会敵
「おかしい…遅すぎじゃないか?」
ルークが未だ開かないボスエリアの大扉を睨みながら呟く。
「先生は中で先行しちゃった生徒にお説教でもしてるんでしょうか?」
「いやそういうことならボスを倒してからするはずだしボスが倒されればこの大扉は独りでに開くはず…。」
メイの言葉をウィルが否定する、下級クラスの生徒たちも異変に気づきざわつきだしている。
俺は特に何を言うことも無く現状リーダであるウィルの判断を待つつもりだったがウィルは何故か俺の方を見てくる。
「なんだ?」
「いや、ケイは心配じゃ無いのか彼らが?」
「別に全く心配してないわけじゃ無い、ただ俺たちの仕事はこいつらを引率の教員が帰ってくるまで面倒見ることだろ?」
俺はウィルの目を見ながらそう言う。
「確かに頼まれた仕事はそうだけど状況に応じた行動の変化は必然だろう?この場合安否確認のためにも僕たちも中に入るべきじゃ無いか?」
「私はウィルさんに賛成です…もし不測の事態で出てこられないのであれば助けに行くべきだと思います。」
メイの言葉にルークも頷く、立場上ルークはウィルの従者であるから当然ルークも賛成であろう、晴れて三対一で俺の提案は破れた。
「ケイいいね?」
俺はため息をつきながら頷く、それを確認するとウィルは生徒たちに向かって自分たちが5分立っても出てこないようなら帰校して応援を呼ぶように頼んでいた、下級クラスの生徒と言ってもここは初級のダンジョンなので帰るくらいなら十分可能だろう。
「よし行こう!」
ウィルが号令をかけると生徒たちは不安そうにこちらを眺めてくる、俺はその視線を別段気にすること無く大扉手をかけて中に入った。
「これは…」
メイが鼻に手を当てルークも異臭に顔をしかめる、ある程度の経験があればこの匂いは嫌というほど嗅ぐつまるところ血の匂いである。
不吉な予感を押さえつけながらボスエリアへ駆け足で向かう、するとそこには惨状が広がっていた。
ダンジョンの壁には至る所に血が飛び散っており、より一層濃い血のに匂いが充満していた。至る所に人間の部位が転がってもはや誰のどの部位なのかすら判断が付かない。
余りに凄惨なその状況を目の当たりにしてメイは吐きそうに、ルークは零れ落ちてしまうのではと思われるほど目を見開いていた。ウィルはある程度覚悟していたのか大きな動揺はしていないように見られた。俺はなんか昔の食事風景がフラッシュバックした。
「なんだ来たのは勇者じゃねえのか、またはずれじゃねーか。」
惨劇の主は奥から現れた見た目からして魔族だろう、青い肌に白い角が頭から伸び、細長い尻尾が腰の辺りから伸びていた。それまで引率をしていた教員の頭をバスケットボールのように人差し指の上でクルクルと回転させている、回転のたびくり抜かれ落ち窪んだ目から血がビシャビシャと飛び散った。
ウィルは早かった、矢のように魔族に飛びかかると腰の直剣を抜き放ち斬りかかった。魔族は慌てた様子も無くヒョイッと教員の頭をウィルの振るった刃の進路上に放る。
「っ?!」
ウィルは見覚えのある顔に抵抗感が勝ったのだろう、剣の進路を無理矢理変えて頭を避けることに成功した、がそれは同時に避けようのない隙を相手に与えてしまった事と同義である。それをわざわざ見逃すはずも無く魔族はウィルの腹めがけて渾身の蹴りを入れる。
足が隠れるほど腹部に食い込む蹴りをくらいウィルは壁に吹っ飛んで激突した。
土煙を上げ壁に打ち付けられたウィルは口と鼻からゴボゴボと血を流している、死んではいないだろうが再起は厳しそうで目から光が失われていた。
「ウィル様!!」
ルークは悲痛な叫び声を上げウィルに駆け寄ろうとする。メイは軽い悲鳴を上げ手で口を覆う。
「ルーク行くな!ウィルは死んじゃいない!!メイも両手を遊ばせるな杖を握ってくれ!!」
俺は大声でそれを制止して指示を出す、状況は非常に不味い特に指示を出すことに長けたウィルが居なくなったのは痛い。
「ルーク落ち着け、戦況を見誤るなお前の焦りはお前も俺たちも殺すことになりかねない。」
「あ、あぁ…あぁそうだな…」
なれないながらも檄を飛ばすとルークは我に返ると腰の直剣を抜き魔族に向き直り、メイも杖を構えて交戦の構えに入る。
「なにそれ?指揮官みたいじゃん格好いい~。」
魔族は俺を見ると人の悪そうな笑みを浮かべそう言う。コイツなかなか強い、身に受けるプレッシャーが尋常ではない。ウィルの速攻も決して悪手ではなかったはずだ、普通ならあの一撃で事は終わっていた、ウィルが首を避けたのにしてもあのスピードで迫るウィルに対して的確に一撃を入れるのはかなりの力量が必要だ。
「私はウィルさんを回復します!」
メイは俺たち二人の後ろに立つとウィルに対して回復魔法をかける、淡い光がウィルを包む。
「そんな大声で宣言されてさ…させるわけねえだろって。」
魔族は左手をこちらに向けると火球をメイに向かって放つ、かなりの速度で火球は飛んでくるがルークは危なげなくそれを直剣で切り落とす。
「メイはウィル様をお願いします!」
「は、はい!」
敵の攻撃に動揺し回復の手を止めてしまったメイはルークの言葉で回復魔法を再開する。既に口からの流血が止まっている事からもメイの魔法技術の高さがうかがい知れる、とは言え戦闘に参加出来るまで回復することは厳しいだろう。
「めんどくせぇなぁまったく、前のお前らから殺すしかねえか。」
魔族は気怠げにそう吐き捨てるとゆったりと距離を詰めてくる。
二対一、生死を賭けた戦いが始まる。




