15 パッパとマッマもやってくれてた。
さて。
今のところ自分含め五人ほど魅了にかかると思われる人物をどうにかしてきたわけだが。
隠しキャラを別としてもう二人ほど、実はいた。
いた。
過去系である。
幸いなことにこの世界からログアウトしたわけではない。この国からはログアウトはしているが。
メルヴィンはテオドールに会ったことで「自分たちが頑張れば良いよね……いや、ゲルトルーゲ様頼みだけど」と、まだ関係ない他の攻略対象はそっとしておこうとした。
もちろんゲルトルーゲが間に合わなかった場合も考えつつ。
「そうだ、皆で帝国に留学しようぜ!」
幼馴染みの提案、それな、と。
「留学」と書いて「逃亡」。
逃げるのはまた戦術ですし。
「でもレオナルドは王太子になるんだよね……最終学年に自国にいないのは……」
「う」
そうだ。それに王太子が留学というのは中々難しい。いや、帝国ならば属国の王子が学びに行くのはありなのか。
「うう、メルヴィンだけでも安全圏に……お前だけでも先にいけ!」
「何で男気だすの!? 見捨てないよ! 逃げるときは一緒に……」
「それで俺が魅了にかかったら助けて!」
「あ、はい」
……でもそれ、別作品に巻き込まれそうです。パッパとマッマも、なんかそれっぽかったんだよなぁ……学園にお姫様が変装して通うってさぁ……。
そもそも、「主人公」が誰を選ぶかもわからない。
本当に無関係になるかもしれないのだから。
19には――ルカにはさすがに手をのばしたけれども。
そんなことを考えながらも、何とか通え始めた学園などにて「面子が足りない?」とメルヴィンは首を傾げることになる。
それはメルヴィンから話を聞いた父と母が動いたからだ。
二人は可愛い我が子たちが未来に大変な思いをすると聞いて――黙っていられるはずがなく。
ロシーク商会の長であるローグはコーディング公爵夫人の訪れに緊張していた。
ふるえながら。
彼は平民の一商人から成り上がり、先ごろ親の代からの念願かなって目出度く男爵位を購入することもできて。
さぁ、これからますます商売ルートを増やして頑張るぞと、意気込んでいたところ。
公爵夫人直々にお声かかりが。
そりゃあこれから貴族の仲間入りをしたことで、だんだんと伝手を増やしていつかは伯爵や侯爵とかの高位貴族にもお声をかけていただけたら嬉しな、なんて考えてはいたが。
いきなりラスボス来ちゃった。
メルヴィンだったらそう表現したか。しかも「ひのきのぼう」からこつこつレベル上げしてようやく「ロングソード」から、本当にようやく「名入り」にレベルアップしたばかりなところに。
妻は倒れた。卒倒した。
気持ちわかる。自分も倒れたい。
自分たちなんかやっちゃいましたかと、従業員たちも悲鳴をあげる寸前だ。
何せコーディング公爵夫人は、帝国の皇帝の姪。
実家も帝国では力ある公爵家だ。この国の公爵家とはまた規模が違い過ぎるが、畏れ多いことに変わりなく。
彼女の血筋を理解できないようでは、商売人として先をみていないと白状するようなもの。
まさか、ようやく念願叶ったばかりでそんなことをやらかすわけにはいかない。
彼は知らない。
もしもこのままであったとしたら。
幼いまだ四歳の孫が――主人公と悪役令嬢と同じ歳の息子が、そのまさかをしてしまうことを。
彼の孫は学園に入学して、割と早いうちから主人公と懇意になる。
同じ男爵位で気安くあったのだろう。
そして商会の跡取りであった彼はその財をもって主人公の手助けを――……。
商会の跡取りがどうして高位貴族の。しかも公爵令嬢で王太子の婚約者で、下手をすれば王太子より地位のある公爵令嬢を蔑ろにする仲間入りできるのか。
どれだけ彼女の兄や王太子が味方についたとしても、こんな属国の商会程度――すり潰されるのが簡単に思い浮かぶ。
ダスティン王の正気に戻ったあと、どれだけ余波があったのかと想像すると憐れみすら感じるのはこうしたところだ。
ガクガクブルブル。
生まれたての子鹿のよう……とは、直に見たフロレンツィアの感想だった。
「あら、あら、まあ……」
扇の先で口元を思わず隠して。それは笑いよりも呆気に取られたことを隠すために。
あらやだ、小者。
この店が後に、本当に娘の「敵」になるのかしら?
フロレンツィアはちょっと考えた。
直前まではすり潰ぶす方向かしらなんて、ちょっと物騒なことを考えていたのに。
ぷるぷるしているおじさんに、ちょっと――そう、憐れみを感じてしまったのだ。己の父と同じような年頃の男性をいじめる趣味は彼女にはない。幸いなことに。
「……そういえば、現時点ではまだ何も、なのよね……」
息子たちからも話を聞いている。
そして息子は未来を変える為に頑張っていて。
現時点ですでに数人は未来が変わっているとか。
あとはゲルトルーゲたちの魅了封じの開発待ちだとか。
今日自分は、その息子の手助けをちょっとしてあげようとしていたわけで。開発が間に合わなかったときのために先んじてちょっと対策を。
だから決して弱いものいじめをしたいわけではない。
なので、にっこり、と。
「……きゅう」
決して威嚇ではない微笑みを。
けれど時に美しすぎる笑顔は相手を何よりも恐れさせると――彼女はうっかり忘れていた。帝国の王族であったときに重々体験していたのに。
「……あら、まあまあ」
先ごろ奥方がそうなったように。
ロシーク男爵はとうとう限界を迎えてしまった。
「この方、これでよく貴族になれましたわね……」
ちょっと感心していまいつつ。
「本当にこの方のお店だったのかしら?」
息子の夢が外れたのかしら。それとも商会の名前を間違えたのかしら。
とりあえず、良くあることなので自分についてきた護衛たちにこうした時用の気付薬を使うように指示しつつ。
フロレンツィアが仕方無しに一度帰ろうとした時だった。
「公爵家の方がお見えですと!?」
「まあ、お義父さま。お客様の前で……!」
いや、気絶しているんだから心配してあげなさいよと自分がそうした側だがフロレンツィアが内心でついつい突っ込んだ。
「すみません。父の代わりに私が話を!」
「あら嫌だわ、旦那様。女性のお客様ですから是非私がお話を!」
ロシーク商会の次代たちはなかなかに図々しいようだ。
当代は高位貴族を、そして帝国をきちんと畏れることができたが。
目の前の跡取り夫婦たちは「せっかくのお近づきの機会を逃してなるものか」と、下心が輝くばかりの目をしていた。
……なるほど。
この小心者だがこつこつのし上がってきた正直者な父から代替わりしているわけか。
息子も確か、学園に入ってから自分たちはおかしくなるのだと言っていた。
その学園入るまでの間にこうしてまだ時間が。
少し考えて、フロレンツィアはにっこりと微笑んだ。欲に目がくらんだ者たちにはその頬笑みの怖さが通じない。
それはそれで、頼もしくはあるかと帝国で育った彼女は思う。それはそれで、これはこれで、だ。
欲望はないよりはある方が良い。
こうして使えるのだから。
「提案があって参りましたの」
にっこり。
笑顔が素敵なひとって良いな。
笑顔で脅しちゃうキャラって良いよね…ンンン。
引き続き…スイカうめぇ…。水分、糖分…。夏は夏に適した食べ物が、美味しい…これが、旬…。




