18 つめの甘さは致命傷に、いつかなる。
アレクシスは怖いことをしたなぁ、と目の前の少年を気の毒に思った。
けれども時に非情なことをしなければならない。それが貴族であり、公爵位を受けたものであり――子を護る父である。
だから同じ父親という責任感があるものとして、こうして訪れて、事実を突きつけていた。
生まればかりは彼には何も責任はあるまい。
責任を取るべきは彼を産ませることをした父親たるモーガンだ。
神官であるというのに。
彼にはちゃんと妻子がいるというのに。
「そ、そんな……皆、していることじゃないか……」
モーガンはいわゆる普通の神官だった。
彼以外にも、普通に寄付金を横領し、妻子以外に愛人を囲い、隠し子がいる神官もいる。
普通に。
それが普通に――神に仕えながら、今や地方神殿の神官たちにはそれが普通になっていた。
今回、それに踏み入れられてモーガンは「どうして自分だけ」と不満そうにした。
貴族たちだって国に納める税金をかすめ取ったり、それこそ何人も愛人を抱えているじゃあないか。隠し子だって。
モーガンは愛人は亡くなったが、その残った子をこうしてきちんと面倒みていると。そんなに自分は悪いこと、悪い父親ではないと、すら。
どうして神官だからと責められなければならない?
そう思ったが――目の前の大貴族はそんな中で愛妻家で真っ当な相手だったのだ。
普通は、逆であろう。
神官こそがそうであらねば。
不平不満を叫ぶ神官は、相手を間違えた。
そして彼はさらに間違えた。
そんな言い訳を口にするべきではなかった。そもそも言い訳などしてはならなかった。
今、この場で。
自分をほんの数分前まで尊敬の目で見ていた――息子が。
今や塵を見る目で。
まだまだ幼く、神は尊ぶべきばかりで。そして神官とは素晴らしい仕事だと、思い込んでいた彼には。
目の前で醜いばかりにすべてが壊れていく。
「娼婦の息子と、ずっと馬鹿にされて……」
「母様が死んで、でも、貴方が助けてくれたと……感謝して……」
「神様は、いるんだと……」
「そうか、母様……愛人だったんだ……そうか……そっか……」
娼婦の息子だ。
薄々は、自分がどうして父無し子なのかと理解していた。
きっと、仕事で誰か解らない種を運悪く、植えられてしまったのだろう。
運悪く。
その相手が、こんなところに。
「……娼婦は、大事な仕事でもあるよ」
あまりに気の毒になり、アレクシスは少しだけ。
娼婦を護る女神とている――同時に愛の神だ。
愛。
それは時に何よりも強く尊く――儚く脆く。
それなのに人を狂わせるほど恐ろしく。
人が動く理由にもなる。
愛とは。
それはなんて罪深くもあるのか。
帝国の影には及ばないのは先にも説明したが。コーディング家も諜報を扱う者たちを雇ってある。
そこでメルヴィンの夢の話を聞いた直後から、夢にでてくる少年らを調べ始めた。
息子の幼馴染であり、よく知る「王太子殿下」は。まだその「王太子」にはなっていなかった。だが妹第一の息子がついているならば大丈夫だろう。
何よりすでに娘の婚約者になってしまって。
メルヴィンも考えたように、一度はその婚約を白紙に戻すかとも話し合われたが、またそれは保留にしてある。
彼らが「魅了にかからないようにしようぜ!」と、互いに誓い、互いに見張り助け合おうとうなずきあっているからだ。
「王宮付き魔法使い」や「近衛騎士」も彼らが動いたことで何とかなりそうだ。
その際に、巻きこむべきではないのかも、と。テオドールという近衛騎士となる少年から思ったそうだ。
アレクシスも話を聞いて、テオドールに感心したものだ。
将来、彼のような立派な近衛騎士が王太子についてくれるなら安心だ。なんせ王太子――その妃になるのが愛娘。きっと彼には娘も世話になるだろう。
そして「帝国の影」を一人ほしいと、息子には珍しいおねだりをされた。
これは父として頼られ嬉しかったり。妻も親友に「家族」ができるとよろこんで。
そうしたところで息子は夢に出てきた「彼ら」のことは放っておくことにしたようだったが。自分たちがその魅了をどうにかすれば、彼らも無事なのだからと――。
――甘い。
息子、まだまだ甘いな。いやむしろ彼の年齢を考えたらこれくらいが可愛らしい。最近は妙に大人びていてちょっと心配でもあったから。
まだまだ子供。
まだまだ、自分を頼ってくれて、本当に嬉しい。おねだりだってもっとしてほしい。
ほっとしながらもつめの甘さは放っては置けず。つめの甘さは貴族にとってはどこから致命傷になるかわからない。
子の尻拭いは親の役目だ。
そうして、調べて。
何ということか神殿の腐敗も明らかになった。
これは王家と帝国、そして神殿の総本山たる大神殿とそれぞれ密やかに頭を抱え合うことになった。
属国にある地方の神殿の腐敗っぷりよ。
さすかに大神殿がまともで良かったと、そこだけは安堵できたが。
そこでまず、アレクシスがこの国の神殿への先鋒なった。
そう、先に明らかにすることにした。
何も知らない子供たちにはまだ、何の罪も罰もないことを。
これは貴族としてより――父親としてだ。
かわそうな境遇に、よりによってその父親によって置かれている子供が憐れだった。
同じ父親として――許しがたい。
だから、彼の出自を教えてやった。
厳しいことであるし、ユベールに恨まれる覚悟もあった。
けれどもそれはユベールを侮ったことになった。
彼は自ら選んだ。
父親とは知らなかったが、己を甘やかしていた存在から離れることを選んだのだ。
「私を大神殿に送ってくださいませんか?」
彼は、真っ直ぐに前を向いたのだから。
ルート…雪の女王編てのが世の中にはありましてな。より難しい…。
トマトうめぇです。シンプルにモッツァレラとカプレーゼにしたのも美味しいですが、炊き込みご飯やお味噌汁の具にしても美味しいです。




