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異法人の夜-Foreigners night-/第二部  作者: 夕月日暮
十二月七日(水曜日)
17/34

第十三話「その夜(前編)」

 一台のベッドに化粧棚とスタンド。そして夜景を覗くことが出来る窓。

 目に入るのはその程度。

 一般的なホテルの一室だ。

 遥はそこに"軟禁"されている。

 普通に見える窓も厳重な結界を張られているため、開けることは出来ない。二十四階の窓からでも"糸"さえ使えば脱出出来ると思っていたが、その考えは甘かったようだ。天夜からの報告で遥が魔術を盗んだことに気付いたのだろう。部屋を覆う結界は相当強固なもので、閉じ込められてから数時間、脱出のためにあれこれやってみたが、徒労に終わっている。

 時間ばかりが経ち、今はもう夕日も暮れてしまった。

 もう夜だ。時計がないから正確な時間は分からないが、あれから何時間ぐらい経ったのだろう。

 梢は、どうしているのだろう。

 それに美緒だ。

 遥はここに連れられてきたとき、重傷を負った美緒と、その治療に当たっている幸町に会った。

 美緒の表情からは生気が失われていた。幸町の様子から見ても、大分危うい容態だったのだろう。治療の途中で引き離され、この部屋に軟禁されてから、それっきりだ。

 零次は一旦亨にやられたらしいが、その後復活し、土門荒野と化しかけた草薙樵を打倒したらしい。

 ……漆黒の剣を使って。

 梢を倒した謎の包帯男も、漆黒の剣で梢を倒した。

 これは偶然なのだろうか。それとも、何か意味があるのだろうか。

 零次と包帯男にはもう一つ共通点がある。

 ……どちらも今のところ行方不明、か。

 樵を倒した後、零次は何も告げずに姿を消してしまったらしい。飛鳥井に拘束されることを嫌ったのだろう。

 零次がここに来てくれれば力技で脱出出来るだろうが、それは望み薄だろう。

「……くそっ」

 せめて梢がどうなったかだけでも知りたい。

 生きているのか死んでいるのか、それすらも分からないのだ。

 なぜなら――あの暗い光に呑み込まれた梢は、忽然と姿を消したからだ。

 痕跡も何もない。

 跡形もなく消し飛ばされたのか、それともどこかへ逃げたのか。

 それを確かめる術はなかった。

 ……今思い出しても腹が立つ。

 泉家の出身だというあの二人組。彼らがいなければ、こんなところで足止めを喰らう羽目になったりしなかったのだ。

 事態が収束した後、遥はすぐに身柄を拘束されたのだ。

 その際、二人組の女の方――姫とか呼ばれていた――から、ビンタを一発貰っていた。こんなところに来るなとか何とか説教じみたことを言われたが、他人にそんなことを言われる筋合いはない。いつか貰った分は返してやろうと心に誓っている。

