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26-2

「できない、と仰いますが。ですが、現実に人間と共存している魔族がいるのです」

 目の前に他の可能性があるのなら、その道を模索すべきではないか。敵は滅ぼせ、とは如何にも安易だと言えはしないか。

「くどい。そのようなわけがなかろう。まさか、その者がその魔族ではあるまいな?」

 何だろうか。イドリーは理性的で鷹揚な人物に思えるが、妙に魔族に関しては頑迷だ。魔族は人間に混じれないと言っておきながら、返す刀でお前が人間に混じった魔族かと言う。

(これは、過去に魔族絡みで何かあったか?)

 だとしたら同情はするが、だからと言って、魔族を全滅させようとするのを黙って見ていることはできない。仮に、イドリーにトラウマがあるとしても、大抵の魔族は、そのトラウマには関係ないはずだ。

「タクマは魔族ではありません。…魔族を全滅させると仰いますが、そのようなことが、本当に可能でしょうか?」

「無論だ。現にこうして、集落を全滅させているではないか。後はこれを繰返すだけだ」

「本当にそれで魔族が全滅するでしょうか。今、デルサイ王国では魔族による襲撃が増えています。貴方達から逃げて来た魔族ですよ」

 それもまた、虐殺を否定する理由の一つだ。生き残った魔族は、当然人間に恨みを持つだろう。報復して来たらどうするのか。さらに報復し返すか。そうなれば、永遠に続く報復の連鎖だ。

「そうか、それはすまないな。その魔族は貴殿らで殺してもらおう」

「あくまで敵対する魔族は、そうするしかないのですけれど。一部の者は、国内に入植してもらって生活していますよ。彼らも、人間と変わりません。どうか、考え直して頂けませんか」

「何だと!?」

「殿下、やはりこいつら、魔族の手先です!」

 入植させたと言っているのに。何故手先という解釈になるのか。

「…ふむ。デルサイ王国は魔族に与するか。ならばデルサイ王国も滅ぼさねばなるまい。シャーム、アーシャ」

「「は、お任せを!」」

 取り巻きの男女が古代魔術具を起動する。イドリーもだ。

「はぁ。何でそうなるんだ?」

 思わずため息を吐く。能力も人望もありそうなのに、もったいない。他人の話は聞くものだ。自分ひとりで知れることなど、高が知れている。自分の考えに固執すると、碌なことにならない。

 再び魔力シールドを構築。氷槍、石刃、電撃が襲いかかるが、シールドを貫けるものではない。

「なんだ、古代魔術具にしちゃ、大したことないな?」

「タクマさん、保管の魔術具をイメージしてますよね?あれが特別なんだと思いますよ」

「そうなのか。あんなのばっかだったら、古代文明恐ろしいと思ってたんだよ。ちょっと安心した」

 あんな古代魔術具がゴロゴロ出て来られたら、現代社会にどんな影響があるか、分かったものではない。

「安心しなくても、古代魔術具なんて、そうそう見つかりませんよ?さて。これで状況は整いました。反撃しますよ」

「オーケイ。頼んだ」

 シエラが魔力操作を開始する。その途端、アーシャと呼ばれたのとは別の女が声を上げる。

「魔力操作です!シールドを展開します!」

 イドリー達の周囲に、急速に魔力シールドが展開。シエラの電撃の魔術が放たれるが、シールドに阻まれた。4人共無傷だ。

 他国の王侯貴族を、そうそう殺してしまうわけにはいかない。相当威力を抑えたとはいえ、ダメージなしというのは強力なシールドだ。ただし。

 やはり、古代魔術具としては大したことがない。それに、この魔力シールドも、光が透過することは見た目にも明らかだ。ならば、対処は容易い。レーザを放って、瞬く間に3人を無力化した。拓真が2人、シエラが1人。使い慣れている分、拓真の方が早い。

