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これ以降、魔力はユミルの定義に統一、シエラの言う魔力は魔操力と表記します。

 タレス村に着いた拓真とシエラは、まず村長の家を訪ねた。引き摺って来たフレイムベアを目にして、村長が驚きの声を上げる。

「なんと、既に一頭仕留めておられるとは、流石ですな。タクマさん、先回はお世話様でした。今回もよろしくお頼みします。聖女様も、おいで下さり誠にありがとうございます」

「いえ、たまたま探索範囲にいたというだけのことです。それより、残りの魔物も早急に倒し、そして魔物出現の原因を明らかにしないと」

「おお、お願い申します。お聞きとは思いますが、村を襲ったフレイムベアは、5頭でございました」

 残り4頭。事前に得た情報通りだ。ただ、それで全てとは限らない。棲息域から溢れた魔物が全てタレス村を襲ったと断定するには、タレス村は魔物棲息域から遠過ぎる。

「分かりました。すみませんが、部屋だけ使わせて下さい」

 タレス村のような、魔物棲息域に近い村には、時折冒険者が調査に訪れる。けれど、このような小規模な村に、貴族を宿泊させられる宿などあるはずもない。だから、村長宅に部屋が用意されることが多かった。タレス村も例外ではない。

 村長宅といっても、貴族の一般的な生活水準に比べれば様々なものの質が格段に落ちる。冒険者の人気が低い要因のひとつだった。さっさと非貴族階級に魔術教育を開放すればいいのに、と拓真は思うが、平常時はそれでも冒険者の数がなんとか足りているから、動機として弱いのだろう。

「食料は持参してますし、身の回りのことは自分でやりますから、お構いなく。シエラさんも、いいよな?」

「ええ、大丈夫です」

「それはまた、ありがたいことです。いかんせん、物資は不足しておりましての」

「と言っても、明日の朝には調査に出ますけどね」

 部屋は、数部屋を持つ離れを丸々貸し与えられた。狭いながら炊事場もある。通常は使用人として村民を誰かつけるのだろうが、拓真はいつも断っている。災害救助に来て手間をかけさせては申し訳ない。それに、構わないでもらった方が気が楽だ。

 引き摺って来たフレイムベアは、村長に譲った。買取ると言われたが、支援物資としてと言うと、恐縮しながら受取ってくれた。復興作業者向けの炊き出しに使われるだろう。


「フレイムベアの捜索は明日からという話でしたが、今日はこれからどうします?」

 荷物を置いたところで、シエラから尋ねられた。

「今日は、村で襲撃の現場確認と聞き込みだな。3週間も経ってて今更ってのはあるんだけど、だからこそ少しでもフレイムベアの居場所に当たりをつけたい。フレイムベアがどっちから来て、村の中でどう動いて、そしてどっちの方角へ去ったのか。それで、最初の捜索範囲を決めよう」

「そうですね。確かに、闇雲に探すには範囲が広過ぎます」

「まあ、結局闇雲に近いけどな」

 ついでに、聞き込みは冒険者が来たことを周知する狙いもある。これで解決に向かう、と少しでも安心材料になってくれればいい。

 タレス村は小規模だから、被害に遭った区画はすぐに見つけられた。一目見て、損壊の激しさに、驚くより先に訝しむ。

「こんなに…?」

「ああ、おかしいな」

 数軒の家が全壊している。魔物というと、生物と見れば襲いかかる凶悪さと、固い建造物も意に介さず破壊する強靭な肉体を持った存在をイメージし勝ちだが、実態は魔術を扱う生物というだけでしかない。フレイムベアだから、木造の家が焼けたというならまだ分かる。けれど、タレス村の家はレンガ作りだ。ここまで破壊する道理が見当たらない。この世界、魔術などというファンタジーは存在するが、それは物理法則を無視するようなものではない。生物の身体がレンガより固いなどということはあり得ない。フレイムベアだって、殴れば当然痛いはずだ。怪我だってする。事実、欠けたフレイムベアの爪がいくらか見つかっているそうだ。

 襲撃の跡を見ながら村民を捕まえて質問して行く。以前の討伐の際に見知った顔も多いから、話は聞きやすい。フレイムベアは、防壁の一部ーー魔物棲息域に近い村には必ずある簡素なもの。既に修復されていたーーを破壊して村内に入り、激しく暴れたらしい。

 調査の結果、フレイムベア5頭は荒野の中心の方角から来て、うち4頭は概ね同じ方角に戻って行ったことが分かった。残りの1頭は村を通り抜ける形で去って行ったらしい。タレス村に来る途中、シエラが倒した個体だろう。気になるのは、魔物が侵入した地点から、途中までは器物の損壊が酷いが、1頭が去って行った方向は、破壊の跡がないことだ。村民の話では、5頭が暴れるうち、1頭が逃げるように村を通り抜けて行ったらしい。残り4頭も、しばらくすると急にぴたりと大人しくなり、荒野の方角に戻って行ったと言う。

 一通り話を聞いた拓真とシエラは、貸し与えられた離れに戻った。

「さて、と。どうやら裏に何かあるってのは確実になって来たなあ」

「ええ。何があるかは分かりませんが、フレイムベアの行動には不審な点が多いです。裏に魔王軍の残党がいる、という可能性は考えておいた方がいいかもしれません」

「ああ、確かに侵攻地点に割と近いし、時期的にも魔王が倒された直後くらいか?シエラさんが魔王を倒したのって、どこだっけ?」

「ここから徒歩ですと2日くらいでしょうか。…残党が流れ着いたと考えると、早過ぎる感じがしますね。侵攻に合わせて何か準備したけれど、丁度魔王を倒してしまったという方があり得るでしょうか」