 脱出出来ず、苛立ちばかりが募っていく。

 そんなとき、コンコンとノックをして入ってきた亨は――あまりにタイミングが悪かった。

「失礼します」

「何か用?」

「……相当やさぐれてますね」

 若干引き気味になりつつ、亨は居住まいを正した。

「倉凪のこと、言っておいた方がいいと思いまして」

「……美緒の治療は終わったの?」

「一応、は」

 亨は言葉を濁した。説明を促す遥の視線を受けて、言葉を選びながら話を続ける。

「当面、持ち堪えることは出来そうだ、というのが幸町さんの意見でした。ただ、自分では完全な治療が出来ないから、早急に一般の病院に移すべきだ、と」

「治療が出来ない? あの先生が?」

 幸町はモグリだが腕前は相当なものだ。それは遥もよく知っている。

 今の彼の立場は信用出来ないが、腕前だけなら信じるに足る。

「幸町さんが得意とするのは、魔術道具も混ぜ合わせた治療なんです。しかし、それは患者側がある程度魔力を操れないと通用しない。倉凪は、駄目なんです」

「……そうなると、普通の病院に連れて行って、適切な治療を受けさせた方がいいってことか」

「幸町さんも、一人では出来ることに限界がありますから」

 確かに、納得はいく。そして、そういう事情なら一刻も早く移して欲しかった。

 梢のことも心配だが――美緒も家族の一人だ。誰が一番、などと軽重を計れるものではない。

「それと……言い難いことなんですが」

「なに?」

 亨が浮かべた表情の暗さに、警戒心が湧き上がる。

「治療が上手くいっても、後遺症は残るかもしれない、と」

「具体的には?」

「脊髄が損傷しているかもしれない……って。歩けなくなるかもしれない、と」

 亨の発する事実。

 それは、遥の想像していたものよりもずっと重いものだった。

「だ、だけど可能性なんでしょ?」

「検査に必要な機器がここにはないから、幸町さんも断言しかねているみたいです。それでも、覚悟はしておいた方がいいと」

「……」

 幸町の医術の腕は確かだ。

 医療に関することで、彼が誤りを犯したことは、遥の知る限りではない。

「遥さん」

「……」

「教えてくれませんか。倉凪は、なぜあんなところにいたんですか?」

 遥は、美緒に会ったときその手を握りしめた。そのとき、彼女の中にある思いが遥に流れ込んできたのだ。その場にいた亨は、遥がそのとき美緒の何かを読み取ったことに気付いたのだろう。

「……なぜ、そんなことを聞く」

 聞いたって仕方ないじゃないか、と言おうとした。だが、亨の表情を見ると、そんなことは言えなくなった。

 気持ちの整理がつかない顔。自分の中のないまぜになった感情が分からず、それをどうすればいいのかも分からないような顔。

 きっと、自分も同じような顔をしているのだろう。

「冷夏さんたちの話では、倉凪は草薙に人質にされてあそこにいたわけじゃない。戦いの最中、何かを追うかのようにして走ってきたらしいです。そこを、土門荒野になりかけていた草薙にやられた……」

「追っていたんだよ」

 深い、深いため息をつきながら、遥は言った。

「追っていた? なにを」

「決まってる。草薙樵を、だよ」

 他に理由がない。草薙が暴れていたのは、避難場所の学校とは逆方向だ。そんな場所にあのタイミングで美緒が向かう理由は、他にない。

「でも、なんで」

 亨の疑問に、遥は答えようかどうか迷った。が、結局は話すことにした。

「美緒は……謝りに行ったんだ」

「は?」

 ぽかんと、亨が目を丸くする。それが当然の反応なのだろう。美緒の思いをダイレクトに受け取った遥は、そういう反応をする余裕もなかったのだが。

「草薙樵は、ちょうど半覚醒状態になる少し前、家に来てたんだ。そのとき、美緒と言葉を交わしてる」

「……どういう内容の会話だったんですか?」

「草薙は梢君がいないと知って……いや、違うな。梢君が家を出て行ったと知って、凄く怒ってた。周囲のために命を捨てるのなんて、偽善だって。腹が立って仕方がないから、決着をつける前に――必ず梢君を家に連れて来てやるって」

 遥の話を、亨は黙って聞いていた。草薙樵は、美緒を酷い目に合わせたろくでなし。そう思い込もうとしていた矢先、相手の意外な一面を知って戸惑っているのかもしれない。

「それで、倉凪は?」

「『あんたも身勝手だね』と」

「あんた"も"、ですか」

「美緒からすれば、梢君も……私たちも、皆身勝手に見えたのかもしれないな」

 今回の件で、一番辛い思いをしていたのは美緒なのかもしれない。

 実の兄は自分の死を半ば受け入れているし、周囲はそんな彼を巡って争い、傷つけ合ってばかりいた。そんな周囲に対して、美緒は何かしたくても、何も出来なかった。

 ただ見守ることしか出来ない辛さは、遥も知っている。かつて、遥の身柄を巡って梢と零次が対立していた頃、自分の非力さに打ちひしがれたこともある。

 それを、美緒の思いを受けるまで忘れていた。

「美緒は……いつも周囲を賑やかしたり騒ぎを起こしているから忘れがちだが、本当はうちの家族の中でも、一番優しい子だ。今回の件で、どうにも出来ない自分自身に苛立ってもいた。だから、そんな本音が漏れたんだろう」

