邂逅
高価そうな装飾の施された鎧に身を包んだ貴族をどうするか考え、とりあえずコイツの言う褒美とやらが何なのか聞くことにした、すると貴族は気持ちの悪い笑みを浮かべ口を開く。
「金か?それとも奴隷か?どちらもダンジョンの外にあるキャンプに用意があるぞ!」
生憎どちらも今は必要無い、金も手に入れたところであの舘にいる限り使う場面に出会わないだろう、奴隷も俺自身が奴隷の立場そもそも奴隷を所持できるのかと疑問であるし、眷属ならまだしも奴隷は必要無い。
つまりコイツを生かす価値はないだろう。
腰のロットンネイルに手をかけ抜刀しようとしたその時ダンジョンの奥から気配を感じ咄嗟に手を引く。
「アーチ様ご無事ですか?!」
アーチと呼ばれたこの貴族の部下であろう甲冑を纏った騎士達が駆け寄ってくる。
「貴様らが遅いせいで死にかけたぞ!お前らの寄越したこいつらはそろいもそろって無能じゃないか!!」
当たりで死んでいる騎士達を指さしアーチは罵声を浴びせる。
「コイツがいなければ私は今頃死んでいたところだったわ!」
急にやり玉に挙げられ驚いたのの表情には出さず、軽く微笑む。
「タイミングが良かったとしか私からは言いようがありませんが…見るにさぞ御高名な御仁であるようですし、間に合って私も心中ほっとしております。」
聞こえの良い美辞麗句を適当に並べその場を後にするべく背を向けるが案の定後ろから声がかかる。
「このボルトン・アーチの命を救った男に何も褒美を与えず返すわけには行かぬ!」
俺はため息を喉で殺し、振り向くと首元の服を少しめくり隷属の首輪を見せる。
「私はこの通り隷属に身をやつしている人間ですので…褒美などはとても頂けません。」
あくまで申し訳なさそうな表情をつくり俯いたままそう言う。
「なればこそ余計貴様の飼い主に対して褒美を渡さねばならんというものだ。」
自身の吐いた言葉にアーチは満足げに頷くと半ば強制的に俺はキャンプ地点へと連れて行かれることになった。
ダンジョンから歩いて1時間しないほどの辺りにアーチの言っていたようにキャンプ地点があった、いくつかのテントが張られ数多くの焚き火が用意されていた。
特に装飾の華美に施されたテントに案内されるとあれよあれよという間に食事が用意されていく、どうやら本当にもてなしをしたくてしょうが無いらしい、こういう手合いは自身の意見が通らなくては気が済まないタチだと相場が決まっているので適当に金でも貰って帰る方が良いだろう。
「ここまでして頂けるとは…感謝の極みでございます、私ここまで豪勢な食事に今までまみえたことがございません。」
俺が深く頭を下げると貴族らしい服に着替えたアーチはそうであろうと満足げに言いながら大声で笑った、腹は減って居なかったが全く手を付けなければ相手も気を悪くするだろうと思い少し手を付けた。
話題は報酬の話に移り、金貨数十枚と言ったところで話に決着がつきそうなところでテントの入り口から人影が現れる。
「アーチさん?!戻られたのですね、陛下も無理をするなと仰っていたのに…まったく、一歩間違えば命を落としていたんですよ!」
勢いよく入って来た茶髪を短く切りそろえた少年は語気を強めアーチに詰め寄る、それを後から入って来た神官服を纏った少女がなだめる。
「アーチさんも生きて戻ってこられたことですし…そこまで言わなくてもいいんじゃないですかソーヤ?」
腰程まで伸ばした青い髪の毛を揺らしながら神官服の少女はソーヤと呼んだ茶髪の少年の少し前にでて制した。
「まぁ…アンナがそう言うなら…ところでアーチさんそちらの方は?」
