輝く月のような
目を開ける。満天の星空が広がっている。
「!?・・・私は・・・何があった!?」
必死で思い出す。そうだ。湖の水を飲んだら意識が・・・!
「あら、起きたのね。よかった。おかしいところはない?」
焚き火の近く、切り株に座った女性がこちらに向かって微笑んでいた。
すらりと伸びた足は長く、艶のある素材のタイトスカートが輝く。
短めに切り揃えられた金髪は内巻きになり、満月のようで、深い紫色の瞳、形のいい唇に見惚れる。
「特に・・・問題はないと思う。キミは・・・?」
「うふふ。よかった。私はアムラ。アムラ=セレスティナよ。」
アムラは切り株から立ち上がり、焚き火を挟んでアムラの正面に寝ていたホマレに近づく。
「アムラが、私を助けてくれたのか。ありがとう。」
「どういたしまして。こっちを見て。」
顎に軽く手を添えられ、少し上を向くように促される。
顔が近づく。目が合った。微笑むアムラ。
「うん。大丈夫そう。あなたの名前は?」
「・・・ホマレ、だ。」
どこを見ていいのかわからなくなって、思わず目をそらす。
妖艶なお姉さんは見慣れないのだ。
「ふふ。ホマレちゃん、ここにくるのは初めて?この湖、毒に侵食されているから、ここの水は飲んじゃダメよ。」
「そうだったのか。知らなかったよ、教えてくれてありがとう。」
「いいのよ。素直な子ね。」
そう言ってホマレの頭を撫でるアムラ。照れるホマレをクスクスと笑う。
笑った顔は少し子供のようで、目が離せない。
「ホマレちゃんは、どうしてここにいるの?あ、魔力補充アメ、食べる?」
焚き火のそば、2人で並んで座る。
「いや、私は大丈夫。旅をしていて、旅費を稼ぐために依頼を受けたんだ。」
「あら!じゃあもしかして影狩り仲間?」
「アムラも影狩りなのか!私は今日なったばかりなんだけどな。保存食、少し残っているんだが、食べるか?」
「あら、気持ちだけで十分よ。そうだ。このかんざし、危ないと思って取っちゃったの。忘れないうちに返しておくわ。」
アムラから渡されるかんざし。
金色の軸に、雫の形の青いガラスが飾り付けられたものだ。
ガラスは2つ付いているので、蝶の羽のような形になっている。
「綺麗なかんざしね。」
「ありがとう!師匠からもらった大事なものなんだ。」
ホマレはかんざしを握りしめる。これは師匠が初めてくれたものなのだ。
あたりは静かで、焚き火の燃える音しか聞こえない。
2人だけの空間には不思議な心地よさがあった。
「アムラは、セラ=モントノアという人を知らないか?」
「セラ=モントノア?知ってるわよ。10年・・・いや、もっと前になるかしら、すごく有名だった影狩りのことよね。」
「そ、そうだったのか!?」
師匠が・・・有名人!?嘘かと思ってた・・・。
「あら、うふふ、そんなに目を丸くしないで。セラ=モントノアといえば、最強の影狩りとして大勢の憧れだったのよ。」
「その人を探してるんだ!最近、その人について何か聞いたことはあるか?」
「最近・・・?最近、ねえ。」
口元に指を当てながら、斜め上を見上げるアムラ。
「うーん。私が知ってる話はそれくらい・・・。ごめんなさい。」
「いいんだ。その話が聞けただけでうれしかったよ。」
師匠のことを思い返す。・・・あまり強い部分は思い出せなかった。あんな幼稚な合言葉を用意するようなやつだ。同姓同名の別人という可能性もあるかもしれない。
「あ、そうだ。アムラは夢喰らいのカイブツの事、聞いたことはあるか?」
「えっ・・ええ。聞いたこと・・あるわよ。」
夢喰らいのカイブツ。男たちの言っていたことが本当なら、そいつを倒せばこのあたりの魔物も減るかもしれない。
「そのカイブツ、どこかで見たりしなかったか?」
