誤算
翌日僕ことアキモ・ポポフは早速任務に就いていた、営倉管理隊と言うだけあって言い渡せれた任務は牢屋の見回りと食事の配膳など非常に味気ない、よく言えば楽な任務だった、隣には僕の担当になった先輩のアルティニが座っていたがどうやら目をつぶって寝ているようだ。
「アルティニさん寝てて良いんですか?」
「いいわけねぇだろ、ただここから逃げれるヤツはいねえし今日の分の仕事は終わったんだ悪い事は言わねえからお前も休んどけ。」
アルティニは短くそう言うと再び椅子に深く腰掛け手を組んで目を瞑るのだった。
「よぉ兄ちゃん13隊は最近配属されたんか?」
「えっ?ええ…まぁ。」
牢屋に入っている柄の悪そうなはげ頭の男が僕に話しかけてくる、囚人と話して良いのか少し悩んだが考える暇も無く男は話を続ける。
「まぁそんな警戒してくれんなよ俺も元13隊だしよ、それにアルティニの言うとおりだぜ兄ちゃんこのあと訓練があるんだろう?アレはキツイから体力は温存しとけな。」
「えっ?元13隊だったんですか?」
「ここは営倉だぜ?基本的には規律を破った騎士が入る牢獄だよ、空きが多いから例外的に一般の犯罪者も入ってはいるけどな、もう1ヶ月もすれば俺も隊復帰だそんときゃよろしくな。…あー戻りたくねぇなぁ…」
余りの内容に僕が驚いていると目を瞑ったままのアルティニが口を開く。
「その馬鹿は隊長に喧嘩売って牢にぶち込まれた馬鹿だ、あんま話してると馬鹿が移るぞ馬鹿。」
「馬鹿って言い過ぎでは…それにしても隊長に喧嘩を売ったって…一体どうして?」
牢の男はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに身を乗り出してニヤリと笑う。
「自分の上について指示を投げてくる男がどんだけ強えか知りてえってのはおかしなことかいね?少なくとも自分より弱えヤツに頭さげんのは死んでもゴメンだろ。」
「…それで――どう…だったんですか?」
「どうって?何も分かんなかったぜ、剣振り上げて踏み込んだと思ったら次の瞬間にはもうココにいた。」
「だから馬鹿ってんだ、お前が剣振り上げて踏み込んだ瞬間に隊長がお前の顎を打ち抜いたんだよ。」
アルティニが何故か誇らしげに鼻を鳴らしながらそう言う。
「見えたのかアルティニ!?」
「見えるわきゃねーだろ馬鹿!ただ顎の骨折れてあんだけ腫れてりゃそれ以外ねーだろ。」
規模感の違いに僕は唾を飲む。
「アキモは…まぁそんなことはしないと思うが間違って隊長に変な事すんなよ、あの人は俺たちみたいなクズにもちゃんと筋を通してくれてんだコッチも筋通すのが通りってもんだ。」
何処か普段の様子と違うアルティニさんが声を低く威圧感のある声で言ってくる事に僕はブンブンと首を縦に振るのだった。
※
皇帝の番犬、帝国の黒き刺剣、営倉の守護者、鬼の13番目など13番隊隊長をさす異名や別称は枚挙に暇が無い、13番隊隊長は何故か隷属の首輪を付けている、これにはいくつかの考察があるが強すぎるその力を恐れた帝国貴族達にはめられた物なのではないかと言うことが一般的な通説らしい、また帝国では力強く膂力をもって相手をねじ伏せる戦闘スタイルが好まれる為刺剣使いは非常に珍しい、故に帝国騎士団に下賜される剣も相手を切り裂くのでは無く切り潰すよう重く作成されているのだ。
こうした幾つもの点から異名が名付けられている、だが隊長は謎多き人物でその実どういった人物なのかと言った情報はかなり少ないのもまた事実なのである、そんな話題の謎多き13番隊隊長を目の前にした感想は『意外と普通』だった。
簡素な造りのお立ち台に立ち指示を飛ばす13番隊隊長は言われているほど覇気のある人物では無かった、よっぽど隣に控えている全身黒の鎧に包まれた長身の騎士の方が噂に聞く13番隊隊長に近いと思ってしまうほどだった。
「諸君先程A班の訓練が終わったいつも通りA班は君たちB班と交代で営倉の管理に入りB班の君たちはこれから訓練に入る。」
