沙汰
ミハイが横たわる隣で古びた椅子に腰掛け本を読んでいるとミハイの瞳が見開かれる。
「おはようございますケイ様。」
「あぁおはようミハイ。」
俺は欠損した手と足を見やり軽く顎でそれを指す、するとミハイは軽く頷き欠損部位に羽を纏い手足を構築する。
「いつ見ても凄いなそれ。」
「お褒め頂き感謝の極みでございます、ですが馴染むまで時間がかかるので元通りとまでは…」
なるほどと頷きながら見た目は完璧に治った手足を見る、普段から病的なまでの白さの肌をしているが再生部分は輪をかけて青白かった。
「どうだ25レベルは?」
「正直負ける気がしませんでした…自分が別の境地に至った感覚が確かにありました…」
俺は眉を上げほうと呟く。
「何故…何故負けたのですか…私は?!」
ミハイはベットから勢いよく身体を起こすとこちらを見つめてくる、その視線には戦っていた時の殺意は無かったがそれに準ずる覇気はあった。
「わからないのか?自分で、自分の敗因が?」
ミハイは苦虫を噛み潰したような顔で重くうなずく。
「そうだな…単純に俺の方が強かったから、と言い切ってしまうのも事実だしアリなんだが…」
ピッと起てた指でミハイを指さす。
「お前は自分の得意技を突き詰めて攻撃している、これは戦闘中にも言ったことだ。お前は自身に対して言わば肯定的なやりやすい技を意識してか無意識かは知らないが多用する傾向にある。これはハマれば強い相手に一切の抵抗をさせずに完封できるポテンシャルのある立派な戦術だな。」
俺は差した指をクルクルと宙で遊ばせる。
「対して俺はある種お前の技に対して否定的な後手に回る技を多用した、技とも言えない受け程度だがな。後手は基本不利だ、先ほども言ったが相手の型が完全に決まれば何も出来ず窒息して死ぬ、だがなある程度の見切りと技があれば後手は後出しじゃんけんにもできるんだよ。」
ミハイは沈痛な面持ちのまま顔を伏せてしまう、それは俺の言ったことが紛れもない事実でミハイ当人にも思い当たる節があったからなのだろう。
俺は既に考え込んで自分の世界に入ってしまったミハイ横から立ち上がり部屋を後にする。
「何処へ行かれるのですか?」
ミハイはパッと顔を上げるとこちらをのぞき込んでくる。
「何処って学校だよ、それともまだ隣に居て欲しいか?」
「いっいえ!わざわざ私のために申し訳ございませんでした!行ってらっしゃいませ!」
俺がにたりと口を歪ませながらそう言うとミハイは顔を赤らめ両手をぶんぶん振って否定する。
「ハハッ、行ってくるよ…それと言い忘れてたが…」
「はい何でしょうか?」
俺は顎に手を当てミハイに背を向け部屋から出ながら口を開く。
「人間の身体にまだ慣れてないのかも知れないが…風呂ではへそもたまには洗っておけよ。」
「へ?そ、そういえば身体が…血が…落ちてる…?」
部屋から出てパタリとしまったドアの奥から押し殺された悲鳴が響き渡った。
※
生徒会特権というヤツで俺は別に授業に出る必要は無いのだが基本的に出席することに決めていたため、昼頃に学校に到着したことは若干の罪悪感の様な物が胸中に浮かんだ。
昼の昼食休みということもあり教室は軽くざわついていた、俺が教室に入るとその騒ぎは静かになる。皆一様にこちらを見ている、ある者は心配そうに、ある者は怯えのようなものから来るのか?なんとも言いがたい表情で見てくる。
名前も覚えていないような生徒に軽く囲まれ魔族との戦いについて質問攻めにされる、本当に鬱陶しいがここで無視を決め込むと逆に目立つのでとりあえず適当に返答しておく、が数が多い為俺が席に着くのにはまだ時間がかかりそうだと思案していると救世主が現れる。
「やあケイ、もう身体は大丈夫なのかい?」
流れるような艶をもつ金髪を差し込む日に輝かせながらウィルが話しかけてくる、流石王族生徒らは蜘蛛の子を散らすように下がっていく。
「お陰様でなんとか、それより質問攻めの方がよっぽどキツいかな、そっちも大丈夫なのかあの魔族にはひどくやられたじゃないか?」
「最近優秀な宮廷魔術師が入ってね、おかげもう完治さ。」
「おう騒がしいと思ったらケイじゃねえか。」
聞き覚えのある声に振り向くと何故かどや顔で仁王立ちするルークがいた。
「大分休みはしたが、おかげでな。」
「そうか、そいつは何よりだ。病み上がりで悪いが早速生徒会の仕事があるってオスカーさんが言ってたぜ。」
「じゃ、早速生徒会室に顔だしに行こうか、アンバーさんが酷く心配してたよ?」
俺は会わずともなんとなく想像がつく事に軽く笑いを覚えながらウィルたちと生徒会室へ向かった。
※
「久しぶりだねケイ、来て貰ったところ悪いんだがついてきてくれないかい?」
俺たちが生徒会室につくといつものように最奥のデスクに腰をかけているオスカーが話しかけてくる。オスカーの言葉に頷くとアンバーとメイを加えて移動が始まった。
道中アンバーに何度もダル絡みをされメイからはしつこいほどに体調の心配をされた。
「それで仕事ってなんですか?」
「あぁ便宜上君たちを呼ぶのに仕事と言わせて貰ったが、生徒会の仕事では無いんだ。」
ルークの問いかけにオスカーが応じる、他のメンバーの反応を見るに仕事の内容を知っているのはどうやらオスカーだけらしい。
「詳しい事は私より適任がいるからとりあえずついてきてくれ。」
オスカーはそう話しながらドンドンと階層を下り俺たち一学年の階まで降りていく、普段別学年の階層に行くことは禁止こそされていないもののあまり是とされていない為生徒会のオスカーやアンバーは特に目立った。
あっという間に生徒に囲まれるがウィルやルークがやんわりと断りなんとか通る事に成功した。
「す、凄い人気ですね…」
「そんなこと言ってメイちゃんにもファンはいっぱいいるじゃない。」
アンバーがメイにおどけて見せるがあまりの人の多さにメイは腰が引けていた。
「着いたぞ。」
「ここって…魔法実技準備室ですよね、こんなところで何を?」
「あ~ここね…」
ウィルの問いかけに応えるものはなく、ただアンバーは何かを察したように呟いた。
「あまり来る機会は無いだろうが…」
オスカーはそう呟くとノブ付きの引き戸の下に手を入れて押し上げるようにして扉を押し上げる、ドアは上にスライドして開くと中には大きな籠がぶら下がっていた。
「覚えておくと便利かも知れないね、さあ行こうか。」
籠の扉を開けるとオスカーは籠の中に入る、六人乗ってもそこそこのスペースのある広い籠だった、宙づりにされているにもかかわらず不安定さは感じず籠はそのままゆっくりと下降していった。
「なんすかこれ?」
ルークが目を白黒させながらオスカーに聞く。
「私も全てを知っている訳ではないけど…一つ言えるのはこれはガオナン校長の趣味って事だけかな?」
籠はゆっくりと下降を止め重厚な扉の前でその扉を開いた。




