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26-1

 魔族の集落を襲撃する人間のグループについて、シエラを通して国に報告してからしばらくの後。シエラから、そのグループの対処に向かうので同行をと頼まれた。わざわざ声をかけて来るのは珍しい気がしたが、国王から単独行はやめるよう釘を刺されたらしい。聖女シエラの代わりを務められる人物などいないのだから、当然と言えば当然ではある。ただ、足手纏いにならないという条件をつけると、かなりの難題だろう。実際、魔族に優る存在を相手にシエラをサポートできる人材となると、拓真かユミルくらいではないか。シエラを師とする魔術師もいて、実力を急速に伸ばしているようだが、まだ連れて行くには不安らしい。

 そうであれば、拓真が行くことに否やはない。国を荒らす原因を処理することに、躊躇いもない。古代魔術具を相手にすることに不安はあるものの、それ以上に古代魔術具には興味がある。

「それじゃ、言って来る。この集落のことは頼むよ」

「はい。タクマなら問題はないでしょうが、古代魔術具という点だけは少し心配です。気をつけて下さい。こちらのことは心配なく」

 ユミルは、拓真が不在の間、集落に入植した魔族の様子を見ることになっていた。魔族に常に監視が付く必要性は薄れて来たが、常駐する者は必要という判断だった。

 魔族達にも見送られ、拓真は入植地を発った。


 魔族の居住地域は、いくつか知られている。いずれも魔物の棲息域内、つまり魔力濃度の高い荒野だ。向かう先はその内のひとつ、デルサイ王国の東方に広がる広大な荒野の中だ。隣国との国境を成す荒野であり、タレス村近隣の魔物棲息域も同じ荒野の中に含まれる。ただ、そちらの魔物棲息域とは少し地域が違った。

「そういえば、国境って、この荒野のどの辺りなんだ?」

「この荒野自体が国境という考えですね。どこかに線を引いてしまうと、国境を超えて魔物への対処が必要になってしまうことがあります。それでは不都合なので、荒野に接する国は皆荒野に入れることになっています」

 なるほど、領有したところで資源も乏しいし、人が入植することも難しい。旨みがないのだろう。魔物や魔族の領土という見方もできる。

「じゃあ、国境侵犯は気にする必要ないんだな。それは良かった」

 仮に荒野の中に国境線が引かれていたとして、国境侵犯したところで、気づく者もいなそうではあるが。

 魔族の集落が存在する範囲は、正確には分かっていない。その中で、魔術具を濫用する人間を探さなければいけないわけだが、拓真もシエラも、タレス村の依頼の時より、格段に魔力感覚が向上している。さほど苦労せずに、そのグループを見つけることができた。

 そいつらは、丁度魔族の集落を襲っているところ、いや、拓真とシエラが駆け付けた時には、襲った後だった。

 集落は酷い有様だった。家は焼き払われ、そこここに魔族の死骸が放置されている。そこまで粗雑に扱って良い道理はないだろうに。

 集落の中央、広場であった場所に、その4人はいた。男と女が二人ずつ。いずれも身なりは良く、貴族と思われるが、一人明らかに格の高い男がいる。その男が声を発する。

「よし、ここも殲滅できたな。次へ向かうぞ」

 この男がリーダーなのだろう。他の3人が真剣な面持ちで頷く。すぐにでも移動しそうな様子だ。少し、家の陰から様子を見ようと思ったのだが。

「まあ、先手必勝かな」

「はい、と言いたいところですが。隣国の高位貴族、または王族かもしれません。騙し討ちのように攻撃するのは問題があります。まずは話をしなければ」

「だけど、こんな場所だぞ?手順を踏んだとしても、奴らに嘘を吐かれたらそれまでじゃないか?」

 録音でもできればいいが。そんな魔術もレコーダーも、ここには存在しない。

「ええ、あまり意味はないかもしれませんが。貴族というのは、嘘を嫌うものです。彼らがどれだけ、貴族としての誇りを持っているかに拠ります」

「そうか…。古代魔術具を使われる前に無力化したいところではあるんだが、落ち度は作らない方がいいか。悪いけど、俺は貴族の作法を知らない。基本シエラさんに任せることになるけど、いいか?」

