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次に向かったのは、国内外に拠点を構える大手交易商会だ。商人達は、下手な冒険者よりも近隣の様子に詳しい。大手故に、タレス村のような小規模な村と直接の取引はなかったりもするが、取引機会と積荷の安全に関する情報は交易商の生命線。それなりの情報網は持っているものだ。広範な情報を得たいなら、大手交易商が最適と拓真は考えている。それに、この商会には、知合いもいる。受付で聞けば、在席しているというので、案内してもらう。
「どうも、ファーガスさん、ご無沙汰してます」
「ああ、タクマさん、お久しぶりですな。今日は、ひょっとしてタレス村の件ですかい?」
「流石、察しがいいですね。フレイムベア5頭と聞いてますが、ファーガスさんの見立てはどうですか?それと、他の村なんかで魔物の目撃情報はないですか?」
「あたしの聞いたところでも、フレイムベアが5頭のようですな。さんざ暴れた後、荒野の方に戻って行ったようですが、1頭だけ別の方角に向かったって話もありまして。ですが、他の村の方で魔物を見たという話は聞かないですな」
タレス村は、ステップを流れる川沿いにできた村だが、少し東に向かうと荒野となる。その先に魔物棲息域があるわけだ。
「タレス村でも、フレイムベア以外の魔物は目撃されてないんですね?」
「ええ、そういう情報はありませんな」
「そうですか、ありがとうございます。何日かしたらまた来ますので、情報に気を配っておいてもらえます?あ、これ情報料です」
討ち漏らして新たな被害が出てはいけない。商人の情報網だけでは完璧には程遠いが、ないよりはいい。
「こりゃどうも。タクマさんでしたら、こんなもの貰わなくても動きますけどねえ」
「知合いの誼で手伝ってもらってるつもりが、いつの間にかツケになってたなんて、恐ろしいですからね。それじゃまた」
「はは、そんな悪どいことしませんよ。ではまた」
商会を出て、次はレストランを探す。
「もうちょい情報収集させてもらえるか?」
「あ、はい。次はどちらへ?」
「食堂だな。夜なら酒場だけど、昼だからな。…そういや、シエラさんは何歳だ?」
「?はい、14ですが?」
大体見た目通りではあるが、やはり若い。
「だよなあ…。酒は飲むのか?」
デルサイ王国に、未成年の飲酒を禁じる法律はない。何となく、子供にあまり飲ませない方が良いという認識はあるが、悪酔いしやすいくらいに思われている。
「普段は飲みませんが、以前冒険者さんと魔物を討伐した時には少し」
「少なくとも20歳になるくらいまでは、飲まない方がいいぞ。中毒や依存症になりやすいし、脳の発達にも悪影響がある」
「そう、なのですか。確かに、多くは飲まない方がいいと聞きますが…」
不思議そうにしている。無理もない。この世界にはない知識なのだから。
「俺の故郷はこの国から遠い日本って国でね。そっちでは酒の影響がかなり詳しく調べられてたんだよ」
「ニホン…失礼ですが、知らない国名ですね。でも、分かりました。つまり、酒場に行っても飲むなってことですね」
「絶対に、とまでは言わないけどな。どうしても飲むって時は、せめてジュースや水も合わせて飲んだ方がいい。ま、行こうか」
適度に賑わっている店を見つけて入る。店員に料理を注文して、シエラと雑談しながら周囲の話に耳をすませた。
「魔物の噂はないようですね」
シエラも耳をすませていたようだ。確かに、魔物の話は聞こえなかった。店員にも聞いてみるが、タレス村以外で魔物の噂はないとのことだった。
代わりに、魔王を倒した聖女の噂が聞こえた。圧倒的な魔術で瞬殺だったらしい、同行した兵士の怪我を治療して回る献身さも持ち合わせ、容姿も美しく正に聖女様らしい、云々。シエラが何とも微妙な表情になる。
(おー、困ってる困ってる)
面映い気持ちは良く分かる一方、そういう普通の反応をするんだな、とも思う。
「そういや、倒したんだよな、魔王」
「ええ、はい。確かに私が倒しました」
「すごいんだな。魔王は強いんだろう?」
「もちろん、魔族の集団の頂点に立つ者ですからね。でも、魔王としてはそこまででもなかったと思いますよ」
「そうなのか。ひとりで?」
「ええと、もちろん討伐には王国軍の皆さんで行きましたが、魔王と直接戦ったのは私ひとりです」
「そうなのか。本当にすごいな」
「えっへん!」
そこは謙遜しないらしい。実際、魔族といえば、知能が高く、多様な魔術を行使することから、余程高位の冒険者パーティでなければ太刀打ちできない存在だ。その中でも長たる者なのだから、その強さは推して知るべし。それを倒したという他にも、数々の目覚ましい活躍があるようだ。確かな実績に裏打ちされた自信、といったところか。自身を正当に評価することは大事だ。
(ていうか、えっへんて言う人初めて見た)
中々に楽しげな聖女さんだな、と思う。
その後も話し声に耳を傾けていたが、結局、魔物やその他異変といった噂は聞かれなかった。もちろん、魔物被害は少ないに越したことはない。不在の証明はできないが、目撃情報がないのは幸いと言ってよかった。
「明日は、俺達でも様子を確認しながらタレス村に行く。相当歩くから、覚悟しといてくれよ?」
「はい。身体能力強化してますから、いくらでも歩いちゃいますよ!」
その日は、食材の買い出しをしてから宿で休んだ。タレス村の被害は、村の規模と比較して相当大きいから、物資や人手が不足しているかもしれない。救援に行くのに、却って迷惑になってしまわないよう、多めに買い込んだ。その説明を聞いて、シエラは随分と感心していたが、日本に生きていた拓真としては、守るべきマナーだった。




