第二章 夏休み初日、木の葉公園のラジオ体操
7月20日 夏休み初日
朝5時、1階に降りてリビングのカーテンをサァーっと開けると優しい陽の光が部屋中を満たしてくれる。窓を開けた瞬間、カーテンが揺れて朝の空気がリビングにサァーッと流れ込んでくる。
「あぁー、気持ち良い。」
少しヒンヤリとした空気が体を包んでくれて気持ちが良い。
窓から庭に出ると、眩しい日差しが僕を包んでくれる。
「うん、最高。今日もいい天気だ。んーーーー!」
と、両腕をめいいっぱい空向かってに伸ばして
「ふぅぅぅぅぅ」
と、息を吐いて両腕を降ろす。この深呼吸の瞬間がたまらなく好きです。
そしてもう一度息を吸い込んで巨大樹【木の葉】に向かって叫ぶ。
「白雪!!愛してるよぉーーー。」
僕は毎朝の恒例行事を終えて、ルンルン気分で家の中に入った。
ツーピー、ツーピー、惚気るなー
ツーピー、ツーピー、リア充はぜろー
バサバサっと庭の木に舞い降りた妖怪シジュウカラが、綺麗で透き通る様な声で鳴き出し、お腹の模様がプクッと膨らみ顔になって野太い声で喋り出した。
「おはよう。やぁ、今日も元気だね。」
僕はご機嫌だ。なんたって、今日から夏休みなんだから。
初めまして、集灯東小学校2年1組出席番号21番千葉福大8歳です。
男の子です。髪の毛はくせっ毛で顔は童顔って当り前だよ。小学生なんだから。
でも女の子に間違われる事もあるし、背の順で今まで一番前にしかなった事がない。
近所のみんなが「福ちゃん、福ちゃん」言うから余計に女の子に間違われるんだ。僕は福ちゃんじゃない福君だ。
身長だ!僕に足りてないのは身長なんだ。
だから毎朝配達される【ぽぽぽミルク】を必ず飲んでるのに全然背が高くならないんだよ。
八尺様の嘘つき!!
ぽぽぽミルク飲めば背が高くなるって言うから飲んでるのに全然背が伸びないじゃなか!!
今度はろくろっ首のお姉ちゃんに背が高くなる方法を聞いてみるか。
「さぁーて、今日も美味しく作りますか。」
キッチンにかけてあるお気に入りのエプロンには、集灯町のご当地キャラクター【ゆきのん】のアップリケが付いている。はい、自分でつけました。自作のオリジナルエプロンです。可愛いでしょう。このゆきのん、妙に白雪に似てて好きなんだよね。
ゆきのんは最近集灯町で出来たご当地キャラクターなんだけど、イベントやったりグッズを売り出したり結構活躍してるみたいなんだよね。
白影寺の白翁様達が中心になって作ったキャラクターみたい。【白雪神格化推進委員会】が作ったみたいだけど、かなり人気があるんだ。
先週、ゆきのんが集灯町の1日警察署長になって、小学校の交通安全教室にも来てたんだけど、着ぐるみのゆきのんが自転車に乗って車に引かれてたよ。
警察署長が引かれて大丈夫かな?って思ったけど、みんな笑ってたからいいのかな?