「え?…あ、はい、そういうことでしたら、もちろん構いませんが…。てっきり、貴族出身だとばかり思っていました」

「故郷は貴族制じゃなくてな。さて、行くか」

 隠れていた壁から離れて姿を見せる。直ぐに相手が気付き、取り巻きの男が声を上げる。

「な、新手か!?おい、反応は!?」

「嘘、さっきまで反応なかったのに!」

「ちっ!魔術具、放て!」

「いや、待て!」

 リーダーの男が制止するが、一瞬遅い。取り巻きの男の持つ魔術具が起動する。

 だが、古代魔術具を相手にする以上、こちらも警戒はしている。魔力シールドの構築は始めていた。直ぐに強固なシールドが完成する。

 そこへ、無数の氷の槍が高速で飛来。一瞬、不安が過るが、シールドに阻まれて拓真達には届かない。思わず、ほっと一息吐いた。

「何、無傷だと!?」

 一様に驚く4人。そこへ、シエラが声を掛ける。

「いきなり攻撃とは、酷いですね。下手な魔術師なら、死んでいますよ?」

 リーダーの男が応じる。

「…失礼した。こんな所に人がいるとは思わなかったのだ。貴殿らは何者か?」

「デルサイ王国のセスト・ユリエス伯爵の娘、シエラ・ユリエスと申します。冒険者をしております。こちらも冒険者の、タクマです。遠方からデルサイ王国にやって来た者で、我々の礼儀作法には疎いので、失礼がありましたら、ご寛恕頂ければと存じます」

 礼を取るシエラの動きに、拓真も合わせる。

「なるほど、タクマとやらは、確かに作法には疎いようだ。だが、礼とは形ではない。礼を尽くさんとする心が重要であろう。気にせずとも良い」

「ありがとうございます」

 早速間違ったか。男と女で動きが違うとか、あるいは身分によって違うのだろうか。

「私はナール王国のイドリー・ザイド・ナールだ」

「ナール王国の第3王子でいらっしゃいましたか。ご高名は伺っております。宮廷魔術師の首席であらせられると」

 その言葉に、拓真は驚いた。相手の素性にではなく、素性を知っているシエラにだ。20年も封印されていて、封印を脱してからも聖女として忙しく動いていたはずだ。いつの間に隣国の事情など学んだのか。

「失礼ながら、お尋ねします。殿下は、魔族の集落を壊滅させて回っておられるのですか?」

「そうだ。古代の魔術具が複数手に入ったのでな。魔族など、根絶やしにしてしまえば民の憂いがなくなろう。これまて、一体どれだけの民が、魔族によって不幸に見舞われて来たことか」

 一見、尤もな理由ではあるのだが、言う程の被害があるだろうか。デルサイ王国とナール王国で事情は異なるかもしれないが、デルサイ王国では、魔物や魔族の被害よりも、人間による犯罪の方が余程大きな被害を出しているはずだ。

「なるほど、それもひとつのやり方ですね。ですが、魔族と共存する道もあるのでは?」

「何ですって!?こいつ、魔族の手先では!?」

「まあ待て。魔族との共存か。だが、魔族は我々の言葉を解さない。共存など不可能に思えるが?」

「交流のない私達の言葉を解さないのは仕方ありません。人間の町に紛れ、人間と共に暮らしている魔族もいることをご存じありませんか?彼らは人間の言葉を覚え、人間と意思を通わせていますよ」

 これは、デルサイ王国に入植した魔族から聞いた話だった。

「世迷い事を言うものではない。魔族が人に混じるなど、できるものか。魔族を根絶やしにせぬ限り、民の安寧はない」

(……民の安寧、か)

 確かに、それしか方法がないのなら、魔族を虐殺したとして、英雄と称えられるに足る理由だろう。民を顧みない王族よりは余程いい。だが。

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