「あら、ごめんなさい。見たことはないの。」
少し驚いたような顔をして、アムラはホマレの頭を撫でる。
「ふわあ・・・。」
堪えきれないあくびがつい出てしまう。
「ホマレちゃんは、おねむなのね。さっきまで毒でダウンしてたんだから、早く寝たほうがいいわよ。この辺りは、水さえ飲まなきゃ安全だから。」
「えっ!行っちゃうのか?夜はさっきのカイブツが出るらしいから、危ないぞ。」
「大丈夫よ。お姉さん、結構つよいんだから。夢喰らい・・・なんて、怖くないわ。おやすみなさい、ホマレちゃん。」
「あ、ああ。おやすみ、アムラ。気をつけて。」
アムラは完璧なウインクを残し、去っていく。
ホマレは焚き火を消し、かんざしを握りしめながら眠りについた。
まぶしい。遠慮を知らない朝日が目の中に差し込んでくる。
「ふっ・・ん!」
体を伸ばす。もう少し、この森で夢喰らいのカイブツを探すか、一旦ギルドに帰って依頼達成の報告をするか。
「よし、一旦戻ろう!!」
残っていた保存食を食べる。これで最後だ。水もない、食べ物もない。
ホマレは燃費が悪いのだ。すぐにお腹が空いてしまう。
軽く片付け、荷物をまとめる。
ホマレは昨日きた道を真っ直ぐ戻って行った。
「おはようございます!ホマレさん!」
ギルドに戻ったホマレをハロは笑顔で迎えてくれる。
「これ、昨日受けた依頼の魔星石だ。」
ホマレはカウンターに魔星石の入った袋をおいた。少しくらいところに置くと、うっすらと光っているのがわかる。
「依頼の数より少し多いんだけど・・・。よろしく頼む。」
「えっ・・!ホマレさん、これ、もしかして昨日あの後に?」
「そうだ。・・何か問題があったか?」
「いえ、問題はございません、お怪我はございませんか?すみません、お伝えするのを忘れておりました。」
ハロの頭がすごい勢いで地面に近づく。
「どうしたんだ?!怪我もないし、平気だ。」
「この時期、この辺りでは魔物が活発化するんです。特に月の出る夜に。ですので影狩りさんには気をつけるようにお伝えしているのですが、ホマレさんにはお伝えしておりませんでしたよね?申し訳ございませんでした。」
真っ青な顔をするハロ。
むしろこちらが申し訳なくなるほど謝ってくれている。
「大丈夫だ!本当に気にしないでくれ。森に入る前にも忠告されたんだけど、危険を承知で入ってるからさ。それより、この時期はどうして危ないんだ?」
「あ、ええと・・詳しい理由はわかっていないんです。昔からなぜか活発化するそうで・・今日の夜、風と炎の祭りの花火が上がりますが、このお祭りは、昔の活発化した魔物たちが街に侵入するのを防ぐために、街の人全員が徹夜で戦うという風習が変化したものなんですよ。」
「昔は祭りではなかったのか。」
「そうなんですよ。近代になって街を囲う高い壁ができたことで魔物の恐怖も少なくなったので、それがだんだん今の、春を祝うお祭りになっていったんです。」
「ハロ!!!ギルドの前、風船とかざぐるま置いておくぞ!!!!!!」
いきなりギルドの扉が開き、おじいさんの大声が響く。
「ありゃ!!人がおったか。すまんなー!!!」
ガハハと笑いながら去っていくおじいさん。酔っているようだ。
「ありがとうございます!!・・・申し訳ございません。今は・・・お祭りを口実に皆様ハメを外しがちで・・。」
「いや、いいんだ。お祭りってそういうものだろ?」
「恐れ入ります。最近では魔物と戦うのは影狩りさんたちだけになりましたが、魔物が活発化しなくなったわけではないんです。昼間はまだ大丈夫ですが、夜はただでさえ魔物たちが動きやすい時間なので・・・。本当にお怪我がなくてよかったです。」
「そうだったのか。教えてくれてありがとう。」
