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 拓真が開発した魔術の内、最も難しいものは、不老の魔術だろう。

 元々、ユミルをひとり残すのは忍びないという思いはあったものの、そんなに強い思いで開発を始めたわけではなかったのだが、道筋が見え始めたところから、単純に面白くて辞められなくなった。

 不老、つまり老化しないということだが、老化とは何だろうか。生物は、生きている限りDNAに損傷を生じ、細胞や組織にも損傷や老廃物が蓄積して行く。DNAが損傷して細胞や組織の修復が滞る、あるいはそもそも修復できない損傷や排出できない老廃物が細胞や組織に蓄積して行く。老化とはそういうものだと考えられる。だから、DNAと細胞、組織に蓄積した損傷と老廃物を除去してやればいい。では、損傷のないDNAや細胞とはどんなものか?老廃物とは何か?どうやって損傷のない状態を作り出すか?

 魔術で複雑な分子を作ることは難しい。けれど、細胞サイズくらいならば、そしてそこにあるもののコピーを作るならば、難易度はかなり下がる。それでも難しいことは難しいのだが、ゼロから作るよりは遥かに楽にできる。高度とされる魔術の一部で実際に利用されてもいる。例えば、回復魔術は傷口周辺の細胞をコピーして身体組織を治して行く。どうして奇形にならず、元通りに修復されるのかは分かっていない、というか気にされていない。拓真は、身体に備わった機能を利用していると考えている。身体組織には、定められた形状になるためのプログラムが存在すると思う。

 DNAや細胞のコピーは作れる。ならば、損傷を受けていないDNAや細胞を複製し、損傷したものと置き換えてやればいい。では、損傷していないDNAや細胞とは?

 DNAは、体内にコピーが沢山ある。それぞれ損傷を受けてはいるが、同じ部位に損傷を受けているDNAは少ないと考えられる。だから、DNAの多数決を取ってやれば、損傷を受けていないDNAを見出せるだろう。問題は、DNAシーケンサなど存在しないこの世界で、どうやってDNAの配列を比較するのかだ。これが、物質コピーの応用でできた。

 物質をコピーするといっても、どんなものにも適用できる「コピーの魔力変換」というものがあるわけではない。コピーしたい物質中の魔力の流れを細部まで模倣した上で、そこにあるであろう原子を作るように魔力変換する。この時、魔力変換を最後まで全てコントロールしようとしないのがポイントだ。予め作った魔力の流れに沿って自然と原子が配列され、コピーができてしまう。不思議な現象だが、分子構造や各種分子の分布を意識しなくても良いのだ。

 さらに不思議なことは、オリジナルから遠く離れた場所で同じことをやっても、コピーは作れないということだ。恐らく、魔力の流れ以外にも、何か未発見の条件が一致しないといけないのだろう。これは不便なようでいて、DNAの多数決という目的には便利だった。まず、任意の体細胞を取出し、そのDNAをコピーする。同じ魔力操作で別の細胞のDNAをコピーできるかどうか。それでDNAの一致性を比較できる。その魔力変換が、全然ダメなのか、行けそうな感じがするのか、あるいはコピーできるけれどやり難いのか、コピーし易いのか。その感覚によって、類似度もある程度判断できた。

 細胞も、損傷の少ないもの、多いものが体内に存在すると考えられる。だが、これは多数決で良いのだろうか。最も損傷の少ない細胞は、幹細胞から分化したばかりの細胞、あるいは幹細胞そのものではないか。それらは、明らかに細胞の中で少数派だ。そこで、失礼ながらユミルの細胞と類似度を比較させてもらった。ユミルは、身体年齢が40代前半くらいだ。一方、拓真はその時30を少し過ぎたところ。ユミルの一般的な細胞から遠いものを採用すれば、それが損傷の少ない細胞ではないか。逆に、より年老いた細胞という可能性もあるだろうが、可能性は低そうだ。局所で何度か試せば、損傷の少ない細胞を見出せるだろう。そう思って試してみて、うまく行った時には思わず拳を握りしめたものだ。

 最後に、細胞外に蓄積された老廃物。例えば、血管の内壁に沈着した脂質。案外、これが厄介だ。魔術は物質を作ることはできても、特定の物質を狙って消すことは難しい。魔力を物質に変換できるなら、その逆もできるのではという気はするのだが、その方法を、拓真とユミルはまだ見つけていない。幸い、拓真の体内にはまだ大きな問題になるレベルの老廃物は蓄積していないだろうし、体組織が若ければ排出してくれるのではないか。これについては、一旦対策を諦めた。

 方針が出来上がれば、後は魔力操作を精密に、大規模に実施するだけだ。だけと言っても、これがまた難しい。細胞くらい複雑なものをコピーするには、精密な魔力操作を必要としたし、細胞を1個1個コピーしていたのでは、途方もない時間がかかってしまう。生きている間に終わらない。日夜魔操力の訓練をする必要があった。より精密に。より大規模に。魔術の効果をイメージして魔力操作する方法にも慣れる必要があった。イメージを利用して大まかな魔力操作を行い、細部を直接的な魔力操作で整えるのだ。

 最終的に完成と言えるレベルになるまで、10年以上の歳月を要した。術の特性上、任意の年齢に若返るというわけにはいかないが、部分的に術を試しながら完成させて行ったから、身体年齢は開発を始めた頃より多少若くなった。20代前半か半ばというくらいだ。あくまで不老の魔術であり、若返りではないわけだが、元々、考えるのが面白くて開発していたようなものだし、一応の目的も長く生きることだ。若返りには今のところ興味がないから、これで十分だった。

だいぶ苦しいですね。色々とツッコミどころはありますが、拓真がうまくやったのでしょう。すごいね。

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