相違
俺の名前はニシャト、数週間前に主人からその名前を貰った。
特に意味が込められている訳では無いそうでそれはミハイ姐さんも同じだと言っていた。
普段であればミハイ姐さんに一日中訓練でしごかれるのだが今日は特例で休みになった、理由は主人であるケイ様が負傷により家で休んでいる為である。
ミハイ姐さんは買い出しに行っており俺はケイ様の警護を言い渡された、俺の横で寝息を立てるケイ様は全身を包帯で巻かれているものの年相応の少年の寝顔をしていた。
油でも付けているのかと思うほど艶のある黒髪は姐さんとはまた違った美しさがある、顔立ちも整っており幼さがあるせいか少女の様にも見える顔をしている。
俺は部屋にかかった鏡を眺める、人化したのはつい先日のことで自分で言うのもなんだがかなり顔の作りはいいと思う。
まぁ姐さんとケイ様の顔しか見ていなかったので自然と整った顔を作ってしまったのだろう。灰色の髪と目は特に意識はしてなかったのでこれは持ち合わせたものだと考えるのが妥当か。
「…ニシャトか、わざわざ悪いな。」
「いえ、ケイ様の警護をさせていただき光栄っす。」
ケイ様は体を軽く起こしてこちらを見ている。
「まだお休みになられた方が良いっすよ…」
「まぁそうだな、またミハイに怒られてもかなわないしそうさせてもらう。」
ケイ様はそれだけ言うとまたベットに横になった。
こうして力なく伏している姿を見るととても自分の主人であると言う実感が湧かない、ただの痩せっぽちの少年だ。
俺は別にケイ様に使えることに抵抗は無い、元々アッシュプラントの眷属として生を受けた事もあってか何者かに付き従うというものが本性に染み付いているのだろう。
しかしミハイの姐さんがケイ様の従者に甘んじていることは不服では無いにしろ疑問ではあった。
姐さんは恐ろしく強く、冷酷で美しい。技もその精神性も一流と言っても過言では無いだろう。
まだ人化が不完全な頃俺は何の気なしにその疑問を姐さんにぶつけた。「何故そこまで強いのに彼に付き従うのか?何がそうさせるのか」と。
結果姐さんの不興を買い俺という存在を消されかけたのだが…
その時姐さんは二度とふざけた質問をするなと念を押しながら教えてくれた、「彼は私にとっての神だ」と。
俺は再び寝息を立て始めた主人をぼんやりと眺めながらタバコに火をつけた。
ここまで強くして貰って主人には感謝はしてるし嫌いでも無い、むしろ好きだ。
しかし不意を突いたとはいえ俺が瞬殺できた魔族にここまでの手傷を負わされた主人に付き従って良いのか?という疑問は未だ俺の脳内にプカプカと浮かんでいる。
※
何か夢を見ていた気がする。
何かとても悲しい夢を。
思い出せない、が思い出してしまったら脆く崩れ去ってしまいそうなそんな夢を見ていた気がする。
俺はベットから身体を起こす、頬を冷たい何かが伝う。手の甲で拭うとそれは乾燥して少しパリついた血だった。
ベットの横の椅子ではニシャトがよだれを垂れして寝ていた。起こすのも悪いと思いそっと部屋を出て洗面台で顔を洗う。
「ケイ様もうお身体はよろしいので?」
タオルで顔を拭いていると後ろからミハイの声がかかる。俺は上着を脱いで包帯を取る、乾いた血がバリバリと音を立てて皮膚から剥がれる。
「見ての通り問題無い、ただ…湯汲みを頼めるか?」
俺は乾いた血が身体中にこべりついた様を見ながらミハイにそう言うと彼女は短く答え風呂の準備に向かった。
「ケイ様すみません!ちょっと寝ちゃったっす!」
ニシャトが慌ただしく部屋から飛び出してくる、俺は苦笑いしながら気にするなと軽く手を振ったが、準備を済ませたミハイには軽く小突かれていた。