「いえ、本当は昨日お伝えするべきでしたので。申し訳ございませんでした。」
ハロはあらためて深々と頭を下げた。
「こちら、依頼達成報酬の10000コンペートになります。それと、追加報酬の13000コンペート。あわせて23000コンペートです。どうぞ。」
封筒に入れて渡される紙幣。
「ありがとう、またくるよ!」
「はい!ありがとうございました!またお待ちしております!」
笑顔で見送ってくれるハロ。
ギルドを出ると、太陽が眩しい。暖かい陽気にさそわれ、広場へと足を運ぶ。
「ああっ!昨日の赤髪の嬢ちゃんじゃねえかあ!!」
周りに赤髪はホマレしかいない。
声のしたほうを振り返ると、酒場のテラス席に昨日森で出会った男たちがいた。
「ああ、昨日の。」
「無事だったかあ!?」
「危ないぜ嬢ちゃん!!」
「夢喰らいにはあわなかったかあ!!??」
勢いに負け、あれよあれよという間に酒場に座らせられ、オレンジジュースが運ばれてくる。
「嬢ちゃん未成年だよな!アルコールは20歳からだぜ!」
「嬢ちゃん旅の人だろお??夢喰らいには気をつけろお!!」
「ばあかお前、何回その話するんだよお!!」
「ああ?大事なことだぜ、何回も言うぜおれぁ!!!」
そうとう飲んでいるのだろう。顔が真っ赤だ。それに酒臭い。
「そうだ、夢喰らいのカイブツというのは、どういう魔物なんだ?あまり大きな魔物の痕跡は見当たらなかったぞ。」
『ダハハハハ!!!』
男たちは一斉に笑う。
ホマレはどこか気まずくなり、オレンジジュースに手を伸ばす。
「何がおかしいんだ?」
昨日の森の状況を思い返す。木の幹、地面、小さな魔物が活発だったこと以外、おかしなところはなかったはずだ。いや、活発化の理由も判明した以上、おかしなところはなかったと言っていい。
森育ちなのだ。痕跡を見落とすとは思えない。
「夢喰らいのカイブツは魔物じゃねえよー!!」
「そうそう!あいつは人間だぜ、ま、一応、な!」
そう言って笑う男たち。あまり・・・いい話ではなさそうだ。
「呪い子なんだよ!人の夢を食うんだ。」
「あいつと組んだ奴らはみんな影狩りをやめたんだぜ。」
「やっぱり太陽院の言うように、呪い子はダメだなあ。なあ?!」
1人の男が言うと、周りの人々も次々にうなずく。
ここ、スターリア大陸のほぼ唯一と言っていい宗教が太陽院が広めている太陽教。太陽教の教えでは、呪い子はあまりいい扱いをされないのだ。
やはり・・・そうか。呪い子は・・。
雰囲気を壊すわけにはいかない。目をつけられるのも避けたい。
「そう・・だな・・。」
精一杯笑顔を搾り出す。ぎこちなさをオレンジジュースで誤魔化す。
「あの女のせいで、俺のダチも影狩りをやめたんだ!夢を見るのはやめだってよお!!夢を見るのが影狩りじゃねえのかよ!!」
女・・・?ふと、可能性が頭をよぎる。
「なあ、その・・・夢喰らい・・・は、どんな人なんだ?」
「ああ、目立つやつだぜ、金髪の女だよ。」
「背が高いやつだよ、見た目はイイんだがなあ。」
「名前が・・・なんだっけ?たしか・・・ア・・アムラ?」
「アムラ!!」
ガタン!!と立ち上がるホマレ。酒場は一瞬静まり、すぐに元の騒がしさを取り戻す。
「お・・・おお、どうしたあ?嬢ちゃん!」
「私・・・謝らなきゃ。」
「ああ?どうしたあ!呪い子のことなんか。忘れちまえぃ!!」
「忘れられるものか!キミたち、人を見る目がないな。・・・すまない。失礼する。」
ホマレは森に向かって走り出す。
人に面と向かってカイブツなどと言われて、悪い気にならない人なんていないだろう。
知らなかったとはいえ・・・酷いことをした。
また・・・あえるといいが。




