↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集灯町~廃校舎の七不思議~  作者: パパパパーン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/8

第七章 輪唱カノンの解放と白雪の光

【親の呪縛】


 影から放たれる重い気配が、

 ぼくたちの胸を圧迫するように広がった。


・・・赦さない。

・・・赦さない。


 二つの影から放たれるドス黒い言葉に僕達全員が気圧される。


・・・白雪を除いて。


 白雪は僕に抱きついたまま、決して離れず、影を睨みつけている。


「パパ!ママ!止めて!!!」


 カノンお姉ちゃんが叫ぶが、影はカノンお姉ちゃんを抱きしめる様に覆い被さり、囁く。

 その声は、地獄の底から響く様に冷たく、不安と悲しみを煽ってくる。


・・・・お前は私たちの夢。

・・・・お前は私たちの未来。

・・・・お前は私たちの全て。


カノンお姉ちゃんの肩が震える。


「・・・やめて・・・

 もう・・・私は・・・

パパとママの為に・・・・

・・・・ピアノを弾きたくない。」


 カノンお姉ちゃんの言葉を聞いた影は、黒より黒く、深淵の奥深くに吸い込まれる様に蠢き、カノンお姉ちゃんを縛りつけた。


「・・・やめて・・・

もう・・・自由に・・・させて・・・。」


・・・赦さない


 影は深淵を広げる様に床を這ってぼく達に近づいてきた。


「・・・やめて!

これ以上、誰も傷つけないで!!!。」


カノンお姉ちゃんが必死に叫んでるけど、影は止まる事なく近づいてくる。


・・・お前達の命が私達を甦らせる

・・・お前達、全員の命を代償に

・・・カノンは蘇り

・・・カノンはいつまでも

・・・私達の為にピアノを弾き続ける


影が音楽室全体を黒く染め上げる。

残るは、ぼく達がいる窓際だけだ。

カノンお姉ちゃんは深淵の底に沈む様に、影から顔だけを出してもがき苦しんでいる。


「もう・・・嫌なの!

あんな風に・・・ピアノを弾きたくない。」


影にカノン親子の記憶が映し出される。


 

幼いカノンがピアノの前に座り、泣きながらピアノを弾いている。

その横には、険しい表情で睨め付けるカノンの両親が立っていた。


「何度間違えれば気が済むんだ!!」

「練習が足りないからだ!!」

「プロになるんだろう!!」

「パパとママの為にプロになってくれるんだろう!!!」

「「私達の為に、ずっとピアノを弾き続けてくれるんだろう!!!!」


幼いカノンはピアノを弾き続けている。

両親の期待に応える為に、

両親に喜んでもらう為に

昔見た両親の笑顔を求めて


・・・・私達にその命を捧げなさい

・・・・それがカノンの為

・・・・カノンを幸せにする為

・・・・その命を捧げなさい


深淵がぼく達の目の前まで迫る。

後ずさるぼく達の背には、開け放たれた窓。


ママはまつりちゃんを抱きしめ、

黒羽ママも賽ちゃんを抱きしめる。

雷轟パパと雷斗とぼくは、雷轟パパを中心に両手を広げてママ達を影から守る。


「絶対に守ってやるからな!!!」


雷轟パパが空気を震わせるほどの大声で叫び、その身に雷を纏ってぼく達を守る。

震える足で、必死に影から僕たちを守ってくれている。


「絶対に死なせない」

「絶対に守る」

「絶対に見捨てない」


大人達が叫ぶ


「俺が雷斗の親父だからだぁーー!!」

「私が賽の母親だから!!」

「私が福大のママだから!!」


その声は影の圧力を押し返すほど強かった。


・・・・全てはカノンのため


影はさらに力を強めてぼく達に迫り来る。ジリジリ、ジリジリと窓際まで追い込まれる。


「やめて!

やめて!

