アキモ・ポポフの受難
滅多にあることの無い本部直々からの呼び立てに僕は戦々恐々としながら出頭した、僕アキモ・ポポフは帝国貴族の三男坊である、貴族とはいえど下級貴族でありその三男ともなればそこらの平民とさして待遇に変わりは無い、寧ろ貴族特有の矜持や慣習がある分平民よりも窮屈かも知れない。
「平々凡々」僕を現すのにこれ以上の言葉は無いと思う、自分で言っていて悲しくはならない何故ならもう言われ飽きた文言であるし自分でもそうだと思っているからだ、親も兄弟も上司も同僚も僕をさして同じように言うからだ、武芸に関しても学問に関しても魔法関連でも秀でた部分は特にない、そんな僕が何故帝国の軍本部から呼び出しが掛かったのか正直な所ピンとこない。
「要件の定まらない上からの呼び立て程胃に悪い事はないなぁ…」
グルグルと異音をたてる腹を押さえながら扉をノックする。
「アキモ・ポポフです!」
短く無機質に返答が返ってくる、パサついた冷たい汗を拭い唾を飲み込むと扉を開き中へと入る。デスク越しに足を組み如何にも不機嫌ですと言った表情の上官が取り繕うことも無くこちらを睨み付ける、それだけであぁこの呼び立ては間違いなく良い内容ではないなと確信する。
背筋が冷え込みまともに地に立っていられないような錯覚を起こす、が僕が泣き出さずにいられる精神を支えているのは僕の気合いでも何でも無くただ自分の一個上の先輩騎士が上官の横に立って居ることへの疑問だった。
「コイツから聞いたぞ…お前ボルトン卿の家財を壊したらしいな!」
「えっ?」
「アキム…この期に及んですっとぼけるとはっ!すみませんコイツには後でキツく言っておきますんで…」
先輩が語気を荒げて僕を叱りつける、ボルトン卿と言えば帝国でも有数の権力を持つ貴族だ、かの有名な勇者や聖女との関係も良好で実質的に帝国と勇者両名との橋渡し的存在でもある、当然そんな人間とはコネクションもないし会ったことも無い、だが上官の横に居る僕の先輩騎士はボルトン卿の舘にいるメイドと良い関係だという自慢は嫌という程聞かされてきた。
要領の悪い僕でも流石に合点がいった要は僕は先輩のミスの尻拭いをさせられているわけだ、先輩は何らかの問題をボルトン卿の舘で起こしその責任を全て僕のせいにしたのだ、まぁ仕方あるまいこのぐらい別に珍しい事ではない等身大の悲劇が等身大の僕に降りかかっただけだ、見るに先輩も表情を崩しこちらにウインクしている、一食分くらいでは済ませないこの貸しは絶対に高くツケてやると思いながらこの場は泥を被る覚悟を決め上官を見る。
「…ボルトン卿は大変お怒りだ。アキモ・ポポフ、貴様を13隊配属とする。」
「「えっ?」」
先輩と僕の声は被りそのまま冷たい部屋の角へと吸い込まれ消えていった。
※
帝国騎士団第13隊は通称営倉管理隊と呼ばれる、通常帝国の騎士は領土内の治安維持や魔物の討伐、ダンジョンの管理必要に応じて戦争への参加なども含まれる、当然13隊もこのような任務に就くのだが併せて営倉の管理も含まれているためそのように呼称される。
営倉とは平たく言うと軍人用の懲罰房なのだがその実一般的な犯罪者も収容されている、そう言った犯罪者の刑期が終わり希望者がいれば13隊はそういった人間を隊に受け入れる事もしている、帝国の騎士団は下級貴族の受け皿としての側面が強いため、たとえ長男で無い次男三男だとしても平民と同じ隊に所属することは忌避されるまして元犯罪者と肩を並べるなどもってのほかである。
そう言った理由に加え13隊は訓練が非常にキツいと言うことも騎士からは敬遠されるのだ、そんな隊に配属になってしまった僕は端から見れば世界の終わりのような表情をしていたんだろう、指示に従いまま兵舎に足を踏み入れるとそれまで談笑していた騎士達が一斉にこちらを振り返る、とても貴族にには見えない鍛冶場に居る様な風貌のおっさん達が値踏みをするように僕を鋭く睨み付けてくる。
「っは、はじめまして!今日付で13隊に配属になりました!アキモ・ポポフです!よろしくお願いします!!」
バッと勢いよく頭を下げ挨拶をする、とてもではないが視線だけで射殺せそうな男の目を見て喋るなんて僕にはできない、若干の静寂の後割れんばかりの声援と拍手が兵舎に響く。
「え?」
場違いな貴族のガキが冷遇されるのはわかるがここまで歓待される理由がわからない、僕が困惑しているとひげ面で頬に大きな傷のある大男がこちらに歩み寄り肩を組んでくる。
「俺は13隊でお前の面倒を見るアルティニってんだ!お前がボルトンのクソ野郎に一発かまして13隊送りになった新人か!!良くやった!歓迎するぜ貴族の兄ちゃん!」
「えっ、あっはいよろしくお願いします…」
俺が返事を返すと兵舎は爆発するように歓待の声があがる、群がるむさ苦しいおっさん達に次々にグータッチを迫られるが正直悪い気はしないね。
「んでまずこれだな!」
アルティニは中くらいの麻袋をこちらにほん投げる、慌てて受け取るとジャっと金属のすれる音袋の中から響いてくる、中を確認すると大量の帝国金貨が入っていた。
「えっ…っとこれは?」
「何って金に決まってんだろ?ウチの隊長からだよ貴族がいきなり13隊だと苦労も多いだろうってんで包んでくれたんだ大事に使えよ。」
マジか僕の年収より入ってるんだが、隊長さん気前良すぎないか?
「知ってるたぁ思うがウチはキツい、だが給料は他隊より良んだぜ?」
アルティニがニカッと笑う、なんだか思っていたより悪い場所じゃ無いのかも知れない、僕はそう思いながらアルティニに案内されるまま13隊の兵舎を回るのだった。




