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山背は玄関の前で一度立ち止まり、中の気配を探った後、侵入する。
地縛霊というならば、ここに居る霊はこの土地に縛られている。しかし、縛られているのは土地だとしても、囚われているのは家の方だろう。
始めは出入りできたのかは知らないが、存在が増すにつれ囲いを無視できなくなり結果、家という名の箱に囚われている。
本格的に祓うのならば、装備も準備も足りないが、真昼間に様子を見るだけならば大丈夫だろう。
家に入った瞬間、標的の体内に入ったかのような霊圧を感じたが、山背は構わず中へと進む。
気付く気付かれないで話すとしたら、ここはもう霊のテリトリーの中だ。すでに気付かれているだろうが、大抵の霊はこちらが無茶をしない限り、昼間に何かしようとはしてこない。
しかし、いたずらに刺激するつもりも無いので、見つけたソレを壁越しにじっくりと観察する。
ソレは居間と思われる部屋の中央に立ち、しきりに何かを呟いているようだった。
何かを呟いているよう、というのも人語には聞こえず、砂利を踏み潰すようなざりざりとした不快な音が絶えず響いていたことから、呟きと判断したのみだが。
目を凝らしてみると、影は何重にもぶれる。
自殺の名所。
きっとアレがいるから自殺の名所となり、アレがいるから自殺の名所となり続けているのだろう。
どれだけ喰ったのかはわからないが、これ以上大きくなる前に叩く必要がある。
今の御曹司達には良い課題だろう。
能力者達は基本的にチームで行動する。どんなに優れた力を持っていても過信は慢心を呼び油断を作る。
霊は無形だ。大概は生前の姿に執着するが、自我が無くなれば無くなるほど、自分の姿にこだわりが無くなる。急に思ってもみない所から攻撃が来て、冷や汗が出るなんてことも多い。
御曹司達も今後どんなチームで分かれていくかはわからないが、アレを倒せれば見習い卒業も近いだろう。
危なげ無く中の確認を終え、玄関まで戻ってきた山背は庭を歩き門扉を出る。
御曹司達が一人前になれば、あいつも現場に戻って来るだろうか。
「凱」
「おー、卯木。こんな所にいていいのかー?」
丁度今、考えていた人物に名前を呼ばれて山背は驚いた。
てっきりこの保護者はまだお姫様達のお守りをしているとばかり思っていたが。
山背の考えていることがわかったのだろう。卯木は苦笑する。
「今日は自由行動の日だ。あいつらにはちゃんと家のお目付け役が着いているよ。俺は学校内と修行場でのお守りだからな」
何度か彼から聞いた説明に頷きながら、山背は身軽に卯木と肩を組む。
「まー。いくら綺麗所だらけっつったって、先生は気が抜けねぇよなぁ。どうする? 今日は真っ昼間から酒盛りといくかー?」
「明日から実習だからな。さすがに酒臭いまま子供等の前には立てねぇよ。お前、最終日までいる?」
「かぁーー! 聖職者はこれだからっ!! 最終日なぁ……。明日、確認と下準備で、明後日が祓いだろ? 2日後か……。何? 夜は別々なんか?」
「まぁ。決めてなかったが、いいだろ」
「おー。じゃあ、そうするかー。俺達は三日後にも一応見回りせなだから、まだいるし。問題無く清められてれば、役所にも連絡に行かな」
「ああ。いつも、すまんな」
「仕事なんで」
気安いやり取りが続き、珍しさに千世子は思わず聞き耳を立てる。
千世子や滝津達といる時とはまた違った卯木の一面に、少しそわそわする気持ちに興味が押さえられない。
まるで友達のようだ。
「……友達……?」
人間の時分は幼すぎて自分の兄としか思わなかったし、神に成ってからは、姿を見るのは滝津とセットが多かったので、”大人”な卯木しか知らなかったが。
卯木だって学生時代を過ごし、立派な社会人として問題無く働いているのだから、友人の一人、二人いたっておかしくは無い。
しかし……。
「……ねぇ、河子。にぃにって友達いたんだ」
ひそひそ。
「千世子様……。卯木さんも人の子です。そりゃあ、いるでしょう。お友達くらい」
こそこそ。
「でもさぁ。ずっと、ずぅっと滝津様達といるから、あたしゃてっきり、彼等しか親しい人がいないんじゃないかと……」
「ブッ! チヨ様……っ、それは卯木様がカワイソ過ぎるじゃないですか……っっWW」
「いやいや、河子。カワイソウなんて、そんなはっきり……」
「だって! チヨ様がっっ!!」
ひそひそ。こそこそ。
「こら?」
「あふん!!?」
穏やかな声と共に伸びてきた大きな掌に、真上から頭を掴まれた。
初っ端から結構な力が込められたソレに千世子は堪らず悲鳴を上げる。
「あだだだだだだだっっ!!? 取れちゃうっっ! 頭取れちゃうーー!!!」
「大丈夫です! チヨ様。取れる前には河子が止めますんで!」
「取れるって言ってる今、止めるんだよっっっ!!?」
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