・・・いや、よくないだろう。
さてエプロン付ければ準備万端料理開始だ。
トントントントン。包丁で小葱を刻む音。
グツグツグツ。湯を沸かしている音。
料理を作ってる時の音って良いよね。大好きなんだよねこの音。なんかこの音を聞いているだけで心が弾む気がするし、ほら自然と歌っちゃうし。
♪愛されるよりも愛したい マ・ジ・で ♪
手際よく料理を作りながら、お気に入りの歌を歌う。朝から最高です。
まぁ強いて言えば、今日も、今日も僕は一人で、小学二年生の子供の僕が一人きりで、パパとママがベッドでスヤスヤ寝ているなかで黙々とキッチンで朝ご飯を作っているって事実が腑に落ちないけどね。
はぁ、パパとママの料理の腕を思えば僕が作るしないか・・・
パパは、どんな料理にでもニンニク、ショウガ、塩コショウ、味の素を入れれば美味しくなると思ってるから、出来上がった料理になんでもかけちゃうんだよね。あれ最悪だよ。パパの舌はバカ舌だから、いつか【垢なめのおじちゃん】にちゃんと見て貰わないと。入れるならせめてちゃんと味見てから入れろって話だよ。
ママはママで、冷凍食品とインスタントをこよなく愛してるし、美味しいのは分かるけど、僕の手作りの方が絶対に美味しいのに。
「ちょっとだから、ちょっとだから」って言いながらどうにかして冷凍食品を食べたがるんだよね。
インスタントもすぐに使うし。僕が料理できない時はしょうがないけど、僕が作った日に冷凍食品食べるとか信じられないよ。
でもあれだね、僕が作った料理を白雪に凍らせて貰ったらいいのかな?
「んー、良い匂い。」
オーブントースターからバターが溶ける良い匂いが漂ってきた。僕はパンには先にバターを塗って焼く派だ。この方が、バターの香りが際立って美味しいんだよね。
ジュゥゥゥゥッ!!
と音を立てているのは、フライパンに乗っているベーコンだ。ベーコンは少し焙るだけで脂が出るからそれで充分。ベーコンは少し焦げ目が付くぐらいが僕は好きだ。
ベーコンの上で、片手で卵を割る。うん、カッコいいな僕。マジで女の子なら惚れてまうやろ。いやいや、僕は愛されるよりも愛したい派だから、それに僕には好きな人がいるんだ。しかも両想いなんだぜ。
卵を片手で割る姿と卵が割れる音が僕の心を妄想の世界へと駆り立てる。
『福大・・・カッコいい。』
『ふっ!それほどでも・・・あるぜぇ』
「なーんちって、なーんちって。あ、カット野菜、冷凍庫に入れたままだ。」
と、独りごとをつぶやきながら冷凍庫を開ける。冷凍庫の一番上の段に白雪がスヤスヤと眠っていた。腕を枕に小さく丸くなり、氷のように透明感のある表情だ。
「白雪もうすぐ朝ご飯だよ、そろそろ起きな。」
白雪の寝顔を見ただけで自分の顔が綻ぶのが分かる。やっぱ白雪は可愛いな。
白雪の寝顔は、まるで氷の精霊みたいだ。
冷気の中で眠るその姿は、僕だけが知っている宝物。
冷凍野菜をを取り出し、白雪がビックリしない様にそーっと冷凍庫を閉める。
調理を再開すると、ふいに白雪の声が冷凍庫から聞こえた。
「福大・・・パン、8枚切りね。」
「はーい、薄い奴ね。厚切りは嫌いだもんね。」
「・・・バターはたっぷりね。」
「はいはい。たっぷりつけて焼いてるよ。」
「・・・コップ冷えてる?」
「今、白雪の隣にあるよ。キンキンでしょう。」
「・・・うん、これ気持ち良い。」
可愛いなぁ白雪は、冷凍庫の中から聞こえてくる声だけで可愛さが伝わってくる。白雪の姿を想像しただけで僕のニコニコが止まらなくなる。
僕は卵焼きをふわっと仕上げ、味噌汁を絶妙な塩加減で仕上げて、
「よし完成」
今日の朝ご飯は、みそ汁、ベーコンエッグ、パンかご飯、納豆。こんな朝食です。
チン!
