凛と咲く花は遅れて
「アムラ!!アムラ=セレスティナ!いないか?ホマレだ!」
森の木々は急ぐ足をとらえ、大声に寄ってくる魔物は少しずつ数を増す。
日は少しずつ傾き、視界が悪くなっていく。
「っ・・!はあっ・・はあっ・・アムラ!いないか?」
昨日アムラと出会い、別れた湖のほとりに着く。昨日と変わらず輝く水面はあまりにも静かだ。
昨日の焚き火跡を見つける。しかしアムラにつながりそうな痕跡は何もない。
「やっぱり・・・見つからないのか?」
悔しさとやるせなさで顔が歪む。
空が明るくなる。花火が打ち上げられたのだ。
”ドオオオン”
花火の音・・にしては近い!!
「あぶないわよ!避けて!」
咄嗟にしゃがんで頭を守る。
土煙があがり、目の前には折れた大木が深々と地面に突き刺さっている。
「大丈夫?!怪我はない?」
近づいてくる人影。現れたのは・・・
「アムラ!」
「ホマレちゃん・・・!?どうしてここに?」
「謝りたくて来たんだ。キミが見つかってよかった。」
”ドオオオオン”
先ほどよりも近くで音が鳴る。一体何が起こっているのか。
「ええと・・・とにかくここは危険よ。ホマレちゃん、すぐに逃げて!!」
なにが起きているのか理解ができずにいると、湖の対岸、森の奥の方から巨大なツタが何本も伸びてくる。
「あれはなんだ!?」
「人喰い花よ。あそこまでおおきくなったものはめずらしいけど。」
アムラは自分の身長ほどもある巨大なハサミを空からとりだし、構える。銀色の刃が光る。
「森の奥で小さな魔物を食べながら、力を蓄えていたみたい。この時期だから活発化していて、手に負えないわ。」
こちらに襲いかかってくるツタを次々と切り裂くアムラ。
「ホマレちゃん!ロメ・パレスに戻って、ハロちゃんに伝えて!この花、ロメ・パレスに向かってるの!」
話している間にも、巨大なツタは数を増していく。周りには小さな魔物もあらわれはじめた。
「やあっ!!」
ホマレは刀を抜き、現れた魔物たちを斬る。
アムラと背をあわせた。
「アムラをおいていくわけにはいかない。私も戦おう。」
「あら・・。ありがとう、ホマレちゃん。お姉さん、はりきっちゃう。」
「本体を倒さなければキリがない。私が道をつくる。」
刀を構え、大きく踏み込む。ツタを斬り、対岸へと渡る。
ツタの来る方へ向かって走る。
「ホマレちゃん、人喰い花の倒し方は知ってる?」
「教えてもらったことがある。根と茎を完全に切り離せばいいのだろう?」
「そうよ!さすがね、ホマレちゃん。」
迫り来るツタの数は増え、 攻撃の間隔も狭くなっていく。本体が近いのだろう。
「なっ・・・!!」
森の奥、周りの木が枯れ、倒れる中、堂々と咲き誇る花が一輪。
真紅の花びらが大きな口を囲い、棘のある茎は花の美しさにはアンマッチだ。
「これが・・本体か!」
「どんどんおおきくなってる・・。早くとめないと。」
茎というより幹はこの森のどの木よりも太いと断言できる。
茎のてっぺん、花びらに囲まれた口から覗く牙は鋭く、おそろしい。
「切るわ。ツタはお願いね。」
「ああ。」
「炎よ、全てを喰らい、この刃の糧となれ!」
アムラの持つ銀色の刃が赤くもえあがり、真っ直ぐに茎を切り裂いた・・・かのようにおもえた。
けたたましい叫び声と共にツタがうごめき、切りきれなかった茎を庇うように巻きつく。
残ったツタは手当たり次第に触れたものを握りつぶす。
「回復させてはダメよ!ホマレちゃん!」
「ああ!刀よ、すべてを貫け、鋒の赴くままに!」
峰で迫り来るツタを振り払い、刃は茎を狙う。刃ははいったものの、茎には届かず、すぐに新しいツタが傷口を覆い隠す。
「だめだ、届かない!」
アムラのそばに行き、背中を合わせる。攻撃のツタも減っている様子がない。
「ホマレちゃん、もう一回、できる?息をあわせましょ。」
暗い夜、花火が上がっているのが見える。
「ああ、アムラ、次の花火でいくぞ!」
「ええ!」
間合いをとり、ジリジリと動く。
パアッと夜空が明るくなり、人喰い花の茎がはっきりと見える。
「全てを貫け!鋒の赴くままに!」
「炎よ!すべてを喰らい、この刃の糧となれ!」
”ドオオオオオオン”
強い風を感じる。ツタの動きが止まり、先の方がサラサラと崩れていく。
「やったわ・・・!ホマレちゃん!怪我はない?」
「ああ・・・!アムラこそ、無事か?」
勝った・・!!喜びが溢れ、なんとも言えない高揚感に浸る。
2人は手をとり、抱き合った。
「ホマレちゃん、来てくれてありがとう。1人じゃ、倒せなかったわ。」
「そうだ!アムラ、ごめんなさい!キミのこと・・・知らなかったんだ。とは言え、夢・・喰らいなんて、聞きたくもなかっただろ?」