「うーん、可能性のひとつとして、心構えはしておくくらいか。結局、魔族が関わってるとして、じゃあ何をどうしたらフレイムベアがここを襲撃するのかってとこがまるで分からない」

 全然的外れという可能性も大いにある。

「何にせよ、まずはフレイムベア残り4頭だな。根本原因の調査はそれからだ」

 言いながら、地図を広げる。

 タレス村から西方には、街道が伸びてその先にガレル町。反対側、タレス村の東方は、隣国との国境に接する広い範囲が線で囲まれている。

「これが、大まかな魔物棲息域だな。フレイムベアが来て、去って行った方向に真っ直ぐ進むと、その中心辺りに行き着く。で、丁度この辺りに……あった、これだ。フレイムベア達の縄張りがある」

「これは、すごいですね。魔物棲息域内の情報がこんなに」

「だろ?書いたのはほとんど俺の…師匠?だよ」

「?どうして疑問形なんです?」

「いや、家族みたいなもんだからな。師匠って呼ぶのは違和感が…」

 かといって、親子や兄弟というのも違うが。友人、仲間、同志……どれもしっくり来ない。まあ、関係性に無理に名付ける必要もないだろう。言葉にすると逃げて行く、そういうこともある。言葉とは、複雑な世界を簡素に表現するモデルなのだから。

「それで、フレイムベアな。真っ直ぐ来たとは限らないけど、縄張りから来て縄張りに帰って行った。ぱっと見はそう見えるな。だから、まずはここから縄張りまでのルートを捜索してみよう。それで見つかる可能性はそれほど高くないと思うけどな」

「はい。では、見つからなかったら、次はどうします?」

「ああ、そうだな…。このフレイムベアの縄張りってのは、地面に起伏があって、所々に実をつける灌木が立ってる土地だ。熊ってのは、元々森に住む生き物で、主食は木の実らしいからな。それに、起伏がある方が、巣穴を作りやすいんだろう。だから、フレイムベアもそういう場所を選んで住み着いた、と思われる」

 この世界の熊が地球の熊と同じ特性かは知らないが。

「熊と好みが似ている、ということですか?確かに見た目はそっくりですが…」

「あー、そうか、進化論もないんだっけか」

 ざっと説明する。遺伝と遺伝形質の変異、子孫を残す確率の高い特性が自然と選択されて残ること。

「荒野の北西、レイナード町の方は森林地帯になってるな。その一部には魔物でない熊がいる。それが荒野、つまり魔力の濃い土地に渡って、環境に適応したのがフレイムベアじゃないかと思ってる。今のフレイムベアは、植物食が主流ではなさそうな感じがするけど、それも荒野に適応した結果かもな。ただ、荒野に来た当初はただの熊だったはずだから、縄張りを決めるのは多分熊の特性に従っただろう」

「すごいですね…。そう考えると、色々なことに説明が付きそうです」

「そうだな。実際、色々と説明が付くから、俺の故郷では主流の理論だよ」

「ちょっと待って下さい。これもですか?タクマさんの故郷の知識、凄過ぎません?」

「まあ、そうだな。こういう、世界の成立ちを明らかにしていく学問を『科学』と呼んでたけど、『科学』はここより遥かに進んでた。凄いとは俺も思う。ただ、それはそれで、色々と問題も抱えてたから、良い事なのかどうかは、評価が難しいけど」

 様々な環境問題や核兵器などといった人類にとっての脅威は、科学や技術が発達しなければ出現し得なかったものだ。

「そうなんですか…?あ、では、魔術理論も進んでました?」

「いや、魔術は発見すらされてなくてな。それはこっちに来てから、教えてもらったり検証したり」

「魔術がない、ですか!?……そうですか……」

しょんぼりしてしまった。

「あははっ。新しい魔術理論が聞けると思った?」

「あ、いえ、そのー、……まあ、はい」

「勉強家だな、素晴らしいじゃないか。それなら、安心してくれ。『科学』的に見た魔術理論、なんて、中々面白そうじゃないか?俺と、師匠、のオリジナルにはなるけどな」

「あ、それいいですね!聞かせて下さい!」

 何だか、既視感を覚えるやり取りだ。やっぱり、ユミルと近しいものを感じる。

「オーケイ。俺も、シエラさんの魔術理論は聞きたい。情報交換といこう。その前に、フレイムベアはどんな所を探すのがいいかって話だったな。やつらは灌木や起伏のある土地を好むらしい、だから、初手で見つけられなければ、そういう場所を重点的に探そう」

「そうでした。すみません…。分かりました。では、魔術理論、聞かせて下さい!」

「分かった。それじゃあ……魔術ってのは、まず魔力を感覚し、操作し、そして多くの場合魔力変換によって、望む現象を引き起こすものだな。多分、シエラさんが聞いて一番面白いのは魔力変換だと思うから、そこから話そう。この国の魔術師が使っている魔力変換は、要素的な変換に分解できる。例えば、シエラさんが使ってた迅雷だけど。そもそも雷ってのは、『電気』っていうエネルギーの流れでな」

 電気という概念を持たない者に、電気を説明するのは難しい。ユミルに説明する時、酷く苦労したことを思い出す。今回は2度目だから、多少はスムーズに説明できそうだった。

「ーーお互いに引き合う2種類の『電気』がーーそれを大量に作るとーー」

「ーーええ!?ーーああ、なるほど!」

「そう。だから、そういう要素的な魔力変換を組み合わせればーー」

「魔術の応用が自在になりますね!それじゃあ、それを細く絞ってーー逆に分散させたらーー」

「ああ、それは思いつかなかった。面白い発想だな。それならーー」

 そうして自然と議論に発展して行くのも、ユミルの時と同じだな、と思った。

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