「な、光って強いだろ?」

「はい、魔力シールドで防げないというのは便利ですね」

 話しながらも、油断しているつもりはない。何か動きがあれば直ぐに対応できるよう、警戒はしている。

「イドリー殿下。投降して下さると助かるのですけれど」

 シエラが呼びかけるが。

「まだだ。民のため、私はここで止まるわけにはいかない!」

 そこだけ聞くと、立派な志のようなのだが。いや、彼らにとっては、立派な志なのだろう。迷惑なことに。まあ、向こうにとっては、こちらの志が迷惑か。

 腰に佩いた剣を抜き、突撃して来る。拓真ではなく、シエラへ。捕らえて人質にしようとでもいうのか。剣術も修めているとは流石だが、それは悪手だ。

 上段から振り下ろす剣を、シエラは危なげなく躱す。返す刀も躱しざま、足を地面に擦るように大きく踏み込む。懐へ潜り込み、

「ふっ!」

 鋭い呼気と共に放たれる掌底が、イドリーの顎を跳ね上げた。

「おー、流石。もう達人の域だろ、それ」

 運動補助を使っているとはいえ、相手の攻撃の見切り、身体のバランス、力を効果的に伝える動き、いずれもタレス村の時より格段に進歩している。訓練を積んだからといって、誰にでもできる動きではないだろう。

「さてと。この人ら、どうする?」

「国王に委ねます。あの人も心労が多いので申し訳ないですが、働いてもらうしかありません。行方不明という手もありますけど、魔族の実態をその目で見て、折り合ってもらえたらと思います」

「うわ、行方不明ってのは物騒だな。その目で見てって、うちの集落を見せるのか?気は進まないんだが…」

「いえ、それよりも、国内に住む魔族に、魔族であることを隠して彼らの世話をしてもらおうかと」

「ああ、ある程度信頼を得たところで魔族だと明かすか。そっちのが良いかもな。でも、あれだけ頑なだと、効果あるかな?その魔族、ちょっと危険じゃないか?」

「武器の携帯は許しませんし、古代魔術具がなければ、魔術では魔族の方が優れています。大丈夫でしょう」

 話しながら、4人を縛り上げ、レーザで焼いた3人は治療もする。それが終われば、魔力球に包んで浮かせて運んで行くだけだ。

 これで、デルサイ王国への魔族の襲来は、当面なくなるだろう。イドリー達は、シエラの言うように古代魔術具さえ取り上げてしまえば、脅威にはならない。母国へ丁重にお返ししたい。強迫観念じみたところはあったが、国民を守るために敵を滅ぼすという考えは、必ずしも間違っていると断じれるものではないのだから。身内を優先するのは、生物が進化の過程で獲得した特性だ。だから、それに従うのが自然だと言うものもいれば、自然なのが良いとは限らないと言う者もいるだろう。進化の過程で得た本能的な特性に逆らうことができるのが、人間の本質と言うものもいる。そのどれかが正解というものではない。

 あるいは、どこまでを身内と見做すか、という問題と捉えることもできる。デルサイ王国は、魔族を身内に取込む方向を模索し始めた。だから、デルサイ王国からすれば、過去の襲撃と関係ない魔族を殺すのは罪だ。けれど、イドリーやナール王国はそうではない。イドリーに罪の意識はないだろうし、ナール王国もイドリーが魔族を殺戮したことに関しては罪としないだろう。そうした価値観の違いが、戦争に発展することもあるから厄介だ。価値とは主観的なものなのだから仕方がない面はあるが、それでも戦争は嫌だ。ナール王国も考えを改めてくれると良い。

 国際化が進めば、戦争は減って行くのだろうか。皆が似た価値観を共有すれば。だが、国際化が進んだ現代の地球でも、戦争はなくなっていなかった。そう単純な話でもないだろう。それに、価値観を統一するのが本当に良いことかという問題もある。ひとつの価値観に縛られるというのは、近代の帝国主義やファシズムのように危険を孕むものだし、その価値観に馴染めない者を排除することにもなる。狭量な社会は、酷く生き辛いものになるだろう。統一するとしたら、多様な価値観を尊重するという、その一点だけではないか。

 ヒトの遺伝子がもっと均一であれば、事はもっと簡単だったのだろうか。そうかもしれない。だが、遺伝子が均一であれば、環境の変化に適応できずに滅びるのだ。何とも、ままならないものだ。

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