血液が流れ出るほどに
街に一晩泊まったその後長い旅を終えアーヴィの居る舘まで戻ってくることが出来た、帰りが少し遅くなったことをナトリに言われたが幸いアーヴィの体調的に昨日治療は出来なかったそうなのでそれ以上言われることは無かった。
エンヘルには舘の外周で待機するように提案したのだが、眷属として決して離れないと言われてしまった以上引き離すことは出来なくなってしまった。ナトリには反旗の疑いをかけられたもののエンヘルにも俺と同じ首輪をはめることで手打ちとなった。
エンヘルは舘の従者に首輪をはめられる際、今にも飛びかかって従者を殺さんと睨み付けていたが、仲介として俺がはめることであくまで忠誠はケイにあって帝国では無く俺個人に仕えるという形式で事なきを得た。
※
「おう…戻ったか。」
アーヴィの居る寝室に入るとアーヴィから声がかかる、以前に見たときよりも顔色が良くなっており言葉数は少ないものの覇気も増しているように感じる。恐らくこの圧力こそが本来アーヴィ・タリウスの持っていた王としてのポテンシャルなのだろう。
俺はナトリに事前に習っていた帝国式の臣下の礼をする。利き手を握り、拳を床に付け反対の手を腰の後ろに回し腰を落とす、同時に頭を下げるが顔は上げ目線は相手を見据える。
床に付けた利き手の拳は己の持つ武力が王に向いていないことと、それに全く相対する思想で王が王たり得ないと臣下が判断した場合に腰に下げた己の武器で王を切りつける為に利き手を前方に置き、頭を下げる際視線を外さないという型になっているらしい、如何にも実力主義の帝国らしいと言えるだろう。
「なかなか様になるものだな…。」
お褒めの言葉を頂いたということで頭を下げるとナトリから叱責が飛ぶ、曰く視線を切るなとのこと。帝国も帝国で宮中作法はなかなかに面倒くさいらしい、俺が苦い顔をしているとアーヴィも同感のように軽く笑う。
「まぁ良い、そんなことより今日も治療を頼む、お前が長いことほっつき歩いてくれたおかげで具合も大方良くなった。」
そう言いながらアーヴィは親指の先を噛みきって血を出す、余りの行動に辺りに控えている従者や兵士は皆一様に動揺するがアーヴィがそれらを手で制する。アーヴィに顎をしゃくられ近くに寄り躁血で治療を始める。
「小僧、お前…首の拘束具を外さんのか?」
アーヴィの物言いに俺は関心するものの表情には出さない、流石一国の主とだけはあってなかなかに慧眼らしい。確かに今の俺であればそれくらいにレベルが上がっている為この首輪を無理矢理外すことは可能なのだ。
「いえ、外す事のメリットがあまりありませんので。」
俺が恭しくそう言うとアーヴィはつまらなそうに鼻で笑う、周囲の人間達は俺が自力で首輪を外せると言うことに驚き警戒をし身構え始める。
「余は意味の無い事…無駄を好かん、小僧のその首輪も、お前達が警戒して身構えることも何の意味も無い無駄だ、下らん。」
「なっ?!それは一体どういった意味合いのお言葉でしょうか?」
鬼気迫る表情のナトリが臣下の礼を取りながら声高にアーヴィに問いかける。
「…まさか余が1から説明するとでも?」
眉間に皺を寄せ俺を見つめてくるアーヴィにそんなまさかといった表情をしながら俺は口を開く。
「陛下の仰ったとおり、私はこの首輪を外せます、そしてこの首輪が外せるくらいには私の力があるということで…詰まるところその気になればあなた方全員を相手取っても不足は無いと言うことですね。」
俺は躁血で腐った血とそうで無い部分を分けながら辺りにいる人々に背を向けたまま喋る。
「ただ…この首輪に全くの意味が無いと言うこともございません、この首輪をはめていれば『抵抗される恐れもないし陛下に危険は及ばない、コイツは安全だ』と周りの方々は思えるでしょう?たったいまそれも無に帰しましたが。」
「だから言ったであろう無駄であると。」
「少なくともここに居ない方々にはまだ有効ですし、現にいくつかの敵対的な行動はコレをしている限り本当に取れませんので全くの無意味ではないかと…」
「あとでとやかく言われるのが面倒だっただけのことよ、お前が良いのなら好きにするがいい…。」
前回の反省を踏まえ治療はそこそこで終わらせることになった、躁血を使っていて尚且つ俺は血を好んで吸い取るので必要が無いのだが、衛生観念から治療後は湯浴みをするよう強く言われている。
湯浴みを終え部屋に向かうと俺の部屋の前にナトリが壁に寄りかかりこちらを見ていた。
「なにか?」
「お前は…お前はどうしてここに止まり続けているんだ?お前はその首輪を自分で外せて何処にでも行けるんだろう?、まさか帝国に忠誠を誓ったというわけでもあるまい…であればどうして、どんな理由でここに居るんだ?」
「忠誠…とまでは行かないが、一応法国から逃がして貰ったことに感謝はしてるつもりだ、陛下の治療をすることが借りを返す事になると思ってここに止まってる、それに舘での歓待も正直嬉しかったしな…少なくとも恩を仇で返すようなマネをするつもりは無い。」
「信じても…いや信じるほかあるまい。」
ナトリはそれまでの思考を振り切ったかのようにスッキリとした顔でそう言い切る。
「話は変わるんだが、シルマの護衛とやらと会ったぞ。」
「…そうか、まぁいずれ話すことにはなると思っては居たが、少し早かったな。」
ナトリは先程までの少し余裕の出た表情を引っ込めると普段通りの表情になると重そうに口を開くのだった。