トースターの音がすると同時に、冷凍庫の扉が少し開いて、手の平サイズの小さな白雪が寝ぼけ顔でちらりと覗く。
「・・・いい匂い。」
「おはよう白雪。パン焼けたよ。」
「・・・うん。おはよう。」
トーストをお皿に乗せてテーブルに置くと、白雪は僕の肩にちょこんと乗ってからテーブルに飛び移る。
白雪のパンのお供は数あれど、今日のお供はきっと
「今日はいちご」
ほら来た、いちごジャムだ。
「はい、いちごジャム。」
「ブゥー……いちごアイスぅ」
「白雪のブゥー顔最高に可愛い。OK。アイスね、アイス。って朝からアイスはないでしょう。」
「・・・嫌だ。いちごアイス。」
「はい。いちごアイスね。喜んで。」
冷凍庫から取り出したいちごアイスをたっぷりと白雪のトーストに乗っけると黙々と食べ始めた。
ダンダンダンと階段を駆け下り音がすると
「ガッハッハッハッハ!!おはよう諸君!グッドモーニング!!」
と元気いっぱいなのが、僕のパパだ。
「おー、今日も良い匂いだ。福大ありがとな。やっぱ料理は福大が一番だな。」
パパにちょっと遅れてママが来た。
「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁほわよぉぉぉぉぉぉぉぉ。きょーーーもあーーーがぁぁぁとぇぇぇぇぇ」
欠伸しながら喋らなくてもいいのにママはきっと「おはよう。今日もありがとうね。」と言ったのだろう。僕はママの通訳じゃないのに。
「よし、じゃあ、手を合わせて。頂きます。」
「「「いただきます」」」
パパは、目玉焼きにニンニクチューブをギュッと握って数㎝はかけて醤油をかけた。
「パパ、目玉焼きにニンニクかけないで!」
「これが最高なんだよ。」
「あ、みそ汁にしょうがチューブいれるな。今日の味付けは自信があるんだから。」
「しょうがが美味いんだよ。」
パパは、料理になんでもニンニクとしょうがを入れたがる、後は塩コショウもガンガンかける。どんなに美味しく作っても料理が台無しだ。
ママは無言で【味の素のインスタントみそ汁】にお湯をかけようとする。
「ママ、御みそ汁作ったんだから、インスタント作らないで。」
「ああ、ごめんごめん。じゃあ、」
「おかずもあるから冷凍をチンしないで。」
「えー、冷凍美味しいのに、今日は【のりっこチキン】食べようと思ったのに。」
「目玉焼きとお味噌汁とご飯があれば十分でしょう。はい、納豆。小葱いっぱい入れといたから美味しいよ。」
「ありがとう。福大はやっぱり料理上手よね。」
「そうですね。パパとママのおかげでこんなに料理が上手になりましたよ。」
「パパ、御みそ汁にニンニク入れちゃダメ。」
「しょうがじゃなきゃいいだろう。」
「しょうがもニンニクもダメ。そのまま飲んで。」
夏の白雪は幼稚園児ぐらいの背丈で可愛らしい。バターといちごアイスまみれの白雪がパンをカジカジしてる姿を見てるだけで幸せになれる。
「白雪、いちごアイス美味しい?」
「・・・うん。アイスお代わり。」
「早っ!はい。どうぞ。あと白雪には冷製スープね。」
「うん。」
「・・・どう?美味しい。」
「最高。」
白雪って無表情だけど、美味しいもの食べてる時は笑顔になるんだよな。そこがまた可愛い。可愛すぎる。
「ママ、冷凍はダメだって言ったでしょう。」
「えー、【ニチレイの冷凍焼きおにぎり】1個だけ。」
「ダメ。ちゃんと出された物を食べて下さい。」
「ケチぃ。」
「ケチじゃない。文句があるなら自分で作ればいいでしょう。」
「だって、冷凍ばっかり出したら福大怒るじゃない。」
「あ・た・り・ま・え・です。」
「福大。冷たい牛乳」
「はい牛乳。」
「早っ!福大、白雪ちゃんには優しいわよね。」
ママ、当たり前です。僕の中でパパやママよりも白雪が一番なんだから。
「福大は白雪が大好きだからな。ガッハッハッハッハッハ。」
だから当り前の事言わないでくれるかなパパ。僕は白雪のフィアンセなんだから。
