一気にコッチに
目が覚めるとガバッと身体を起こす、取りあえず命拾いしたらしくサッと辺りを見渡すが見覚えのない石造りの一室だった、切り飛ばされた手と足は無事元に戻っていた。石のベッドに軽く何かの毛皮を敷いただけの簡素な造りだったため少し身体が痛む、ふらつきながらも立ち上がり外へと通じているであろう扉に手をかけようとするとその瞬間に反対側から扉が開く。
「お、おはよう…ございます?」
目の前に立ったスケルトンがカタカタと顎を動かすと恭しく頭を下げぴしりと伸ばした手で外に出るように促す、そのまま指示の通りついて行くと先程パルブラと出会った大広間に出た。
「あらもう起きたのね身体は大丈夫?本当ごめんなさいね、まさかケイちゃんだとは思わなかったのよ~。」
そこにはエンヘルにじゃれつかれているパルブラが居た。
「えーっと…」
俺はどこから指摘してどの疑問から解消すれば良いのかわからなくなり言葉が出てこなくなってしまう。パルブラは手招きしているので取りあえず対面に移動し腰を据える。
「そうよね何から話せば良いのかしらね…まぁさっきも行ったけど私は魔王軍輜重部…要は雑用とか事を起こす前準備専門の部隊の長をやってるパルブラよ、よろしくね。」
「あっはい魔王軍情報部…アルスさんの下で働かせて頂いてますケイと申します。」
言葉と共に伸ばされた右手を固く握り握手をする、その手は冷たくまた固かった、というか肉が無く白骨だった。
「あぁ私もスケルトンなのよ、びっくりした?」
パルブラは顔に手を当てると女の顔の皮をベリベリと剥がし髑髏が姿を現す。
「いいえ魔王軍の時点で人間ではないと思っていましたので。」
「ところでパルブラ様はこんなところで何をされていたんですか?」
「様は止めて頂戴アルスにもさん付けなんでしょう?同じで良いわよ、…で私が何をしていたか…ねぇ、一応機密事項だから言っちゃったら私の首が飛んじゃうのよね~。」
それほどの事なのかと驚きながらも表情には出さず質問したことを謝罪しようとするとアルブラはそれを手で制する。
「ケイちゃんはこのダンジョンをどう思ったのかしら聞かせて貰える?」
「え…ダンジョンにしては綺麗ですし、一直線の構造で寄り道が全く無いので玄関みたいだとは思いました…。」
細い指を顔の前で組むパルブラはゆっくりと数回頷く。
「玄関…なるほど言い得て妙ね、ところで私は輜重部の長に選ばれた要因は私の持ってるスキルが大きくてね。」
パルブラは手を横に軽く振ると見慣れた魔方陣が現れそこから数体のスケルトンが出てくる。
「この転移のスキルが便利でね、移動も物を運ぶのも戦闘にも使えるのよ。」
はぁと気の抜けた相づちをうつ、俺はアルブラが何を言わんとしているのかがよくわからない、アルブラは新しく二つ魔方陣を展開させると片方に持っている杖を放り投げる、するともう一方の魔方陣から杖が出てくる。
「こんな風に二つの地点を繋げてノータイムで移動出来るのが一番の強みかしらね、私自身も「実家」に帰るときなんか良く使うし友達にも使わせてくれ~ってよく頼られるのよ。」
俺はアルブラの言葉に耳を傾ける、自分のスキルを語るのは手の内を明かす事に等しいかなりリスキーなことをしてくれている。
「ところで話は飛ぶんだけれど――ケイちゃんはこのダンジョンを玄関みたいっていったわね?」
「はい、幻影の入り口からここに至るまでは動線一本でしたし…」
「フフッ…逆よ、ケイちゃんの言葉を借りるならここが玄関かしらね。」
ここが玄関?とすると俺が玄関だと思っていたあの一本道はただの通路…幻影のあった所が…出口、ここが玄関、ここが入り口…。
「っ?!」
「ンフフ、ケイちゃんって以外と鈍いのかしら?それとも人間社会になれ過ぎちゃった?」
「…パルブラさんどうして俺に、機密事項だったんじゃ…」
「別にケイちゃんが自分で気がつく分には問題ないわよ~。」
アルブラは楽しそうな声色で言うとパッと開いた手をグッと力を込めてゆっくりと閉じる。するとアルブラの座っている石造りの椅子の後ろに一際大きな魔方陣が現れる。
なるほどと俺は魔方陣の大きさとそれから放たれる禍々しさから確信に変わる、ここは魔界と人間の世界をつなぐ文字通り玄関なのだろう。魔方陣から人の頭ほどのどす黒い結晶が出てくる。