もう!!やめてぇーーーー。」


カノンの叫びが音楽室を震わせた瞬間。

 

空気が凍った。


 息を吸うたび、胸の奥まで冷たさが染み込んでくる。


 深淵の影が迫るその前で、

 ぼくの腕の中にいた白雪が、

 ふわりと光を帯び始めた。


 最初は、雪の結晶がひとつ、

 空中に浮かんだだけだった。


 けれど次の瞬間・・・

 世界が白く染まった。


 雪が逆再生のように舞い上がり、

 白雪の小さな体を包み込む。


 光は冷たく、でもどこか懐かしい温もりを含んでいた。


 ぼくたちは思わず息を呑む。


 光の中で、白雪の輪郭がゆっくりと変わっていく。


 小さな少女の姿が、

 すらりと伸び、髪が長く、長く、銀糸のように揺れた。


 白い着物が風もないのにふわりと広がり、袖からこぼれる光が雪の粒となって舞い落ちる。


 その姿は——

 まるで冬そのものが形を持ったようだった。


 白雪が静かに目を開ける。


 その瞳は、氷のように澄んでいて、

 星のように優しかった。


 白雪が一歩踏み出すたび、

 床に雪の模様が咲く。


 深淵の影が触れた瞬間、

 黒は音もなく溶けて消えた。


 白雪はぼくたちの前に立ち、

 ゆっくりと腕を広げた。


 その動きは、

 まるで舞うように、祈るように、

 世界を抱きしめるように美しかった。


 白雪が腕を振るうと、

 雪の結晶が砕け、光の波が音楽室を満たした。


 光は優しく、でも抗えないほど強く、

 影を包み込んでいく。


 影は震え、

 伸び縮みしながら抵抗するが、

 白雪の光に触れるたび、

 黒が静かに薄れていった。


 その光景は、

 戦いではなく——

 冬が闇を溶かし、春を呼ぶような浄化だった。


・・・・カノン、助けて

・・・・カノン、消えてしまう

・・・・カノン、貴方の為なの

・・・・カノン、命が必要なの

・・・・全てはカノンのため


 カノンを包んでいる深淵は薄くなり、その力が弱まっていくのが分かる。


カノンは徐々に両親の呪縛から解放されていく。


「パパ、ママ・・・・大好きだよ。」


・・・・カノン、貴方が必要なの


 白雪の光がさらに影を包み、溶かし、静かに解いていく。


・・・・カノン、私のカノン

・・・・カノン、私達のカノン

・・・・カノン・・・カノン・・・カノン


 カノンお姉ちゃんの手に収まるぐらい小さくなった影は、抵抗せず、長い執着がほどけるように揺れた。


 カノンお姉ちゃんは涙を流しながら、

 影を抱きしめた。


「・・・パパ・・・ママ・・・

 私は・・あなたたちの夢じゃない・・」


涙が影に落ちる


「あなたたちの代わりでもない・・・

 私は・・私として生きたかった・・」


 影が揺れる。


「大好きだよ。パパママ。


 ギュッと影を抱きしめる。


「だから・・・

 もう・・・休んで・・

 もう・・・私を縛らないで・・・」


 白雪の光が影とカノンを優しく包み込む。

 影は静かに薄れ、音もなく、光の中に溶けていった。


 叫びも、怒りも、苦しみもない。

 ただ、静かな終わり。


 カノンの体から、

 重荷が落ちたようにふっと息がこぼれた。


 白雪がそっとカノンお姉ちゃんの手を握る。


 ぼくたちも駆け寄り、

 カノンを抱きしめた。


「・・・ありがとう・・・

 みんな・・・ありがとう・・・」


 カノンの涙は、

 もう悲しみの涙ではなかった。


 光の輪唱が、

 音楽室いっぱいに広がっていく。



【夜明け】


影が光に溶けて消えたあと、音楽室には静かな白い光だけが残った。


白雪はまだ『雪女』の姿のまま、ゆっくりとカノンのそばに立っていた。

銀白の髪がふわりと揺れ、白い着物の袖から雪の粒がこぼれ落ちる。

しかし光が弱まるにつれ、白雪の姿がふわりと揺らぎ始めた。

雪が逆再生のように舞い上がり、白雪の体を包み込む。

光が収まったとき、

そこに立っていたのは——

いつもの小さな白雪だった。

白雪は少し照れたように、カノンの手をぎゅっと握った。

 