「湯が沸くにはまだ時間がかかるか…二人とも手を出せ。」
俺がそう言うとミハイは椅子に座った俺に跪き頭を下げ片手をこちらに伸ばす、ニシャトも何事かと面食らった様子ではあったが見様見真似で同じような体制を取る。
「確かニシャトに分けて二人ともレベルは15だったな…それで俺が30か…」
俺が二人の手を握ろうとするとミハイが顔を上げ口を開く。
「ケイ様、お言葉ですがレベルの譲渡でしたら頂く事は出来ません…」
「…理由は?」
「ケイ様は我等が主人に御座います、御身の安全の為にもいかに我々の為とは言っても自ら強さを減らされてしまうのは得策ではないかと…」
「なるほど一理あるな、ただ今回魔族と戦って思ったんだがそこまで俺が強くある必要も無い、行き過ぎた力もこのままでは違和感を生むしそれで変に監視の目が強くなっても面倒だ。」
「ですが…」
ミハイは譲らない、がその言葉は俺に遮られる。
「それにいざって時にはお前らに守って貰えるだろ、違うか?」
俺が悪戯っぽく笑うとミハイは諦めたようにこちらを眺める、ニシャトは何の話か全く分かって無いようでぼーっとただ眺めているだけだった。
「分かりました、ケイ様のお力有り難く頂戴いたします…ただ条件をつけさせていただいてもよろしいでしょうか?」
ミハイの顔がその場の空気と共に変わる、本気の時の表情である。
「言ってみろ…」
「ケイ様を試すようで非常に心苦しいのですが…手合わせをお願い出来ないでしょうか?それでもし仮にケイ様の実力に不安があるようならばこの話はなしにして頂きたいのです。」
ミハイは半ば睨みつけるようにこちらを見る、その顔色からもミハイの本気度が窺える、本気でケイという存在を案じているのだ。
「言うようになったな?」
「全ては御身の為と…」
俺が威圧的に言うとミハイはスッと頭を下げる。
「分かったそれで良い、となるとレベルを分けた状態じゃないと意味がないな。」
俺はミハイとニシャトの腕をそっと包むとレベルを受け渡す。
ニシャトは突然自身の身体に力が湧く事に驚いて目を丸くしている、ミハイは先程より強くこちらを睨みつけている。
「ケイ様?私のレベルが25になったのですが…どういうことですか?」
ミハイの声には明らかに不快の色がありそれを隠そうともしない。
「そのままの通りだが?俺が10、ニシャトとミハイが25レベル、俺が10ずつ分けた、ただそれだけの事。」
「私は全員20で揃えるのかと、お戯れはやめてくださいこれから戦うのですよ?」
ミハイは声高に詰め寄ってくる。
「戯れ?自惚れるなよ?それで十分だからそう割り振っただけだ。」
俺はドアに手をかけ外に出る、既に日は落ち風は冷たく肌を撫でる。ミハイも後から続いて出てくる、ニシャトも不安げにゆっくりと後に続く。
「ケイ様、私が勝ったら例え私のレベルが0になって消えたとしてもケイ様にレベルを戻して頂きます。」
ミハイは俺の前に立ち語気を強めそう言う、身体の節々から漆黒の羽が現れ髪は重力に逆らい軽く浮かんでいる。
「やってみろよ、お前と主人の格の違いってやつを教育してやるよ。」
軽く構えを取るとミハイの身体から膨大な魔力が溢れ出てくる。手など既に一部人化が解けておりミハイの怒りの度合いが窺い知れる。
俺もミハイもほぼ同時にニシャトを見やる、一気に注目の的となったニシャトは動揺してあたふたしている。
「え?えっと…始め?」
ニシャトの号令と共に耳を覆いたくなるほどの破裂音が静かな夜に響き渡った。
データ飛んだんで更新送れました申し訳ない、これからもペースちょっと落ちると思われます。