少し離れ、頭を下げるホマレ。
「いいのよ、そんなの。大丈夫、気にしてないわ。」
アムラは歩み寄り、ホマレを抱きしめる。
「ホマレちゃんは、すっごくステキな子ね。」
「アムラこそ。キミの方が素敵だよ。」
ホマレはそっと、アムラを抱きしめ返す。
「私ね、眠ることができないの。そしてサンドイッチやお肉の代わりに、人の夢を食べるの。寝ている人が見ている夢を・・ね。」
アムラはそっと離れ、地面に座る。そして隣の地面を軽く叩いた。どうやら隣に座って欲しいみたいだ。
「夢を食べられた人は、その夜は夢を見ないまま寝ることになるの。人は夢の中でやっと自由になれるのよ。なのに私がそれを食べちゃったら、その人は現実に囚われたままになっちゃう。」
ホマレはアムラの隣に座り、じっとアムラを見つめる。
「夢を見ないことが続くと、だんだんそれが当たり前になってしまうの。そして、いつしか夢を見れなくなってしまう。大人と子供って、何で分けられると思う?年齢も1つの基準よね。私は、夢を見るかどうかも、大人と子供の違いだと考えているの。」
アムラはそばに落ちていた人喰い花の棘を手に取る。棘はスッと崩れて世界に溶けていく。
「大人になることは悪いことじゃないわ。素晴らしいことよ。けど、それは自然な成長があってこそ。茎が細いまま伸びてしまった花が倒れるように、無理に大人になってしまったらその人はいつか倒れてしまうの。自分自身の重さに負けて・・ね。ふふ、ちょっと難しい話になっちゃったわ。何が言いたいかっていうと、私は呪い子。呪われた子。人の夢を食べて、その人の夢を無くしてしまうの。こんな私のこと、カイブツと知ってなお、追いかけて来てくれたホマレちゃんのこと、大好きよ。ありがとう。」
アムラは優しくホマレの頭を撫でる。
紫色の大きな瞳には涙が溜まっている。スッと一筋垂れたものを、ホマレは親指で拭いとる。
「ごめんなさい、私ったら。もう大人なのに。」
「私も、呪い子だ。泣くことができない。そして人の涙でしか魔力を回復することができない。」
「・・・?」
「大人であろうと、子供であろうと、泣くことは悪いことじゃない。その涙は、私の、もしくは誰かの力になってくれるのだから。」
「ホマレちゃんっ!・・・!」
ホマレを抱きしめ、大粒の涙をこぼすアムラ。そんなアムラの背中を優しくさすりながら夜は更けていく。
遠くに聞こえる花火の音、すこし冷たい風。しかし、とても暖かかった。
「はい!人喰い花の蜜、魔星石、納品ありがとうございます!依頼報酬の30万コンペートになります。」
少し厚みのある封筒をアムラに差し出すハロ。
人喰い花を倒した後、気がついたら朝になり、笑顔のアムラがそばにいた。ホマレたちはドロップしていた魔星石と蜜を持ってギルドに帰って来たのだ。
「ハロちゃん、いつもありがとう。封筒、もう一枚もらえる?」
「もちろんです!アムラさんこそ、いつもありがとうございます。この蜜さえあれば魔法薬を作れるので、この辺りの魔物も減りそうです!」
「人喰い花の蜜にはそんな使い道もあるのか。」
「そうなんですよ!他の材料も集めるために、アムラさんはいろんな魔物を討伐して下さっていたんです。」
「ハロちゃんってば。ほめすぎよ。ホマレちゃん、これ。半分はあなたのものよ。」
そう言って封筒を差し出すアムラ。
「え!?いや、もらえないよ。それはアムラの分だ。」
「もー!遠慮しないで、もらっておけばいいの!」
半ば無理やりホマレの手に封筒を握らせるアムラ。
「・・・ありがとう。では、今から一緒に買い物でもしないか?」
「あら・・・いいの?」
「もちろん。ハロも来るか?」
「いえ!私は仕事中ですので、お構いなく!」
笑顔で見送ってくれるハロ。ギルドを出たところでアムラが立ち止まる。
「ねえ、ホマレちゃん、本当にいいの?呪い子って知られてる私と一緒にいると、大変よ?」
「私も、呪い子なんだから、気にすることはないさ。アムラは嫌か?」
「・・・!そんなことないわ!」
祭りの余韻でにぎやかな街の中、2人は腕を組んで歩いていく。
「ねえ、ホマレちゃん、師匠を探して旅をしているんでしょ?私も、ホマレちゃんと一緒に行ってもいい?」
「もちろん!!」
優しい風はかざぐるまをまわす。止まることなく、回り続けるのだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
〜夢喰らいのカイブツ〜編は一段落となります!
はぐれぼしの軌跡シリーズとしましては、まだまだ続きます!
次回〜月光の姫〜編を後日アップロード予定です。




