森林と甲冑
パルブラの魔方陣に飲み込まれた後、俺とエンヘルはダンジョンに来る前に寄った街の近くに転移されていた。
「とりあえず…生きて戻れて良かった。」
俺は足下にすり寄るエンヘルにそう語りかけるとエンヘルも答えるように軽く吠える、エンヘルはレベルが上がったせいか少し様相が変わっていた。白銀の毛並みを覆うように所々にあった鎧のような外皮あるいは外骨格は光沢を持ち、以前より厚くなっており全身を覆うように広がっていた、頭にはまるで犬用のヘルムを被っているかのように鎧が着いており間からは鋭くもこちらを信頼し慕っていると痛いほどわかる目が覗いていた。
ステータスカードを見ると予想通り鎧狼だった所がガーダールームという新しい名前に変わっていた、残念ながら俺は知らない魔物だったが恐らく魔物として進化したのだろう。ミハイやニシャトも最初に眷属にしたときからレベルが上がることによって種族が変わっていた、スキルも上級氷魔法、中級体術、外装甲、などいくつか新しいものが増えているらしく後でゆっくり確認する必要がありそうだ、だが俺としてはそういった諸々のスキルのすり合わせよりもスキル欄に燦然と輝く人化のスキルがやはり一番気になるところだった。
「やっぱり人化のスキルは手には入ったか!これで今日は野宿の必要はなさそうだな?」
俺がそうエンヘルに向かって言うとエンヘルは何故か低く喉を唸らせる、必死に何かを伝えようとしているのか俺の周りをグルグルと回り始め最終的に服の裾を噛みグイグイと街の方へと引っ張っていこうとする。
「なんだ?どうしたんだエンヘル?」
いくらエンヘルが引っ張ったところで引きずられるほどエンヘルの力は強くないし、俺もそれで引っ張られるほど弱くも無い。ただいかんせんエンヘルの意図がわからない為素直に引っ張られてついて行くことにする。
「おいおい何処まで行くつもりなんだエンヘル?」
そんなことを言っている間にとうとう街の入り口にまで着いてしまう、俺は今まで全くこんな事の無かったエンヘルの唐突なワガママに驚きながらもエンヘルを眺める、エンヘルは俺をここまで連れてくると満足したように服の裾から口を離し森の中へと駆けていってしまう。
「うーん…?」
取りあえずエンヘルの好きにさせてみようとここまで来たわけだし最後まで付き合ってみようと思う、数分後林の奥から若干の淡い発光と共に獣の叫び声が響いてくる。野生の獣が苦痛に悶える絶叫は徐々に人間の悲鳴に変わっていく、余りの声量に少し心配になるがエンヘルを信じてその場で待つことにする。
もしかしてミハイやニシャトも人化するに際してこんな苦しんだのだろうかと思うと申し訳無い気持ちに苛まれる。そんな行き場のない罪悪感に身につまされていると森の奥から人影がのっそりと現れる。
「お騒がせして申し訳ございませんでしたケイ様。」
170後半くらいの身長だろうか?明らかに俺よりは大きいがミハイよりは少し小さいか、ニシャトと同じくらいの大きさだろうと思われる、全身に赤黒い西洋風の甲冑を身に纏った人物が俺の足下に片膝を付いて頭を垂れる。
「何度も…何度も、こうしてケイ様にお目通りして言葉を交わさせて頂きたいと思っておりました…。」
「お、おう。」
「…ッ!顔も見せずにご無礼を…失礼いたしました!」
エンヘル?はハッとしたように身体を跳ねさせると狼のような装飾の施されたヘルムを外すと透き通るような銀髪を短く切りそろえ後ろと横を刈り上げにした短髪の静観な顔をした人間が出てきた。
「おっ?おー?これは…どっちなんだ…?」
「申し訳ございません、どっち…とは?何がでしょうか?」
エンヘルは困ったように顔を歪めながら思案する。
「いや済まない性別がわからなくてな…まぁ別にどっちでも特に問題は無いんだが。」
眉目秀麗な細身の男にも見えるし、容姿端麗で鼻筋の通ったスタイルの良い女にも見えるのだ。
「なるほどそういうことで、私はメスですが…何か…不味いでしょうか?」
「いや失礼だったな、スマン。別に何も問題はないミハイも女だし、ニシャトは男だどっちだからどうって区別はないさ、ただ人間社会だと割と面倒くさいんでなはっきり知りたかったんだ。」
「ケイ様謝罪など私には必要ありません!私は既にケイ様の一部…いえ道具です、どうか気の向くままにお使い下さい。」
俺は跪くエンヘルの頭に手をぽんと置き軽く撫でると、肩に両手を立ち立ち上がらせる。
「敬意を持って使えてくれるのはとても嬉しい、感謝してるしこれからもっとすることになると思ってる、ただお前はお前だよエンヘル、俺は俺だしな。」
エンヘルは頭に疑問符を浮かべ頭を軽く傾けるこういう所はまだ狼の名残が残っているようで可愛らしい。
「ミハイもそうだったんだが過剰な敬意は盲信に繋がる、エンヘルが自分で是としたことはまずやってみろ事後報告でも良い、お前のやることなすことは恐らく俺も是とすることだと思ってるからな。」
「なんて…恐縮です…ありがとうございます、全身全霊をもってお仕えいたしますケイ様。」
エンヘルは感動に身を打ち振るわせながらもう一度跪く双眼には溢れんばかりの涙が貯まっていた。
「お前俺がさっき立ち上がらせたばっかでまた跪くのかよ。」
俺は少し笑いながらそう言うと再び俺の腰の位置まで下がったエンヘルの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「流石に寒いよ、街に入ろうぜエンヘル。」
俺の声にエンヘルは威勢良く返事を返し立ち上がり俺の隣にスッと移動してくる、街までもう数分もかからないところで俺はさっきからずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「そう言えば人化してからずっとコンコン鳴ってるけど…それは何なんだ?」
俺がそう聞くとエンヘルは雪のように白い顔を真っ赤に染めて顔を手で隠す、そして消え入りそうな声で言うのだ。
「…すみません…ケイ様にお会いしてから…その尻尾が…止まらなくてですね…鎧とぶつかってしまって…止めようとは努めてはいるのですが…スミマセン…。」
俺はからかって背伸びしながらエンヘルの頭を撫でると音は一層大きくなるのだった。




