傍点
アンナに杖を突きつけられているため下手な行動は出来ない、敵意はありませんよと意味を込めてゆっくりと両手を顔の前まで上げる、突然の事態にアーチもソーヤも驚いた表情をしている、勘弁してくれお前の仲間だろ驚きたいのはこっちだよと思いながら口を開く。
「何故そう思われたかお聞きしても…よろしいですか?」
俺は顔の横に位置している手を軽く揺らしながらアンナに問う。
「えぇ…そうですね、私には上位の神官としての力があります、詳しく言うことは私の不利益に繋がりかねないので控えさせて頂きますが――この場において私の判断に異議を唱えられる人は居ないはずです。」
そう言い切るアンナに対してソーヤもアーチもこくりと頷く、ステータスカードを見るタイプの能力であれば俺のステータスカードは偽装がなされている筈…それをも掻い潜るスキルであれば投了であるが、そこまで確定的であれば問い無しに殺されていただろう、であれば確信は無いが少なくとも普通の人間では無いと何らかのスキルで判断されていると言うことだろう。
「アンナ様の質問には…そうでもあるし、そうでもない…としか言えませんね。」
「と、言うと?」
「私は吸血鬼系統と人間との混血で…ワンエイスと言えば良いのでしょうか?薄くはありますが魔族の血が入っているのですよ。」
俺は毅然とした態度でそう言い切りながらもあくまで両手は顔の横に上げ抵抗の意思がないことを見せる、少し思案した表情を見せた後アンナはゆっくりと杖を下ろした、それを見て少し大げさに息をつき両手を下ろす。
「そうでしたか…私のスキルでもなかなか見ない反応をしていたので少し気になったのですが、そういうことであればまぁ…合点はいきます。」
「わかって頂けたようでこちらとしても嬉しいです、それでは。」
「おいおいちょっと待てよ、俺はお前と俄然戦いたくなったぞ!」
興奮気味に身を乗り出してソーヤがこちらにしゃべりかけてくる。
「先程もお伝えしたとおり主人との約束があります故、それに勇者であるソーヤ様と私とでは勝負にならないかと…」
俺はちょっぴりと毒のある言葉を吐くも自分が負けるとは毛ほども思っていないであろうソーヤには響かない、助けを求めてチラリとアンナを見やると呆れた様に口を開く。
「貴方…確かケイとか言ったわね?かのシルマ殿下の右手であり、近衛師団一の実力を持ち尚且つ勇者であるソーヤと手合わせできる機会なんてそうそうあるものではありませんよ?」
マジかこいつら横暴にも程があるだろうと思いながらも何とか表に出ないように努める、それほどまでに身分の違いというものはここ帝国において圧倒的なのだろうと諦めることにした。
※
「準備はいいかぁ?」
アンナに首輪の交戦規定について弄られ戦うことが出来るようになってしまった俺はソーヤの前に立たされていた、腰に下げた立派な装飾の施された剣を引き抜くとソーヤは大上段に構える、俺も腰のロットンネイルを引き抜くと軽く振り切っ先をソーヤに向け軽く頷く。
力任せに振り下ろしてくる剣をロットンネイルでいなしながらこの後どうしようかと思案する、このソーヤとかいう男のレベルは5か6もしかしたら7あるかもしれない、数回斬り合った感じの感想はそんなものだった。
膂力は申し分ない剣が振り下ろされる度まともに受けているわけでは無いのに身体の芯に響く重さを持った攻撃をしてくる、今まで戦った中では文句なしにトップレベルに重い攻撃をしてくる、そのぶん立ち回りが少し雑な印象を受けた、身体がガラ空きになる瞬間が何度かあったため軽く剣先で突いてやろうとしたがその度に驚異的な身体能力で躱された。
前にステータスカードを見たときの俺のレベルが7だった筈なので大体同じくらいのレベルだろうと予想が付く。
「やっぱり想像通りだ!お前強いじゃねぇか!」
ソーヤはニヤッと笑うと全身に魔力を循環させ一気に放出させた、全身に魔力を纏い剣にも同様に魔力を纏わせていたそれは王国に居た際にオスカーが使っていた魔力の発光に近いものがあった、あー勇者ってこんな感じなんだ~なんて思いながら恐らく来るであろう渾身の一撃に備える。
大上段に構えてから振り下ろされた剣戟は波動を伴い地を這いながら俺にぶつかった、俺もロットンネイルに魔力を纏わせインパクトの直前に魔力の波動を素早くかき回すように切り裂く、最大限破壊力を殺し爆発の衝撃を受け後ろに吹っ飛ぶ、その瞬間に躁血を発動させ身体の至る所で内部から血を硬化させブツリと肌を突き破らせ体外に排出することで人工の傷を作る。
「やべぇ!本気出しすぎた!」
吹き飛ばされた俺は雪に埋もれながらこれでそろそろ終われるかなと考えながらもソーヤの魔力に触れた瞬間一気に力が抜け落ちた事に危機感を覚えていた、流石勇者というだけあって魔のものに対してはずば抜けた効果のある技を使ってくる、まともに喰らっていたらそこそこ良いダメージを受けてしまっただろう。
辺りの雪が俺の血で赤く染まって行く過程を眺めながら駆け寄ってくる足音を聞きゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫か?!悪いなちょっとマジになっちまったわ。」
「いえ流石勇者さま、わかってはいましたが私ではとても相手になりませんね、手心を加えて頂きおかげで命拾いいたしました。」
俺の言葉にソーヤは少し顔を歪めたが至る所からから血を流す俺を見てスッと表情を元に戻すと笑い飛ばす。
「まぁな勇者である俺が本気を出したら骨も残らなくなっちまうからな~、アンナに治して貰え俺からも伝えておくからよ。」
そう伝えると笑いながらソーヤはどこかへ歩いて行った、俺はそれを眺めながら服に付いた雪を払い軽くため息をつく。
「…何のため息なのかしら?」
「勿論、助かったと言うことから来る安堵のため息です。」
いつの間にか後ろに回っていたアンナに内心飛び上がりたくなったが軽く微笑み返す、アンナは俺に治癒魔法をかけながら口を開く。
「貴方…良い剣を使うのね?」
「…そうですか?友人にもらい受けたものなので…ソイツも喜びます。」
「そう…」
それ以上は特に会話も弾むこと無く淡々と治療を終えた、俺は深く頭を下げ礼を言うと舘に帰るためアンナに背を向け歩き出した。
「貴方…本気だった?」
後ろからかけられた声に振り返ること無くこたえる。
「当然でしょう?でなければ私はいまここに立っていませんよ。」
「そう…でしょうね、ただああ言っているものの少なくともソーヤは本気の一片を見せたわ。」
「……」
「それを貴方は凌いで見せた…そうね?」
「凌いだ…と言えるでしょうか?なんせあのやられようでしたし…アンナ様の治癒を頂けなければ失血死は避けられなかったかと思いますが。」
アンナは顎に手を当てて少し考えるような顔をする。
「いえ…考えすぎね、つまらない事を聞いてごめんなさいね行って良いわよ。」
言われるまま俺は雪の降り積もる帰路へとつくのだった、もう少し手抜きも上手くならねばと思いながら。
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