「……」

「そんな美緒の本音を聞いた草薙は、一瞬だけ寂しそうな顔を浮かべていた。それを見て美緒は後悔したんだ。"やってしまった"と」

「……どういうことですか?」

「美緒はあれでかなり言葉を選んでるんだよ。亨だって、いつも美緒にあれこれ言われてるけど、本気で傷ついたことはないだろ?」

「まあ、それは。少し腹立つことはありますけど」

「美緒はね。幼い頃、親類の間をたらい回しにされる中で、自分を庇っていつも虐待されてる兄を見て育った。榊原家に来てから生活に余裕が出てくると……自分にも何か出来ることはないかと、思い始めたんだ」

 己の身を投げ出して、いつも自分を守ってくれた兄のように。

 自分も、誰かに対して、何かをしてあげられる人間になりたい、と。

 それは明確な決意ではなく――極自然に湧き上がってきた思いだった。美緒自身も、その思いについては上手く言葉に出来ないに違いない。

「そうして美緒は、言葉によって周囲を元気づけようと考えたんだ。いや、考えたというよりも、気づいてたらそうしていた、といった方が正確かもしれない。それを、美緒はずっと、私たちと出会うずっと前から続けてた」

 そういうところは、兄妹だな、と思う。

 誰かのために何かをしたい。その一念を持ち続けることは、とても大変なことなのに。

「だからこそ――不用意な一言で草薙を傷つけたことを、美緒はとても後悔したんだ」

 これは、言葉で説明しても分からないかもしれない。遥も、誰かから話としてこのことを聞かされたら、実感など湧かなかったに違いない。

 だが、直接流れ込んできた美緒の思いは、狂おしいまでの悲痛さに溢れていた。美緒の優しさや、草薙の事情が、後悔に拍車をかけて――

「そうして、美緒は消えた草薙を追いかけたんだ。『ごめんなさい』と、ただその一言を伝えるために」

 そんなところばかり、よく似た兄妹だ。

 他人のために、そんな些細なことで、後先も考えず。

 亨はしばし呆然としていたが――やがて沈痛な表情で頷いた。共に生活していた身だから分かるのだろう。美緒ならそうしたかもしれない、ということが。

「……とにかく、美緒は早めに病院に移してくれ」

「ええ。現在幸町さんが手配をしているところです」

 ぴたりと、言葉が止んだ。

 互いに憔悴している。今日は本当に、いろいろなことがあり過ぎた。

「……二人の捜索はどうなってる?」

「相変わらず、どちらも行方不明――というより生死不明です。冷夏さんたちは躍起になって探していますが、気配が全く感じられなくて」

「それは、死んだということか?」

「……そう思う人もいるみたいです。でも、僕は違うと考えてます。何か、嫌な予感がするんですよ」

「嫌な予感?」

「この静けさが、逆に怖いんです。嵐の前の静けさとか、津波が来る前の静けさとか、そういうものに似てる気がして」

 それは、土門荒野復活の前兆ということだろうか。

 遥が考え込んでいると、亨が複雑そうな表情をこちらに向けてきた。

「なんだ? 私の顔がどうかした?」

「いえ。ただ、遥さん変わったなと思って」

「私が?」

「ええ。こういう状況下だから張りつめてそうなってるのかと思いましたけど……なんだか、話しているとそうでもないみたいだ」

 言われても、遥にはピンとこない。ただ、必死に自分が為すべきことを考え、それを実行に移そうと考えているだけだ。

「……張りつめてるだけさ。私は、自分のやろうとしていることの先に、どんな結果があるのかも、まともに考えてない。その点、亨の方がずっと偉い」

「それですよ」

 亨はこちらの口元を指差した。

「口調といい雰囲気といい、まるで梢さんと話してるみたいです」

 だから、と亨は続けた。

「不安なんです。今の遥さんは、自分の身の安全を度外視してる。梢さんと同じように。少なくとも、僕にはそう見える」

 遥は何か言い返そうとして、やめた。

 確かにその通りかもしれない、と思ったからだ。

 今回の件が起きてから、遥の頭は梢のことで埋め尽くされていたと言ってもいい。美緒のおかげで少しは周囲を見られるようになったが、それでも梢のことを脳裏から離すことは出来なかった。

