17 神々のあれこれも世界によりけり。
ママがロシーク商会で微笑んでいるころ。
パパのアレクシスが向かったのは神殿。
かつてメルヴィンの予知夢を隠したところでもある。
よくある話だが、王家と神殿のパワーバランスは微妙なところにあるのも理由で。
ちなみに帝国もであり、宗教とはなかなか難しいものだ。
けれどもどんな人間も食わねば死ぬということで。神の足元に行ってしまうということで。そればかりは絶対だ。
国で大きな穀倉地域を持つコーディング公爵家は神殿にも多少は大きく出れる。こうして突然訪れて無下に追い出されたりはされなかった。
お前らの食卓からパン無くなるぞ。
なんてとても怖くて酷い脅し。
でもパパは大事な我が子のためなら怖いこともできるのです。
そう、こうして「責任者出てこいやぁ(意訳)」と、神殿の偉い人を呼び出せたり。
一番偉い人ではないので、そうしたところもあるけれども。
一番偉い人は、神殿の総本山のある大神殿にいる。帝国とはまた違う大きな存在だ。
ちなみに聖女なる存在もいる。
それはテオドールと――これからアレクシスが話す相手を「主人公」が選んだ場合の「悪役令嬢」ポジションになる。
そう、攻略対象の一人。神官ユベール――の、父親とアレクシスは話に来ていた。
この国の神殿を預かる神官長モーガン。
「さて、今日は一つご提案に参りました」
「……は?」
「貴方の息子であるユベールを大神殿に送りなさい」
挨拶も無しに本題に入られてモーガンは面食らう。
この国の王家の血を引く公爵は、その証である青い目を細めてモーガンを見下ろすように。
実際、アレクシスはモーガンを嫌っていた。メルヴィンの話を聞くまではまったく興味も無かった相手であるのに。
その理由。
コーディング公爵である彼は愛妻家である。
ついでに言うと子煩悩でもある。
だから聖職者であるのに――愛人に隠し子だなんていう存在を抱えているモーガンを軽蔑しまくっていた。
「……え、息子?」
そう、ユベールはモーガンの隠し子の一人だ。
偶然にも――最悪にも、この場に居合わせていた。
今は見習い神官として客人にお茶を入れていたユベールは驚いて茶器を落としかけた。
清貧が尊ばれるはずの神殿で、それはなんとも美しい花が描かれたもの。
モーガンはその指には宝石の付いた黄金作りの指輪をし、絶妙な小肥りだ。若い頃はととのった顔をしていたと面影がある――絶妙な。
ユベールが美形なのもまた血の繋がりを明らかに。逆に言えば攻略対象になる美形神官の父親が不細工なはずがない、というわけだ。年月は無情。
「おや、お気をつけを」
子には優しく微笑んで。
かわいそうなことをしたなとは、ちょっとだけ。
目の前の若い神官見習いは今日まで他の見習いたちに比べて自分にやけに優しく親切であった神官長の、その不思議もすべて謎が溶けて顔を青くしていた。
今もこうして側に置き、見習いのする掃除や雑務から遠ざけてくれていたのも。
その贔屓にはこんな理由が。
神殿は妻帯を別に禁止してはいない。
崇める神々が男神と女神であり、最高神は夫婦であるためだ。他に火や水などの神をはじめ、農業や鍛冶の神など、むしろ身近な神々が数多に祀られている。戦神や死神などまで。
だからといって、愛人まで神々が認めているかどうかは。
メルヴィンは神々が理解できるようになったころに「この世界、日本神話、エジプトやギリシャ神話みたいな? 神さまたくさん? でも男神さまは浮気しないんだ……」と逆に驚いてしまった。
「世界が違えば神さまも当然違うかぁ……僕を生まれ変わらせてくれた神さまもいるのかな?」
そんなことも考えたり。
主神であるご夫婦神は、仲睦まじいという教義。アレクシスはそこには寄付金をはずんでいる。
ギリシャ神話などはとくに「我こそは神々の血を引く英雄云々、子孫あれこれ」と名乗りたい為政者の説がある。
この世界は神々の血を引くと語るより、人間であることの分をまだわきまえているようだ。
男神様や女神様の子孫を語ったら、つまりは自分は神々の浮気の子でござい、となるのだから。
それはどれほど神の罰をくらうか。怒らせたらいけないと、きちんとわかっているのだから。
何より血統を大切にする世界で。自分が不義の子の末裔であるとは、何とも本末転倒な。
「……わ、わたしが……え、神官長……の……?」
ユベールの様子で神々がどう思っているかわかるよう。
今日、まさに――罰を。
ユベールは被害者でもあるだろう。
彼は神殿にある孤児院にて育った少年だった。
母は美しい娼婦だったという。
けれど身籠り、仕事を辞めたが……何故か母子で暮らすには不自由しない生活だった。
何故か。
しかし急な病で母は亡くなり、身内のいなかったユベールは母の残してくれた財産を葬儀代などあれこれと悪い大人に騙しとられてしまった。
けれどもそんな悲嘆にくれるユベールを何故か神は見放さなかった。孤児院に入れるようにしてくれ、今日まで気にかけてくださる方がいた――モーガンだ。
何故か。
母が娼婦ということで、他の見習いたちからは嫌われていた。
神官の中には貴族の子息など、身分の高いものもいた。高位の神官たちはそうした方々だ。
そして母にも似て美しいユベールは嫌がらせにも遭っていた。
それに気がついてくれたモーガンは、それらから守るためとユベールを自分付きとして、こうして側に置いてくれるようになった。
今の瞬間まで、感謝して、尊敬していた。
それが。その贔屓の理由が。
それは、彼こそが父親だったからだ。
自分は娼婦の息子で――神官長の不義の子だった。
神にも許されていない、不義の。
今回の子のエピソードはしんどいひとは無理なさらず。子供が不幸なのはしんどいですからね。
ズッキーニうめぇ…なのですが。
幼い頃は苦手食材だったのですが、某ネズミさんの美味しいレストランの「ラタトゥイユ」が美味しそうで食べてみたくなり。克服した食材です。まぁ今でもちょい苦手だけど、食べられないこともない、そんな存在。
人生、なにがきっかけで苦手克服する瞬間くるかわからないものですね。