「それは今回のお詫びと常日頃の感謝よ是非使って頂戴。」
パルブラは触ること無くその結晶を浮かばせ俺の手元に持ってくる、怪しく光るその結晶からは異常なほどの力が込められていた。
「これは?」
「ダンジョンコアよ知らなかったかしら?」
「これがダンジョンコア?!」
ダンジョンコア自体は見た事があったがここまで大きくまがまがしい物は見た事が無かった。
「まだ輜重部長になる前に私が管理していたダンジョンのコアよ、私はもうレベル上げなくても良いし、魔族ってプライド高いから他人からレベルを貰うことは死んでもしないってヤツが多いのよ、邪魔だったしちょうど良いから遠慮無く貰って頂戴。」
「そういうことなら喜んで頂きますが…日頃の感謝とは何でしょうか?それに俺のことを既に知っていたようですし…」
パルブラは驚いた様に目を開く、いや正確には開く目が無いのだが目の奥の光が一層強く煌めく。
「ケイちゃん貴方コッチ側ではかなりの有名人よ?それに王都に居た頃にかなりの額を魔王軍に納めていたでしょう、金食い虫の輜重部としてはとってもとーっても助かっていたの!貴方に感謝してたり認めてる魔族は多いのよ、それ以上に貴方を鬱陶しく思っているヤツも多いわ。」
俺はパルブラの言葉に驚きを隠せない、まさか一度も言ったことのない魔界の連中からそんな風に認識されているとは思いもしなかった。
「だからアルスもケイちゃんが死んだことにしたかったんでしょうね。」
「そう…ですか…。」
「まぁ優しすぎるのねケイちゃんは、貴方魔族?魔物?の才能無いわよよっぽど自分で思ってるほど人間みたいね。」
「それはどういう?」
「あら気づいてすらいないの?ステータス見てみなさいよ。」
言われるままに俺はステータスカードに目を通すと驚くことにレベルが5になっていた。
「はぁ?!」
「エンヘルちゃんだったかしら?この子を逃がすときにレベルを全部譲渡していたみたいよ?無意識だったとはね、まさかレベル1の相手に私のスケルトンが負けるとは思わなかったけど、貴方はエンヘルちゃんにレベルを全部譲渡した状態で私の手下に勝ったからそれで少しレベルが上がってるんでしょうね。」
エンヘルのステータスを眺めるとレベルは25まで上がっていた、どうやら俺が無意識でレベルの譲渡をしていたことは本当らしい。
「今のケイちゃんは無防備にも程があるわ、悪いことは言わないからここでダンジョンコアを砕いてから行きなさいな。」
「何から何までお世話になって…ありがとうございます。」
「良いのよ、それにさっきも言ったけど私も私で随分迷惑はかけたし助けられたわ、それで貸し借りは無しね!」
俺は受け取ったダンジョンコアを右手で握りつぶすと中からあふれ出した魔力の奔流は俺の身体へと吸い込まれた、急激にレベルが上がっているのがわかる、全能感と共にそれまでは認識できなかったアルブラの圧倒的な力を感じ始める、ステータスカードを眺めるとレベルは30まで一気に上がっていた。
「流石…というべきかしらね、ソレをあげたのは正解みたいで良かったわ、それにエンヘルちゃんは貴方のレベルを貰ったおかげでいくつかのスキルを覚えたみたいだしもう人化出来る段階にあるんじゃ無いかしら?」
パルブラにそう言われエンヘルの欄に目を通すと確かにレベルは25まで上がっていた。
「エンヘルお前どうして人化しないんだ?もしかしてスキルは取得出来なかったのか?」
足下に駆け寄って甘えてくるエンヘルにそう問いかけるとアルブラは口を開く。
「わかってないわね~初めての姿はケイちゃんだけに見せたいってものでしょう?」
そう言う物なのかとエンヘルを見下ろすとか細く喉を鳴らした。
「さ、長居は無用でしょう?他言はしないから早いところここから出て行く事ね、準備は良いかしら?」
俺はパルブラにもう一度感謝を伝えるとパルブラは笑って俺たちの足下に魔方陣を展開させた。
「ダンジョンの外まで送るわよ、アルスにあったらよろしく言っておいて頂戴ね。」
パルブラはそう言うと転移を開始させ次の瞬間には既にケイ達はその場から消えていた。
「さて…仕事仕事!ここからまた忙しくなるわよー!」
パルブラは自分に活を入れると再びダンジョンもとい魔界と人間界をつなぐ道を作り始めるのだった。




