修練
「アルス様、俺の修行って何やるんですか?」
ケイ様が帰った後すぐさま俺はアルス様にそう聞いた。
「やることは粗方決まってるけど今日はゆっくりすると良い、何なら僕の部下にこの屋敷の案内でもさせようか?」
「いえ直ぐにでもお願いしますアルス様!俺強くなってケイ様のお役に立ちたいんです。」
俺は語気を強め身体を乗り出し気味でそう言う、アルス様も俺の余りの勢いに軽く引き気味になっていた。
「結構キツいと思うけど…」
「是非お願いします!」
俺はなんとか頼み込んでアルス様の首を縦に振らせた。
「わかったわかった…それじゃちょっと待ってね。」
アルス様はデスクの引き出しから何やら色々書き込まれた立方体の箱を取り出すとブツブツと独り言を言いながらその箱の大きさを変えた。次の瞬間俺の視界が白一色になる。
「へ?」
俺は辺りを見渡すとそこは何も無い四角の空間が広がっていた。
「とりあえずその空間をニシャトくんの煙でいっぱいにして貰えるかな?」
言われたとおりにニシャトは魔力を循環、煙を実体化させ部屋を埋め尽くした。
「おぉさすがだね、じゃあ煙を魔力に変化して吸収してみて貰っても良いかな?」
ニシャトは意図がわからず困惑しながらも言われたとおり煙を吸収する。
「じゃあぶっ倒れるまでこれを続けてね、何かあれば言ってくっれば用意するから頑張ってね。」
「えっ?ちょっと…」
ニシャトの言葉を聞くこと無くアルスは部屋から姿を消す、ニシャトは一人部屋を見渡すも不安になるほどこの部屋には何もなかった。
ただ立ち尽くすわけにも行かないのでニシャトは再び魔力の循環を再開した。
※
「あらちょっとアルスの見立ては甘かったんじゃ無いかしら…?」
ミハイの修行の指導を任されたアラクネはニシャト同様白い部屋で魔力循環をしていた、部屋は視界がゼロになるほどの鴉で埋め尽くされていた。
「この後はどうすれば良いのですか?」
「いや止めよ止め、貴方異常に強いわね…ホントはこの後この鴉を魔力に戻して貰うことをして貰おうと思ってたけどその必要もなさそうね…」
そう言われるとミハイは展開した鴉を一瞬で消す。
「それでは私は何をするんでしょうか?」
「そうねぇ~…私とここで実践形式の勝負しても良いけど…多分相手にならないだろうし…」
アラクネは顎に人差し指を当てながら思案する。
「相手にならない?私も最近二十五レベルになったばっかりなのでそこまで強くは無いと思いますが…?」
「ウフフやーねミハイちゃん、私の方が強いに決まってるじゃない?あんまふざけてるとぶっ殺すわよ?」
アラクネはそれまでの温和な口調を残したまま背中から節足をバキバキと音を出して生やす。その余りのプレッシャーにミハイは生唾を飲み込み後ずさる。
「あっ、そうだ形態変化の練習で良いじゃない。」
アラクネは自身の節足を見やると手を打って笑みがこぼれる。
「形態変化…ですか…?」
「ええ、貴方確か元は鳥よね?さあ善は急げ早速やりましょうか!」
アラクネはミハイの背中を押して別室に移動させた。
※
王都魔法学校食堂、俺は飯を作ってくれる優しい従者がいなくなったため仕方なしに食堂で飯を食う羽目になった。
「あれケイくんどしたの一人なの珍しいね?」
「アンバーさんこんにちは、ミハイは今…里帰りしてましてね。」
俺は日替わり定食を持ちながら列から離れるとアンバーもついてくる。
「わざわざ食堂で食べるんだね、私はあんまりここのご飯好きじゃないんだけどね~。」
「俺も好きで食ってるわけじゃ無いっすよ…」
俺はため息をつきながら手に持った定食を見る。
「ん?生徒会なら食堂で食べなくても出前取れるよ?」
それを聞くなり食堂のゴミ箱にトレイごとたたき込んで生徒会室に向かった。
「ケイじゃないかちょうど良いタイミングで来てくれたな。」
「オスカーさんどうしたんですか?」
俺が生徒会室に顔を出すと既に居たオスカーが話しかけてくる。
「武闘大会が迫ってるんでそのことを皆で話していたんだよ。」
「武闘大会?」
「何だ知らなかったのか?」
俺が聞き直すとルークがそう言う。
「毎年開かれている帝国、王国、法国の三国の教育育成機関対抗の武闘大会が近づいてるんだよ。」
「なんだそれ敵国ばっかじゃねえかよ?この時期にやることでも無いでしょうに。」
俺が吐き捨てるように言うとオスカーが鼻で笑う。
「伝統は時に利害を超えるものなのさ…特に権力者にとっては珍しいことではないよ。」
「そう言うものですか、まぁ俺は興味ないですね。」
俺はメニュー表を眺めながら昼食を選びながらそう言う。
「何言ってんだよケイ?生徒会は強制参加だぞ?」
「はぁ?!」
ルークの言葉に俺は飛び上がる。
「ケイは最近入ったから無理も無いよね、生徒会は校内で代表を決める段階から強制参加なんだよ。」
ルークの言葉をウィルが補足する。
「噂によると帝国はいま政変期にあるっぽいから今年は参加しないかな…法国は間違いなくちょっかい出しに来るよ。」
ウィルの考察を聞き俺はまた面倒くさい事になりそうだと思い気分もどんよりしたものに落ち込んでいくのだった。