 守るべき対象を見つけた梢も、こんな感じだったのだろうか。亨からすれば、今の遥も梢と同じくらい危なっかしく見えるのだろうか。

「僕は、遥さんたちとは袂を別った身です。貴方たちのやり方に賛同することは出来ません。それでも案じてはいます」

「それは、分かってるよ」

 案じているからこそ、亨は離れたのだろう。だから、彼の行為を裏切りだとは思わなかった。残念ではあるが、怒りは湧かない。

「けど、私はここでじっとしてられない。最後まで梢君と一緒にいたいんだ。例え、どんな結果になろうとも」

「死にますよ」

 亨は断言した。

 梢の最期。それは決して安らかなものではないだろう。肉体的な死を迎える前に、土門荒野と化して精神的な死を迎える可能性もある。そのとき、遥が側にいれば、確実に殺されるだろう。

 さっきも、そういう状態だった。

 それでも、遥の思いは変わらなかった。

 一分でも、一秒でも、刹那の間でも、長く彼と一緒にいたかった。

「……その顔だと、言っても聞きそうにないですね」

「そんな顔してる?」

「ええ。梢さんそっくりですよ」

 盛大な溜息と共に、亨は立ち上がった。

「僕は倉凪の様子を見てきます。言っても聞かない以上、おとなしくしてろ、とは言えませんけど――無暗に命を捨てるような真似はしないでください」

「君もな。賛同することは出来ないが……私も、案じている」

 遥の言葉に、亨は足を止めた。

 僅かに振り返って、嬉しそうな表情を浮かべる。

「ありがとうございます、"姉さん"」

「美緒を頼む。"弟"よ」

 亨は握り拳でそれに応じ、出て行った。

 残された遥は、大きく息を吐いた。亨と話したおかげで、少し気が晴れた。美緒のことは胸の内に大きな不安を残したが、それでも一命を取り留めただけいいと考えよう。

 大事なのは、これからだ。

 今は、まだ前に進み続けなければ。

「少し休んだら――また脱出の方法を考えるか」


 軋む床の音。

 肌寒い夜風。

 そして、がらんとした部屋。

 目を覚ました零次は、自分が家にいることに気付いた。

 そして、自分のすぐ側には、あの包帯男――無現が座り込んでいる。

「ようやく目覚めたか。ろくに制御もせず、剣を振るったからそうなる」

 起きて早々に嫌味を言われて、零次は顔をしかめた。なんだか全身がひどくだるい。

「俺は、なぜここに?」

「我が主の命で、私が運んできた。でなければ、今頃は寒空の下で風邪でも引いていたことだろう」

「……主とは、郁奈のことか?」

 零次の問いかけには答えず、無現は音もなく立ち上がった。

「私としても、貴様にはベストコンディションでいてもらわねば困る。土門荒野が復活したとき、それを撃退出来るのは私か貴様、あるいは上泉陰綱ぐらいだからな」

「上泉?」

「泉家に連なる剣客だ。遥たちの父に仕えていた男でもある。今は飛鳥井に協力しているようだが」

「そんな男まで来ているのか」

「ああ。先代の土門荒野は、その遥たちの父親だった。上泉らにしてみれば、今回の事態は放置しておけないのだろう」

 さらりと、とんでもないことをこの男は口走った。

「……お前は、なぜそんなことを知っている」

「私もこの件の関係者だからだ」

「答えに、なっていない……!」

 抗議しながら起き上ろうとした。だが、身体が思うように動かない。

「言ったろう、ろくに制御も出来ぬ未熟者の身で、あの剣を振るった。しばらくは休んだ方が賢明だ」

 そのまま背を向ける無現に、零次は胸中の疑問を投げつけた。

「あの剣はなんだ? お前はなんだ? なぜ俺とお前は、同じ剣を持っている……!」