整列した騎士達から軽くため息と押し殺したような悲鳴が響く。
「通常通り負傷に気をつけて励んでくれ、…それとケルトン俺に刃向かえばまた営倉に入って楽が出来ると思わない方が良い、次刃向かうようであれば訓練を二倍にする当然連帯責任だ。」
それまで普通に訓練内容を伝えていた隊長は突然刺すような視線でケルトンと言われた男を見つめる、その男は腰の剣に手をかけており指摘された事で身体をビクリと揺らす、連帯責任と言う単語が放たれた瞬間周りの騎士達に袋だたきにされていた。
「真面目な者が多いようで隊長として誇らしい、では伝えた通り訓練を開始しろ。」
隊長の号令に落雷のような音で返事を返す騎士達は先程までの態度が嘘のようになり辺りは殺気に塗れた戦場のような空気感に変貌する。
「アルティニとアキモくんはコッチに来てくれ。」
アルティニは普段の態度が嘘の様に姿勢を正し威勢良く返事をするとダッシュで隊長の下へと走って行く、僕も遅れながらもついて行く。
「ご苦労、個々は少々会話には向かないね歩きながら話そうか、エンヘル!少し訓練の様子を見ておいてくれ!」
隊長が訓練場を振り返り全身甲冑の騎士に声を張り上げて言うとエンヘルと呼ばれた騎士は膝を突き礼をする。
「俺はケイ、今は13番隊の隊長をしている、まぁ…呼ぶなら隊長と呼んでくれ。」
「はっハイ!アキモ・ポポフですよろしくお願いします!」
ケイ隊長の伸ばした手に素早く応じ握手を返す。
「アルティニは柄は悪いがこの隊ではまともな方で頼りになる、まぁこの隊で柄の悪くない者を探すのはほぼ無理だけどね、で彼はどうだい?問題ないようであればこのまま君の指導役として続けて貰うことになるけど?」
微笑みながらケイ隊長は訪ねてくるが隣のアルティニは気が気でないようで汗を玉のようにかいている。
「えぇ非常に良くして頂いています!」
「それは良かった、アルティニに任せて正解だったようだねありがとう。」
「いえ命令ですので!恐縮です!」
アルティニの異様にかしこまった態度に僕は驚愕しケイ隊長は微笑んでいた。
「アキモくんは確か8番隊からの移動でここに来たんだったね?貴族の君には大変だと思うけど是非頑張って欲しい俺からも8番隊に復隊出来るよう要請は既に出しておいたけど余り期待しないで待ってくれると助かる。」
まさか復隊の申請をしてくれているとは夢には思わなかった僕はケイ隊長の暖かい心遣いにウルッときてしまう、何度もお礼をするとケイ隊長は笑いながらでも期待はしないでと念を押してきた。僕からすればその気持ちだけで嬉しいのだ!
「それじゃ訓練に戻ろうか、アルティニにアキモくんは任せて良いね?」
「任せて下さい!」
訓練場に戻るとエンヘルと呼ばれた騎士に一人の男が殴り飛ばされていた。
「たっ隊長!早くエンヘル嬢の相手変わってやって下さいケルトンが死んじまいますぜ!!」
エンヘルは回復ポーションの小瓶を握りつぶすと滴る液を雑にケルトンにかける。
「エンヘル俺の代わりをご苦労さん、じゃ俺とやろうか。」
ケイ隊長はケルトンを完全に無視してエンヘルと組み手を始めた、僕もアルティニに指示を受けつつ徒手空拳での組み手を始める。
「あのアルティニさんケイ隊長も訓練に参加するんですか?」
「あ~他の隊は違うんだろうが13隊はケイ隊長自ら訓練に参加するんだ、13隊の訓練はキツイが所属騎士が文句を言えない一つの理由に隊長もその理不尽と思えるくらいの訓練量を俺たちの目に見えるところでこなしてるってのがあるんだわ。」
「そうなんですね…っ?!でもケイ隊長はA隊B隊に分けて…」
「気がついたか…そうだあの人は毎日A班B班二つ分の訓練をこなしてる、単純に俺たちの倍俺たちと同じ訓練をしてんだぜ…」
僕は血の気の引くような感覚を覚えながら、風切りをさせ目にもとまらぬ拳を繰り出すケイ隊長とエンヘルの訓練を眺めるのだった。