「・・・もう、だいじょうぶ・・・」



 白雪から放たれた光が消えた時、影から吐き出される様に飛び出したのは、まつりちゃんのパパとママだった。

まつりちゃんパパ、万態祭太はスタッと体を起こして法被をヒラリと翻し、


「てやんでぇい!!何しやがんだ。一昨日きやがれ!!」


 と、捲し立てながら現れた。


まつりちゃんママ、万来笑美は笑い声を上げながら


「一昨日には来られませーーん。」


と大爆笑している。


万来祭太と笑美がまつりちゃんを見つけると


「まつりぃーーー!!」

「パパぁーーーー。」

「まつりちゃーーーん!!」

「ママぁーーー!」


三人は抱き合った。


「聞いてくれまつり。パパ達が、まつりを探しに行ったら、影が襲ってきたんだ。」

「そうなの、まつり。影が、カゲェ―――!!って襲ってきたと思ったら」

「思ったら?」

「パックんちょだよ。」

「パックんちょなのよ。」

「パックんちょ?」

「そうそう、パックんちょ。ディズニーキャラの絵が可愛いの。」

「いやいや、パックんちょは味が最高なんだ。パパが生まれる前からのロングセラーなんだよ。」

「パックんちょが?」

「パックんちょが。」

 

「パックんちょ。私も好きだったな。」


カノンが笑うと、祭太と笑美がカノンに振り向いた。

 

「・・・カノンちゃん?・・・」

「カノンちゃん・・・・?」


2人は驚きの表情を隠さないまま、ゆっくりとカノンお姉ちゃんに近づいていく。

いつもの明るさも、笑いも、大げさなリアクションもない。

二人はただ、静かにカノンの前に歩み寄り——

 

「・・・ごめんね・・・カノンちゃん・・・」

「・・・・ずっと・・・謝りたかったんだ・・・・」


深く、深く頭を下げた。

 

音楽室が静まり返る。

カノンお姉ちゃんも、僕達も、大人たちも、息を呑んだ。


「ごめんなさい。・・・許して貰えるなんて思ってない。一生憎んで貰って構わない。それでも謝らせて欲しい。

 ・・・ごめんなさい。一生をかけてこの罪を償っていきます。」


祭太は、心から自分の全てを出して謝った。

 

「ごめんなさい・・・・。・・・・許せないよね。・・・・憎んでるよね。当然だよ・・・・私だってもしカノンと同じだったら絶対に許せない、一生恨む。

 だから恨んで、だから許さないで。私達はそれだけの事をしたんだから・・・。カノンに一生消えない傷を負わせたんだから。だから一生忘れないで欲しい。私達も一生忘れないから。カノンにした過ちを私は一生忘れないから。」


笑美は涙を堪え、伝えられなかった想いをたどたどしく伝えた。

 

祭太と笑美は、心から謝り、震えながら頭を下げ続けた。


その姿につられるように、雷轟パパも、黒羽ママも、玲奈ママも、次々とカノンの前に立ち、頭を下げた。

 

「・・・カノン・・・すまなかった・・・」

「・・・守れなくて・・・ごめんね・・・」

「・・・あなたの痛みに・・・気づけなくて・・・ごめんなさい。」

 

音楽室に、静かな謝罪の声が重なっていく。


カノンは驚いたように目を見開き、

そして——満面の笑みで言った。

 

「・・・うん。」


 その一言は、赦しでもあり、前進でもあり、新しい始まりだった。


祭太は震える声で続けた。

 

「・・・あの日から・・・毎年・・・みんなでお墓に行ってたんだ・・・俺達が行ったの墓から見てたか?」


笑美は泣くもんかと、涙を堪えながら話す。


「カノンちゃんに・・・本当に・・・ごめんって・・・ずっと言いたかった・・・」

 

祭太は、顔を上げず流れる涙と鼻水をズルズル啜りながら床を濡らしている。

 

「・・・でも・・・本人に言わなきゃ意味ないよな・・・お墓に言っても仕方ないよな。

 ・・・・本当に・・・ごめんね・・・直接言えて良かった。」

「ごめんねカノン。」

「ごめんね。」「ごめんね。」「すまなかった。」「ごめんなさい。」「ごめん。」「ごめん。」


大人達の言葉で音楽室が埋め尽くされ、カノンは何度も何度も


「うん、うん、うん。」


 と頷いて泣いた。

 大人達も僕達も、みんなみんな泣いた。

 


