諫臣
遅れてゴメン、でも本来の投稿頻度に戻っただけなの。
俺は圧倒的な全能感に身体を包まれていた、元は実体すら持てない煙の一眷属だった俺はニシャトという新たな名を受け、人化を得て飛躍的に強くなった。
視界映るもの全てが自身の脅威であった、その気になれば容易にギズモなど殺せてしまうようなものでこの世は溢れていた、しかし今はどうだ?
25というとてつもないレベルに至ったことで世界の色彩はまた一段と変貌した、そこらの人間や魔物など既に相手にならない、殺せる、勝てる、万が一にも負けなどあり得ない、俺は自身の芯から溢れ出る力に酷く酔った。
その酔いも、俺の生においての絶頂もミハイ姐さんと主人の戦いを前に吹き飛んでしまったのだが…
爆音と共に土煙を巻き上げ姐さんが吹き飛ばされて来る、あまりの威力に身体が地面を削りめり込んでいる。
「嘘ッ…だろ…?むちゃくちゃだこんなの…これがケイ様と姐さんの本気…なのか…」
俺は戦いの余りの迫力に言葉を失う、本気になった姐さんを初めて見たからだろうか?あれほど激しく感情を表に出した姐さんは初めて見た。
悔しそうに顔を歪め体勢を立て直す、至るところから出血しており、忌々しそうに鼻血を拭う、背から大きな黒翼が生えており正真正銘全力だろう、既に俺の目ではその動きを捉えることはかなわない。
だが俺が言葉を失ったのはそれではなかった、本気の姐さんに相対する高々レベル10の我が主人が無傷でそれをいなしている事に俺は驚きを隠せなかった。
眼で追いきれない程の姐さんの突進を虫でも払うかのようにケイ様は操血で何度も打ち払う、まるでボールの壁打ちをしているかのように姐さんは突進をしケイ様はそれを難なく弾き返す。
「わかっただろう?お前ではまだ無理だ。」
ケイ様はただ当然とそう言い切る、そこに冷酷さや蔑みは一切感じられない。ただ事実であるから淡々と言い切っているのだ。俺はケイ様の底知れぬ力に肝が冷える。
「ミハイ、お前は速度とその技量の高さによる手数の多さで相手を圧倒するタイプだ。」
ケイ様は棒立ちで血を操り依然攻撃の手を止めない姐さんを何でもないようにいなしながら喋る。
「開幕の速攻が通らなければ後は不利になるだけだ、それをよく表しているのがまさに今だ、違うか?」
姐さんはそれを聞くとカッと目を見開き初めて叫んだ、至るところから流血し口元からも血を滴らせながら地を割るのではと思う程の悲痛と憎悪を帯びたその叫びは俺の心を容易に砕いた、俺はその叫びと凄まじい魔力の奔流の迫力に腰が砕けてしまう。
そうして姐さんは今までで一番の跳躍を見せた。ほぼ水平にケイ様に飛び込む姐さんはもはや一筋の黒い線にしか俺の目には見えなかった。
身体の周囲に数百の羽を浮遊させ突撃と同時に羽を飛ばす、どれも羽虫のように簡単に落とされ姐さん自身も広く展開された血の障壁に薙ぎ払われる。
だが薙ぎ払われたはずの姐さんの身体は全て漆黒の羽に変わり崩れ落ちた。
「なるほど…面白い…」
そう呟いたケイ様の背後から姐さんは現れる、両手に双剣の様な形状にさせた羽をケイ様に向けて突き刺す。
「面白いが…初見じゃねえからなぁ…」
ケイ様はフッと体勢を崩し前に倒れる、地に伏す直前で手を着き後ろ蹴りで姐さんに足払いをする。
足をもろに捉えた蹴りは容易に姐さんの体勢を崩した。ケイ様は素早く体勢を整えると姐さんに馬乗りになる。
終わりか、俺がそう思った瞬間ケイ様は思いきりマウントを取った状態で姐さんの顔面目がけて振り上げた拳を叩きつけた。
「なっ?!ケイ様!それはやり過ぎで――!!」
馬乗りになった時点で勝敗は決した、このままでは姐さんが死んでしまう。俺はその一心で声を上げ叫んだ。
「25もレベルがあってわからないようじゃお前もまだまだだなニシャト?」
ケイ様は立ち上がり拳を地面から引き抜く、血と漆黒の羽がまとわりついたその腕は姐さんの頭を粉砕してはいなかった、その事実に俺は胸をなで下ろす。
「あの状況から抜け出すか…あらかた方法はわかったがどう俺の馬乗り状態から逃れた?」
ケイ様そう言いながら背後に振り向く、そこには片腕と片足が落とされ血まみれの姐さんが息を荒くして座り込んでいた。地面は既に血の洪水になっているものの残った手を地面につき肩で息をしながらその目はケイ様を睨み付けていた。
「私の…下半身に自分で…風魔法を当てて…離脱…しま…した…」
大量に吐血しながら姐さんはそう説明する。
「だが…俺の拳は避けきれず片腕を持っていかれた…そういうことだわかったかニシャト?」
「えっ?あっ…はい…」
いきなり会話を振られ俺はたどたどしく返す。戦闘中だというのにケイ様はそんな俺をみて楽しそうに目を細くする。
「さてお前のワガママもここまでだミハイ帰るぞ。」
ケイ様は姐さんに歩み寄ると手を差し出す、姐さんは力なくその手を握り返す。
刹那、姐さんの切り落とされた腕の断面から羽が吹き出したと思えば、その羽は新しい腕を形成しケイ様の首元を狙い鋭く突きを繰り出した。
「あと半歩…やはり甘いなミハイ。」
ケイ様は涼しい顔をしながら腕を掴むとなんの躊躇も無く腕をへし折りそのまま千切り捨てた。
「届き…ませんか…」
「当然だな、だが心意気は買う。」
短いやり取りが二人の間でかわされると姐さんは力なくケイ様の胸元に倒れ込み気絶した。ケイ様はお姫様抱っこの様に姐さんを抱えると家に向かって歩き出した。
俺はただそれを呆然と眺めて居た、落雷の如く始まった二人の争いは嵐のような激しさをもって行われ朝露の様に終わりを告げた。
「おい、おい!ニシャト!ドア開けてくれ!」
「あっ!はい今行きます!」
俺は果たして二人ほど強くなれるのか?改めて自分が立たされた状況を認識させられた、そして少しでも己を高めねばそう心に誓った。