「パパ止めてよ。白雪が恥ずかしがるでしょう。」
「ん?私・・・恥ずかしくない。私も、福大好き。」
「福大は春真っ只中だな。夏なのに。」
「福大、アイスお代わり。」
「はい。喜んで」
「さぁ、朝ご飯食べ終わったら、みんなでラジオ体操だ!!」
「「「おおーー」」」
僕達家族は、急いで身支度を始めて出かける準備をする。
白雪だけがのんびりとキンキンに冷えた冷たい牛乳を飲んでご満悦な様子だった。
ケポッ
白雪のげっぷも可愛らしい。
こうして、僕の小学二年生の夏休み初日が始まった。
【木の葉公園:ラジオ体操】
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
♪新しい朝が来た 希望の朝だ♪
スピーカーから集灯町全体に流れる【ラジオ体操の歌】。
毎年集灯町では、夏休み初日から夏休みが終わるまで木の葉公園で毎日ラジオ体操を行う。
もう何十年もやってる恒例行事だそうだ。僕も小さい頃から参加してる。
【ラジオ体操の歌】が流れる前から集まっている人もいて、公園の隅で酒盛りしてるお爺ちゃんやお婆ちゃん達がいる、あれも見慣れた光景だ。
木の葉公園は木葉をモチーフにした遊具が沢山あるんだ。
木葉巨大滑り台は、巨大樹【木の葉】の『枝』を模した、高さ15mの超巨大滑り台。
表面は木の葉の形状で、緑のグラデーションがとっても綺麗なんだ。風が吹くと、滑り台全体が「サワァァ…」と葉擦れの音を立てるのが面白い。
滑る速度は妖怪の子は高速、人間の子は安全速度。たまに木葉の精霊が「ヒュンッ」と追い越していくのが面白いんだ。
僕達はこの滑り台を【木の葉ジェット】と呼んでいる。
木葉特大ブランコは、巨大樹の根っこが地上にせり出してできた天然のアーチ。そこに太い蔓が吊り下がってるんだ。座面は木の葉の形で、漕ぐと風が巻き起こり、葉っぱが舞う
たまに風の妖怪が押してくれるから凄く高く上がるんだけど、絶対に落ちないんだ。
僕達はこのブランコを【空飛ぶ木葉ブランコ】って呼んでるんだ。
他にも、木葉大密林ジャングルジム、木葉超高速回転遊具、木葉絶叫吊り橋、木葉超絶アスレチック、木葉迷いの小路や木葉大噴水などなど、個性豊かな木葉パラダイスが、木の葉公園だね。
まぁ、昔からある公園でどこにでもある普通の公園だけどね。
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
♪喜びに胸を開け 大空あおげ♪
目的地は公園のど真ん中に鎮座する様に立っている巨大なクスノキ。
大きさ40mを超える巨大樹。木の葉公園のシンボルみたいな樹かな。毎年ここでラジオ体操をするんだ。
クスノキの頂点では当然の様に町内会長の光代さんが一升瓶を抱えて煙草をスパスパと吸っている。
光代さん朝から元気だなぁ。光代さんは、100歳を超えるお婆ちゃんらしいけど、どう見ても30代~40代ぐらいにしか見えない。黒のライダースーツを着て胸元が大きく開いてるんだ。おっぱいめっちゃ大きくて、凄く色っぽいんだよね。まるで峰不二子だよ。
皆、クスノキを中心に集まって、光代さんに手を振ったり、写真撮ったり、準備体操をしながら待っている。僕もパパとママと一緒にクスノキの前で準備体操を始める。
白雪は僕の胸ポケットでスヤスヤと睡眠中。夏の白雪はいつも手の平サイズで可愛らしい。昼間はだいたい僕の胸ポケットで寝てる。夜になると僕の肩に座るのがお気に入りのようだ。
それにしても朝6時なのに、真っ青な空から降り注ぐ太陽の光で、すでにムシムシ蒸し暑い。最悪だ、もう汗が止まらない。
それに朝からセミが五月蠅いし、
「ふわぁぁぁ。」眠い。
誰よりも早起きして家族の朝食を作る小学生って僕ぐらいじゃな?
夏休みはラジオ体操があるから、学校がある時より早起きしなくちゃいけないのっておかしくない?