その様子を、体育館の屋根の上から音楽室を覗いている存在がいた。


「・・・・こんな結末か?・・・・・つまんないな。」

 ・・・白雪、やっぱり君は最高だよ。」

 

暗闇の中で姿は見えない。ただ声だけが、冷たく、楽しそうに笑った。


「カノンの事、楽しんでくれたかな?」


クスクスと笑い、白雪を見つめている。

 

「また会おう。次はもっと楽しい舞台で

 ・・・・・愛してるよ・・・白雪。」

 

その声は、風音と共に消えてなくなった。



気づけば、音楽室の窓から朝日が差し込んでいた。


 長い夜が終わり、廃校舎灯影小学校の廊下に光が満ちていく。

白雪がぼくの袖を引っ張った。


 「・・・朝、来た・・・もう・・・大丈夫・・・」

 

カノンお姉ちゃんは朝日に照らされながら微笑み、ピアノを撫でる様に触った。


 「・・・こんな朝・・・また見られるなんて・・・思わなかった・・・。

  私・・・・朝が来るのが大好きだったの。朝の音楽室に行くのが・・・・一番好きだったの。

 こんな素敵な朝を迎えられるなんて・・・・夢みたい。」


カノンお姉ちゃんは、ピアノの前に座り姿勢を正してゆっくりと鍵盤に指を落とす。

そして、小さな女の子の姿から、昼間見た大人の女性へと姿を変えていく。

その姿は、まるでカノンお姉ちゃんが望んだ理想自分の姿みたいだ。


♪ポロロロロン♪

 

「バッハベルの【カノン】私の一番好きな曲。」

 

 朝日の中で響く【カノン】はまるで夜の終わりを告げる祈りのようで、どこか懐かしくて安心する。

 それに朝日に照らされたカノンお姉ちゃんは絵画に描かれた天使みたいに光輝いていて、僕達はあまりの美しさに目を奪われた。

 

♪ポロロロロン♪

♪ポロロロロン♪

 

朝日がカノンお姉ちゃんを照らす。僕達は演奏を聞きながら並んで窓の外を見た。新しい一日が始まるんだ。

僕達にとっても、カノンお姉ちゃんにとっても。


白雪の光が影を溶かし、音楽室には【カノン】の音色が響いている。

カノンお姉ちゃんは、ぼくたちに囲まれながら、朝日を全身に浴びて弾き続ける。

その表情は、長い長い夜を越えた人のように穏やかだった。

白雪がそっとカノンお姉ちゃんの肩をさわる。


 「・・・・もう、だいじょうぶ・・・・カノン・・・みんな一緒・・・」


 カノンは微笑んだ。涙はもう流れていない。

 

「・・・うん。ありがとう、白雪ちゃん・・・みんな・・・ありがとう・・・」

 

♪ポロロロロン♪ ♪ポロロロロン♪

♪ポロロロロン♪ ♪ポロロロロン♪


演奏が終わり、カノンお姉ちゃんは鍵盤からゆっくりと指を離す。すっきりとした表情で鍵盤を見つめて立ち上がると、僕達の方を向いて大きくお辞儀をした。


「・・・聞いてくれて。・・・・ありがとう。」

 

その瞬間だった。カノンの体が、ふわりと光を帯び始めた。

最初は、朝日の反射のような淡い光。けれど次第に、その光はカノンの輪郭を包み込み、

まるで空気に溶けていくように揺れ始めた。

 

「・・・え・・・?カノンお姉ちゃん・・・・?」

 

まつりちゃんが震える声で呼び、カノンは優しく微笑んだ。

 

「大丈夫だよ・・・もう、苦しくないから・・・。」

 

光が強くなる。カノンの髪が風もないのに揺れ、涙の跡が光に溶けて消えていく。

大人たちも、僕達も、誰も声を出せなかった。

ただ、その美しさに息を呑んでいた。

 

「・・・みんな・・・本当に・・・ありがとう・・・」

 

