偽証
息を吸う度にヒューヒューと喉が音を立てる、床にはバケツをひっくり返した様な汗が一面に広がっていた。
「うーん…今日はここまでにしておくかいニシャトくん?」
「いえ…まだ…やらせてください…」
ニシャトは息も絶え絶えながら自身の修行が遅れていることを実感していた、なぜなら姐さんは既に形態変化をかなりの練度まで仕上げていたにもかかわらず自身は依然部屋を煙で充満させそれを魔力に戻す段階だったからだ。
「疲れてるみたいだし、次の段階は結構危険だよ?」
アルス様は心配してくれるがニシャトは続行の意思を告げる、アルス様も折れない事を悟ると諦めて準備に取りかかってくれた。
アルスの指示通りにもう一度煙を部屋に充満させる。
「よしじゃあ今から十秒ごとにキミを殺す、もう十秒経つまでに身体を再構築して殺されるのに備えてね、じゃいくよ。」
俺はアルス様の言葉に耳を疑う、殺す?俺を?ニシャトの理解が追いつく前にアルス様の気の抜けた声でカウントが始まる。
カウントが十になった瞬間ニシャトの視界は真っ暗になる、何が起きたかもわからずどうすれば良いのかもわからなかったが身体は本能的に再構築を始めた。徐々に開けてくる視界と聞こえてくるカウント、ニシャトがある程度自分が自分である感覚を掴んだ頃には既にカウントは十になっていた。
※
「アナタホントに飲み込み早いわね~。」
「そう…ですかね?ありがとうございます。」
そう言われたミハイは以前よりも完成度の上がった羽を生やしながらそう言う。
「アナタに教えられることってもうほとんど無いのよね…ケイも良い眷属を貰ったわね。」
アラクネの言葉にミハイは頬を軽く染め喜色を押し殺す。
「私なんてまだまだです…もっとケイ様のお役に立てるようにならなくては…」
「あら随分ケイにお熱なのね?」
「なっ?!いや私如きがそんなことはッ!いえ決して慕っていない訳ではないのですが…なんというか!」
慌てふためくミハイを見てアラクネはからからと笑う。少し立ち冷静さが場に戻るとミハイは真剣な面持ちでアラクネに問いかける。
「私に教えることが無いとおっしゃいましたが…私はこれ以上強くなれないということでしょうか?」
「そんなこと無いわよ?ただ私が教えられる簡単に強くなる小手先の技はもう無いってだけよ。」
アラクネは簡単に片付けを済ませると自室に帰る準備を始めた。
「それに最近寝てないわよねだからどちらにせよ今日はもう休み、目の下クマ酷いわよそんなんじゃケイに嫌われちゃうかもネ?」
ミハイはパッと手をこめかみに当て軽く揉む。
「いかに訓練、修行をしたところで実際の殺し合いに勝る経験は無いのよ~、良い機会だし明日は人間狩りに出かけましょう。」
それだけ言うとアラクネは部屋から出て行った、同時にミハイも横たわり目を閉じた。
「ちなみにだけど…ケイはアナタが髪縛ってる時の方が好きみたいよ?」
悪戯っぽく顔だけドアからひょっこり出したアラクネはミハイに向かってそう言う。
「…根拠は…何でしょうか?」
ミハイは目を閉じ寝っ転がったまま聞く。
「縛ってるときの方がケイは瞳孔が大きく開いてるからよ、じゃあおやすみなさい。」
そのまま部屋を出て行くアラクネ、ミハイは新しい髪結い用の紐を買わねばと思いながら髪を手で雑に括るのだった。
※
俺は己の血液から作り出した剣を完全に体勢を崩した青髪の女の首元にピタリとつける。
「降参です…」
青髪の女は両手に握った武器を地面に落とすと両手のひらをこちらに見せる。
「なかなか面白かったそれじゃあ。」
俺は短く謝辞を告げると背を向けてメイのいる所に戻ろうとする。
「待って下さい、貴方の名前を教えて貰えませんか?」
「ケイだ、生徒会には最近入ったから流石の帝国も知らなかったか?」
俺の言葉に女は驚きそして何か確信を得たかの様な表情に変わった。
「何故…わかった?」
女はそれまでの慇懃無礼な態度から一変して戦士の表情に変わる。
「逆に聞こうか?何故わからないと思ったんだ?」
俺の言葉に表情を歪ませる女、帝国特有の武器であるチャクラムを持ち下級クラスには居るはずも無い特殊なスキルを使う人間が疑わしく無いはずも無い。
「要は軽い偵察だろ?流石に王国と戦争する余裕は今の帝国には無いだろうし、本格的に内戦が始まる前に巣に帰んな、見逃してやるよ。」
俺は躁血を解除する、剣が形を維持しきれなくなりベシャリと地面に落ちる。
「ケイ…貴方とはいずれ会うことになるだろう。」
「そりゃ勘弁して貰いたい。」
「私はナトリ…またどこかで。」
それだけ言うとナトリは徐々に存在感が薄れ人混みに消えていった。
「あれ?ケイさんお相手はどうしたんですか?」
木を背に腰掛けているとメイに話しかけられる。
「トイレ行くってさ。」
その後度重なる試合で汗だくになったルークとウィルに軽く嫌みを言われるのだった。
お気づきの方もしかしたらいるかもだけどサブタイトルは適当に決めてます。




