区切り。