カノンの声は、光の中に吸い込まれるように小さくなっていく。

白雪が全てを知っているかのようにそっと手を伸ばした。


 「・・・カノン・・・また・・・」

 

カノンは微笑んだ。

 

「うん・・・またね・・・」

 

その言葉を最後に——カノンは光の粒となって、静かに、静かに消えていった。

涙が落ちる音だけが、音楽室に響いた。

 

誰も泣き叫ばない。誰も取り乱さない。

ただ、胸の奥が温かくて、苦しくて、どうしようもなく涙がこぼれた。

 

カノンお姉ちゃんは『いなくなった』んじゃない。解放されたんだ。

 

 長い夜が終わり、音楽室の窓から朝日だけがカノンお姉ちゃんのいた場所を静かに照らしていた。


 僕達は、光の中に消えていったカノンお姉ちゃんを想いながら静かに涙を流した。


こうして——

カノンお姉ちゃんと僕達の長い夜は終わった。



【灯影小学校解体】

 

僕達が音楽室を後にして校庭に出るとサイレンが聞こえてきた。

何台ものパトカーが校庭に流れ込んできて僕達の前で止まった。

 

パトカーから勢いよく出て来たのはパパだ。


「福大ぁぁぁぁぁ!!ママぁぁぁぁっぁぁ!!」


大声で泣きながら僕とママを抱きしめる。


「痛いよパパ。やめてよ。」


うわぁぁぁぁぁぁん!!


パトカーからはみんなの親達がどんどん降りて来る。

 

「雷斗!!あんた!!」

「母ちゃん!!」

「雷華!!」

「心配かけんじゃないよ。・・・・・無事で良かった。」

 

黒髪に金のメッシュが入ったロングヘアをなびかせて雷斗ママが涙を流した。


「賽!!黒羽!!」

「パパ!!」

「霊一さん!!」

「みんな無事だったんだね。本当に良かった。」

 

半透明で透けている賽ちゃんパパが白髪の長髪を振り乱しながらがスゥーっと近づいていく。


警察官と、町内会長の光代さんも出てきた。

 

光代さんは、ぼくたち全員の顔を順番に確認し、その場にへたり込みそうになった。

 

「・・・よかった・・・全員・・・無事だね・・・・」

 

その声は安堵で震えていた。

でも次の瞬間、

光代さんはバッと立ち上がり、いつもの『町内会長の顔』に戻った。

 

「アンタらぁぁぁぁぁ!!!灯影小学校には近づくなって言ったよねぇぇぇ!!」

 

怒鳴り声が校庭に響く。

 

でもその目は、怒りよりも『心底ホッとした大人の目』だった。


 警察官も苦笑しながら言う。


 「いやぁ・・・本当に心配したんだぞ。行方不明届まで出てたんだからな・・・・」

 

僕達は全員、怒られているのに泣きそうなほど安心していた。


光代さんは腰に手を当て、ぼくたちを睨みつける。

 

「いいかい、アンタら。昨日も言ったがここは立ち入り禁止だ。今日、灯影小学校は・・・・」

 

光代さんは一拍置いて静かに言った。


「・・・・解体するよ。」

 

ぼくたちは一斉に声を上げた。


「やだ!!」「壊さないで!!」「ここには・・・・カノンお姉ちゃんが・・・・!」

 

光代さんは眉をひそめたが怒鳴り返すことはしなかった。

代わりに、少しだけ優しい声で言った。

 

「・・・気持ちは分かるよ。でもね、これはもう決まったことなんだ。アンタらのためにも、町のためにもね。」

 

僕達は悔しくて、悲しくて、でも何も言い返せなかった。


光代さんはぼくたちの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

 

「まぁ・・・任せな。悪いようにはしないからね。」

 

その言い方は、怒っているようで、でもどこか安心できるいつもの光代さんの声だった。



警察官たちがぼくたちを外へ誘導する。

校庭には朝日が満ち、長い夜の名残がゆっくりと消えていく。


 ぼくたちは振り返って、最後にもう一度だけ校舎を見た。そこにはもう、カノンお姉ちゃんの姿はなかった。


でも・・・


 朝日の中で、音楽室がほんの少しだけ光った気がした。


 僕達は静かに歩きだして廃校舎灯影小学校を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。