ソーヤと呼ばれた少年の怒りが収まった所を見てアーチはホッと胸をなで下ろした様子で口を開く。
「こやつこそ我の命を救った者で名を…確かケイとか言ってたかの?」
アーチは自慢げに立ち上がると俺に目配せをしてそう言い切る、無理にでも早いところ帰っておくんだったと軽く後悔しつつも呼ばれた以上対応しないわけにもいかない、椅子から立ち上がり片膝をつき名を名乗る。
アーチと呼ばれたこの貴族ですら周りの騎士の反応を見るにかなり高位の権力者なのだろうと容易に察しがつく、その貴族に対し敬称を付けず「さん」呼びをしてなおかつ注意をしたこの二人は歳こそ若いもののそれなりの権力を持っているのだろう、と推察してのこの最敬礼を選択した。
「ご丁寧にどうも、シルマ陛下側近近衛兵であり勇者のソーヤと同じく側近近衛兵のアンナ・クコリニクです、アーチさんの恩人であるとお聞きしました今回はご苦労でした。」
結果として俺の対応は間違っていなかった事に安心しつつもシルマ直属の兵しかも勇者と知り同時に自分の運のなさを呪った、軽く歪んだ表情を隠すように頭を下げる。
「いえ、アーチ様には私のような下賤な私めにも褒賞を下さりことばもありません、お食事まで頂き誠に浅学な私には言葉がありません、これ以上ご厚意に甘えさせて頂く訳にもいきませんのでこの辺りで失礼させて頂きます…」
俺は立ち上がり一礼するとテントを出るべく出口に向かって歩くが途中でソーヤに肩を掴まれ、同時にアンナからも声がかけられる。
「まだなにか…ご用でしょうか?」
俺は肩を掴んでいるソーヤを見た後同じくアンナを見る、二人はお互いを見合った後ソーヤが声をかけてくる。
「お前ケイとか言ったな?お前…強いだろ、それもかなり。」
ソーヤはニッっと笑いながらこちらに一歩踏み込んでくる、それをみてアンナは若干呆れたような表情を浮かべている。
「勇者であらせられるソーヤ様にそう言って頂けるのは恐悦至極でございますが…私はそこまで強くはありません、最低限自分の身を守れてそうで無い場合は逃げられるくらいのただの人間でございます。」
「おいおいそう謙遜すんなってよ、リビングメイルを倒したんだろう?それに最近まともな練習相手が居ないんだよ、一戦やろうぜ?」
クソ面倒くさい事になったと奥歯を噛むが、首元の服をめくり首輪を見せ要していたセリフ言う。
「この通り私は奴隷であります、当然主人から無用な人との争いをさけるよう厳命を受けております故…何卒ご容赦をお願いいたします。」
ソーヤは軽く舌打ちをしたあと目を見開き何かをひらめいたような表情をして口を開く。
「そのくらいの制約ならアンナが解除できるよな?!」
「えぇ…勿論、そのくらいであれば恐らく自身の危険が及んだ場合の抵抗は許可されているはずですしそこを調節してあげれば可能ですね…ただその前に一つ聞きたいことがあるのですが…?」
最悪だ、と思いながらもあえて表情には出さないよう努めて笑顔でアンナに向き直る。
「出来れば戦いたくは無いのですが…ところで私に質問とは…アンナ様なんでしょうか?」
アンナは俺から一歩下がり背に括っていた杖を右手に握るとこちらに向けてきた、魔術師や神官の杖は立派な武器でありこれは剣士に剣先を突きつけられている事と同義である、俺は若干冷や汗を流しながらも表情や声質は変えず問う。
「穏やかでは…ありませんね?」
「えぇそうですね…一つ、質問をします、偽ること無く答えなさい、貴方は…人間では無いのでしょう?」
最悪だ、と俺は今日という日を呪うのだった。
とってもとーっても遅れて申し訳ございませんでした…今後は最低でも週一更新は出来るよう心がけます。