「ふわぁぁぁ。」
僕のやる気は大きな欠伸と共に何度も空に散っていき、もうすでに空っぽですよ。
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
♪ラジオの声に 健やかな胸を♪
「福大ぁぁ!!」
雷みたいな猛烈な勢いで駆けて来るのは同級生の藤原雷斗だ。
って、また酷い格好で来たもんだ。
髪の毛が大爆発してチリチリになり、全身黒こげで【松崎しげる】なみの黒さで、全身が雷でビリビリと放電している状態で現れた。
「ちきしょう雷親父!毎朝毎朝、雷落としてんじゃねぇよ!」
「お前が俺の雷お越しを毎朝食うからいかんのじゃ。」
「雷お越しが美味いのが悪いんだろう。」
「まぁ、そうだな。母ちゃん。今度はもっと買っといてくれよ。」
「嫌だよ。あんたらあるだけ食べるじゃないか。仲良く半分こしな。」
「「嫌だよ」」
「はぁ、仲が良いんだか悪いんだか。」
雷斗のパパは、藤原雷轟。2m近い大男で、金髪に近い白髪の逆立った髪型だ。いつも雷斗に雷を落としている。
雷斗のママは、藤原雷華。黒髪に金のメッシュが入ったロングヘアで、クールビューティーとは雷斗ママの事だ。
それにしても藤原家は今日も賑やかだ。
「福大ぁ、福大ぁぁ!!」
「聞こえてるよ。」
「おっはよう!」
「おはよう雷斗。」
「雷斗、朝からうるさい。」
「白雪ちゃんもおはよう。」
今日の雷斗も元気いっぱいだ。
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
♪この香る風に開けよ♪
「おーい、福大、雷斗。おっはよー。」
両手をブンブン振りながらジャンプして近づいて来たのは同じく同級生の万来まつりちゃんだ。
黄色のTシャツにショートパンツを履いて元気一杯って感じだ。ポニーテールの髪が元気よく揺れてるのも元気の証ですか?
僕にはそんな元気もう残ってないんです。元気の押し売りは止めて下さいね。
「福大どうしたの?元気ないじゃん。眠いの?」
「二人は似た物同士なの?こんな朝から元気一杯な訳ないでしょう。」
「何言ってんだよ。今日から夏休みだぜ。もう夏休みってだけで興奮するじゃんか。元気ビリビリだぜ!!」
「いやいや、意味分かんないから。」
「そうよそうよ。ウキウキしちゃうわよね。」
「僕はウキウキしません。夏休みはのんびり図書館で涼んでたい派なんです。」
「なんだよそれ、爺ちゃん婆ちゃんだって皆外で遊んでんだぞ。俺達子供なんだから夏休みを満喫しなくちゃいけないんだ。それが子供の仕事なんだぜ。」
「そ・の・と・お・り。」
「「「うわぁぁ!!」」」
大声を上げ、腕をブンブンと振り回しながらビビりのまつりちゃんが逃げ出し、雷斗がビクンッと体を硬直させた。
突然、僕達三人の中央に姿を現したのは、同じく同級生の河原賽ちゃん。
サラサラの長い髪が綺麗で、少し大人っぽいいつも笑顔でいる子なんだけど、ホラーが大好きな変わった子でもある。ホラーを騙る時に前髪で顔を隠す癖があって、髪の隙間から見える笑顔がめっちゃ不気味なんだよね。
「賽ちゃん!!」
プンプンと怒りながらまつりちゃんが帰ってくると、ポカポカと賽ちゃんを叩きながら抗議している。
「脅かさなきでよ。なんでいつもそんな登場しかしないの!」
「まつりの反応が一番可愛いから♡もちろん雷斗も。」
「お、俺はビビッてねぇし。」
僕達4人は幼稚園からの幼馴染だ。いつもこんな感じでわちゃわちゃしてる。僕達の側には、僕のパパとママや、雷斗、まつりちゃん、賽ちゃんのパパとママも来ている。
「さぁ、ラジオ体操が始まるぞ。今日も元気にラージオー!!」
「キャハハハ!!パパ面白ーい。ラージオー!!」
まつりちゃんパパ、万来 祭太。
年中、法被を着て、頭にねじり鉢巻きをしている。とにかく明るい性格だ。
まつりちゃんママ、万来 笑美。
明るい茶髪のショートボブでいつも笑顔で笑ってる。
「きゃぁーーーー。
朝日に照らされた貴方の透け方・・・最高。」
「君の悲鳴は世界一だ。」
半透明で透けているのが賽ちゃんパパ、河原 霊一。
白髪の長髪がふわりと浮いてて、たまに足がない幽霊だ。
悲鳴をあげた賽ちゃんママ、河原 黒羽。
黒いワンピースがトレードマークで、心霊現象が起きるとテンションが上がるのは賽ちゃんと同じだ。
そんなパパやママたちはみんな同級生みたいだ。
世界って狭いよね。
気付けばもう数百人以上は集まっている。いつも思うけど、集灯町のイベント参加率良すぎない?
