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初めての人間のお友達と小旅行! と浮かれていた気持ちを引きずりつつも、久方ぶりの温泉に心行くまで蕩けていたい気持ちもぐっと押さえ、千世子は今日もお勤めに勤しむ。
夏らしく、名前は知らないがなんかだらけている卵の黄身のキャラ物Tシャツと、シンプル勝つ七分丈の綿パン。チャームポイントの黒髪一本の髪型はそのままなれど、今日は麦わら帽子も被っちゃったりなんかして。
これで、網まで持ったら完全に虫取り少年です。はい。
ちなみに! 最近掛け始めた眼鏡は忘れました(キリッ)!
宿で畳とお友達になっていた時に、顔に当たるのが痛くて放り投げ、そのまま忘れてきた所存です(キリリ)!
いやー、掛け慣れていないからか、眼鏡ってすぐに忘れちゃうんだよねー。
実際視力もそんなに悪くないから特に……灯処ちゃんには負けるけど……。
と心の中で一緒に来られなかった隠れ野生児に思いを馳せる。
「チヨ様。ここですよ。滝津お嬢様方の修行ポイント」
河子が鳴から送られてきた位置情報と照らし合わせながら千世子を手招きする。
鳴が滝津お嬢様とその周囲からスパイしてきた情報だ。
一体どのようなスパイ活動をしているのかは知らないが、いつもピンポイントで割り出してくるのでたいしたものである。
位置情報の送信とか、地図アプリの活用とか……、主よりも従者達の方が明らかにスマホを使いこなしているのがツライ……。
宿泊予定の高級旅館から離れ、小一時間。タクシーと徒歩を経てやって来ました森の中。
そして、目の前に見えまするは森の中にポツンと一軒家、の裏口。
正面の表庭に面している方面には、四家の調査員がまったりと常駐している。
おそらく、滝津様方の修行前に一般人の侵入者を出さないためだろう。
怪談スポットにでもなっているのかな。ここは。
というわけで、人目を避けてわざわざ道の途中から、公道を外れて森の中を突っ切ってきたわけですよ!
わはははは!! 虫除けスプレーが足りんぞ!
自分の基礎体力と戦いながら、河子に励まされつつ、ほうほうの体でやって来た千世子は改めて目的地を見上げる。
ボロボロとまでは言わないが、人がいなくなって久しい独特の雰囲気が醸し出されている。
古民家というほど古めかしくはない日本家屋は、正しく『ただ古いだけ』の民家だ。
塗装された外壁には蔦草が這い上がり、腰丈までに伸びた雑草で小さな裏口は埋まっている。
何度か調査員が入ったのだろう。裏玄関周りや庭の一部は踏みつけられたように草が横薙ぎになっている箇所があった。
千世子は目を細目、家屋を見詰める。
おもむろに脱いだ麦わら帽子を河子に押し付ける。ちょっと邪魔。
「あーー……」
「うーーん」
「なるほどねぇ」
「もうどうにも出来ないですねぇ……」
押し付けられた麦わら帽子を被りながら、河子も応じる。
力を隠すことも出来ず、存在を垂れ流している。
その輪郭を辿り、中に居るモノの概要を探るが、すぐに知れた。
中に居るモノは本能的に、外に居るモノ達の危険性を感じたのか、怯えるように身を縮こませている。
ただその黒々、どろどろとした粘性は隠しようもなく、酷く無防備にジロジロと見られることを許していることを除けば、少々やっかいなモノだとは言える。
あの卯木の優秀な弟分達は少々手こずるかもしれない。
けれど卯木の優秀な弟分達は優秀なので、しっかりと存在を把握し、計画を立て陣地を掌握すれば問題の無い良い課題となるだろう。
もしアレが灯処と友達になる時に出会ったような純粋な魂だったら、千世子が浄化して、別のちょっとあれな存在を引っ張ってくるという、とっっっても面倒な作業も考えていたりなんかしたりしていたが、今回はこのまま放置でおっけいである。
それよりも千世子が気になるのは……。
「ここは……」
「チヨ様。誰か来ます」
河子に促され、千世子は裏口の塀に身を寄せて気配を探る。
もう霞身は無いのだから、誰の目にも触れない方がいいに決まっている。
がさがさと草と土を踏み鳴らす足音。
千世子と河子はこっそりと敷地内に侵入し、外壁伝いに正面限界口を覗き込む。
やって来たのはラフなデニムパンツに柄Tと、害虫対策だろう長袖の上着を羽織った若い男性。
彼一人だけだったならば、ちょっと山道を逸れましたという雰囲気なのだが、後ろからさらに数人の男達がついて来たことで、その線は薄い。
正面入り口をやる気なさげにガードしていた調査員達だ。
「ここ?」
「はい。地元ではちょっと有名な怪談スポットになっているようで、自殺の名所にもなっているそうです。先に確認した者も、かなり強力な地縛霊と報告を上げています」
本当に怪談スポットになっていたらしい。
「地縛霊かぁ。だから結界も張ってないの……。怪談スポットになってるんでしょ? 君らが確認した後、一般人は来なかったの?」
「一回、大学生と思われる集団が近づいて来ましたが、見張っていた一人が声掛けをして帰らせました」
「あ、そう。なら、いいかぁ」
言いながら男は民家の玄関へと近づいて行く。
「山背さん?」
「本当に大丈夫そうか、一回は自分で見ておかないとねぇ。いくら卯木が一緒とはいえ、見習いにはキツいのもいるしねぇ」
山背と呼ばれた男は、濃い灰青の髪を指で弄んだ後、肩に掛けていたサイドポーチから羽をあしらったダーツの矢を三本出し、上着の胸ポケットへ入れた。
そこから流れる風の気配。
ああ……。風さんの所の人か。
一人頷きながら、千世子は山背が危なげなく玄関から家の中に入っていく様子を見守った。