 無現は足を止めた。だが、振り返ることはしない。

 薄暗い部屋の中、包帯だらけのその姿は、黄泉路から迷い出てきた亡者を連想させる。あの剣も、似たようなものだ。無念というものが積み重なり、何かの間違いで形を得た。そういう印象を受けたのだ。あの剣からは。

「久坂零次の異法とは何だ」

 振り返らぬまま、無現は機械的な声を返す。その問いかけの意味は分からない。零次は僅かに逡巡して、

「俺の内に潜む悪魔の力を解放する。それが俺の異法だ」

「なぜ、見たこともないのに悪魔と分かる?」

「……?」

 零次は自分の胸に手を当てた。なぜと言われても困る。

「分からぬなら私が答えよう。貴様は己の内側にあるものに潜在的な恐怖を感じていた。時折自分を浸食しようとする、目に見えぬ恐ろしげな何か。その何かに対し、悪魔のイメージを抱いたのだ」

「……それと俺の質問に何の関係がある」

「話の腰を折るな。私が言いたいのは――貴様は、己の内にあるものが何であるのか、未だに見極めていない。ただ、その力を部分的に使うことが出来ているだけだ。正体不明の何かに対し、イメージによる形を与えているだけなんだよ」

 己が内側にあるものに、形を与え行使する――。

「それが、俺の異法だと?」

「そうだ。つまりあの剣は何か、と言えば、貴様が今まで"悪魔"と称していたものに他ならない。ただ、暴威を振るう悪魔から、敵を打ち倒すための武器に形を変えただけだ」

「なら――お前の剣と同じ形をしていたのは」

「敵を倒すための武器として、貴様が私の剣を想い浮かべたからだ」

 確かに、あの瞬間、零次は無現の剣のことを思い浮かべた。土門荒野になりかけていた草薙樵を、一撃で退けた脅威の武器。あれさえあれば、と思ったのだ。

 しかし。理屈の上では筋が通る無現の説明に、零次は何か違和感を抱いた。

「……無現。お前は何者だ。何をどこまで知っている?」

「これ以上答える必要はない」

 一拍置いて、無現は続けた。

「貴様は――知っているはずだ」

 ざわりと、背筋が震えた。

 同じようなことを、郁奈にも言われた。そのときと意味は違うが、何か両者の言葉には共通の"におい"がある。

 無現。現れるはずの無い者。圧倒的な力と、底知れぬ負の感情を持つ剣を振るう、包帯だらけの男。

 確かに、自分はその正体を知っているような気がした。

 その体躯。合成音のような声。その雰囲気。

 いずれも、知っているような気がした。しかし、どこかで噛み合わない。

「……分かった。これ以上は聞かん」

 聞いたところで、時間と気力の浪費だ。それよりは、梢を救う方法を考えるのが先決だろう。

「お前の主に伝えておいてくれ。心遣いは感謝する、と」

「ふん」

 無現は微かに鼻を鳴らして、闇の中へと消えて行った。

 それを見届けて、零次は大きく息を吐く。

 今すぐに動きたい。しかし身体が動かない。

 携帯を見る。メールの着信があった。亨からのもので、遥は飛鳥井の方で預かっていること、美緒は一命を取り留めたが、怪我はかなり重いもので、後遺症が残るかもしれないということなどが書かれている。

 今すぐ駆けつけてやりたいところだが、そうして自分まで拘束されては敵わない。

 ……亨がいる以上、危害を加えられることはないか。

 ならば、今零次に出来るのは梢を探すこと、そして彼を救うことぐらいだ。

 そう思った矢先――手にした携帯が、着信を告げた。

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