凍てつく四肢
医者数人をバラバラにした後、その場で俺も残った医者数人も取りあえず保留と冷静に判断を下したタリウスを見て流石一国の主なだけはあると感心してしまった、あの惨劇を目の前に眉一つ動かさずに俺の真意を確かめようと俺を刺す様に見つめていたのは恐れ入った。
すぐに管を流れる液体の調査が始まったが大して複雑なものでは無かったようですぐに毒物であると言うことが分かった、俺の言い分の正しさが証明され晴れて治療の開始かと思ったが驚くべき事にこの舘には拷問官が居ないらしく、また女の癒やし手達とこの舘の人間は随分仲が良かった様で誰もがそんな役回りをやりたがらなかった、職業的にも余り良い印象を持たれてはないし小規模なコミュニティには拷問官が存在していないこともあるのだろう。
ナトリも医者や癒やし手達という近しく見知った人間の裏切りに酷く動揺し、他の人間と同様に拷問官役をやれるほど冷たい人間では無いのだろう。つくづく人間臭いと呆れる気持ちとそう言った部分がやはり人間の根幹なのかと憧憬に近い思いも抱きながら俺は拷問官役を半ば強制的にやらされるのだった。
指定の部屋に入ると癒やし手の女三人を相手に舘の従者による聴取が始まっていた、従者の男も他の人間と同じようにこの女達と面識があるようで質問する口調も何処か遠慮がちで拷問とは程遠い、一応手枷などは嵌められ椅子に座り固定されているものの女達もそろって目を瞑り歯牙にもかけないといった風に質問の程全てを無視していた。
部屋も普通の客室で椅子もあればベッドも付いていた、監禁というよりは軟禁と言った方が近そうだ、かなり平和ボケしているというのが正直な感想で思わず苦笑いとため息が出てしまう、俺は従者の男に交代であると告げるとホッしたような顔をしてそそくさと部屋を出て行った。
「どうしたもんかな…とりあえず動機から聞こうかな?」
三人の中で一番近い女に話しかける、茶髪を肩当たりまで伸ばした女で
この中では一番歳上だろうかと思われる、正面に立ち質問を投げかけるがやはり反応はない。
「どうして自分の主を殺そうとしたんだい?」
顔をのぞき込みながら再度聞いてみるがやはり無視されてしまう、まぁ話す気が無いのであればこれ以上無理に聞いても仕方があるまい。
ポケットから小ぶりなナイフを取り出すと女の首元にゆっくりと刺す、動きはそこまで早い訳では無かったが危害を加えられまいと高をくくっていたのだろう、驚いた様に目を見開きビクリと大きく体を跳ねさせジタバタともがく、陸に釣り上げられた魚のように椅子ごと全身を震わせるとギィギィと木製の椅子が軋む音が部屋に鳴り響く、悲鳴を上げようとしたのだろうが喉から逆流した血が口元でブクブクと泡を立てるのみで大して声になっていなかった。
首を一周するようにゆっくりと突き立てたナイフを動かす、コップを倒したかのように首元から血が溢れ彼女ら癒やし手の象徴である白いローブが徐々に朱色に染まっていく、横目でそれを見ている他二人の癒やし手の女は最初こそ何が起きているのか分からないと言った顔をしていたが今は方や目から滝のような涙を流し絶叫を上げながら身を捩り、方や顔を絶望一色に染め俺に手を止めるよう懇願している。
「そんなに叫ぶくらいなら最初から素直に喋ってくれれば良いのに…」
女達を横目に俺はナイフを一周し終える頃には既に息絶えていたようで、刃を引き抜くとぐったりと体勢を前に崩し動かなくなった、死んだ女の服でナイフの血を拭うと「躁血」で当たりにまき散らされた血を吸い上げると脳に電撃の如く衝撃が駆け抜ける、端的に言うとこの血が非常に旨かったのだ、また同時に久しく感じていなかった全能感を覚えふとステータスカードを確認する。
魔道具の影響で下がっていたはずのレベルが七になっており徐々にだが元に戻ってきていたのだ、時間の経過なのか血を吸った事が原因なのかは知らないがともあれ悪い気はしない、ステータスカードをしまいすっかり発動しっぱなしにして忘れていた「躁血」を止める、が時既に遅し首を切った女はカラカラに乾き即席のミイラのようになってしまっていた。
「まぁ…仕方ないか。」
後片付けが楽になったと思うほかあるまいと自分に言い聞かせ次の女に先程と同様の質問をする、がこの女は先程の件を受けてパニックになっているのかな言葉になっていない、しかし何かを言おうとしてくれているのは伝わったので落ち着くのを待つことにしてとりあえず次の女に質問をしようと向き直ると女が先に口を開いた。
「私を…いくら痛めつけようが、…私は決して喋りません!」
見た目的にこの中でも一番若いだろうに強い語調ではっきりと言い切る、目元には涙を並々蓄え、恐怖か武者震いか体をガタガタと震わせながらも強い意志を感じさせるまなざしでこちらを睨み付けてくる。
「…なるほど。」
天晴れな気合いと根性だと素直に思った、今日は人間の人間らしい部分を多く目の当たりにして少し得した気分だ、もう少し興が乗れば拍手でもしていたところだ、それほどに俺はこの女に感銘を受けた、思わず口角が上がってしまうほどに。
俺は拷問に屈しないと言った女の目を見つめながらナイフをパニック状態で取り乱している女の首元にスッと寄せる、直前まで泣き叫んでいた女は一気に顔を真っ青にして俺に懇願を始める、まぁ何を喋っているのか聞き取れないのだが。
首元のナイフを先端をゆっくり押し込むと肌がその弾力で少しだけ抗うもののツプッっと先端が刺さり血がゆっくりと流れ出す、目線は合わせたままナイフを徐々に押し込んでいくと女は痛みでうなり声を上げ出す。
「悪魔…貴方に人の心がないのですか?!」
少し考えて口を開く。
「今のところは無いかな?」
ナイフを女の首元から引き抜き太股に深く突き立てる、絶叫が部屋に響き渡る。
「この娘の為にも早く喋ってくれないかな?」
俺は突き立てたナイフグリグリと回しながらニヤニヤとした笑みをうかべながらそう言う。