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
♪それ一二三♪
「お前等。」
光代さんの声がぼそっと聞こえた瞬間、場の空気が明らかに変わった。
ピーンと空気が張り詰め、セミの鳴き声も止んだ。小鳥の鳴き声も止み、僕達も話すのを止め、大人達も全員話すのを止めてクスノキの天辺にいる光代さんに注目した。
まるで世界が静止した様に静まりかえっている。
一升瓶を掲げてグビグビ飲み始める光代さんをみんなが注目している。僕もその姿から目を離せないでいる。
チュポンと一升瓶を口から外し、中指と人差し指に挟んだ煙草を口にくわえてスゥーっと煙を吸い込むのが見える。
そして一気に煙を吐き出す。その姿を数百人の住人全員が見つめている。光代さんが煙草の煙を全て吐き出し、一瞬の静寂のあと、
「愛し合ってるかい?」
「「「「「はい!!!!」」」」」
全員が言葉をそろえて返事をした。
「よし。ラジオ体操第一。はじめ。」
光代さんの声と共にラジオ体操が始まった。
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ミーンミンミンミンミン、ミーンミンミンミンミン
ラジオ体操第三まで終わって、スタンプ帳にスタンプを押して貰ったら終了。
スタンプの数で、集灯町商店街の商品券が貰えて、全部のスタンプを押して貰うと旅行券を貰えるんだ。
でも、夏休みに全部参加ってちょっと辛すぎない?毎年何人かは旅行券を貰ってるみたいだけど。まぁ、大人も参加してるからかな。
ラジオ体操が終わったあと光代さんから話があった。
「前々から言ってるが、廃校舎になってる灯影小学校の取り壊しが明日から始まる。
分かってると思うが、危ないから絶対に入るなよ。特にガキ共!
夏休みだからって羽目外しちゃいけないよ。分かったね。」
「「「「はい!!」」」」
この町で光代さんに逆らう人はいないだろう。だって怖すぎるもん。
光代さんから廃校舎の話が出た時、僕のパパママだけじゃなく、雷斗、まつりちゃん、賽ちゃんのパパとママの顔が一瞬曇った様な気がした。気のせいかな?
「よし、じゃあ10時にここに集合な。」
僕達は集まる時間を決めてそれぞれ家に戻った。
これから帰って勉強だ。
「じゃあ、僕達も帰ろう。」
パパとママと一緒に公園を出ようとすると聞いた事がある音楽が聞こえたきた。
ピアノの音だ。この曲はなんだろう?聞いた事ある気がするんだけど。
胸ポケットの白雪が、無表情で遠くを見つめているのが少し気になった。
「白雪どうしたの?」
「……」
いつもの無表情とは違った無表情だったが気のせいかな?もしかしたら
「白雪、お腹すいちゃった?帰ったら冷たいものでも作るね。」
「……はぁ。」
あからさまに僕に向かってため息をついた白雪は、ポケットの中で再び惰眠を貪り始めた。
「あれ?甘い物の方が良かったかな?」




