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「と、いうわけで、やって来ました課外修行……。休みの間に欠点を克服して、また一段と強くなっちゃうぞ計画の間も滝津様をお守りするぞ旅行ー……」
どん。ぱふぱふ。
いつかの時と同じようなセリフでありながら、まったくテンションが上がらないのは、巻き込みたかった人を巻き込めず、結局身内メンバーしかいないからだ。
「チヨ様。テンションもですけど、顔も死んでますよ」
「チヨ様。いいじゃないですか。小旅行にはかわりないっすよ」
四家の嫡子とお付きの仲間達にひっそりとくっ付いてやって来た高級旅館の一室で、すっかりと畳と一体化して腕だけ上げているテンション激落ちの千世子を尻目に、眷属二人はせっせと旅行の荷物を荷解き始める。
「あちらさん達も今日は休んで、動き始めるのは明日からのようですし、我々もまったりしましょう。温泉ですよ! チヨ様、温泉!」
久しぶりの温泉に目に見えてウキウキしているのは河子だ。
やはり、本性が河童であるからか、水の中や大きな水元の近くに来ると、心地良さそうにしている。
「おんせんかぁ……」
別に千世子だって、嬉しくない訳じゃないのだ。
むしろ風呂好き、長風呂派の千世子としては温泉なんて、願ったり叶ったり。可能ならば一日の大半を風呂場で過ごしたいくらい大好きだ。他人の迷惑になりそうだからやらないだけで。
でも、テンションが上がらない。
いつもなら交代と称して、滝津様の入浴をウキウキしながら見守りに行くのに。今回はそんな気にもならない。
何故なのか? そんなの分かりきっている。
じとじとと、畳に懐いて離れようとしない千世子にどう声を掛けて良いのやら。呆れた気持ちで主人を眺める河子を、後ろから水鳥がそっと止めた。
「…………」
河子の視線を受けそっと首を振ると、寝転がった千世子の体をあからさまに跨いで横切り「おい」正面に回り込む。
「水鳥。今、跨がなかった?」
そして、手に持っていたモノを千世子にそっと差し出した。
黒い額縁に入った灯処の写真を。
「やめなさい!! 縁起でもないっっっ!!」
〜〜〜
スマホの画面を確認し、パンツのポケットへしまう。
ひいこら言いながらも、何とか夏休みの補習を免れた問題児も、旅館に着いたようだ。
卯木は今日一日の行動予定を送信しながら、癖のように周囲の気配を探る。
窓の外、木々の中から僅かに感じた水の気配が一瞬のうちに遠退いたのがわかった。
本格的に行動するのが明日からとわかり、きっと鳴も千世子達の元へと戻ったのだろう。
悪いことをしている訳ではないのに、いつの間にやらがっつりと協力している自分に苦笑する。
今回四家の子供達の修行内容は、心霊現象の調査、及び解決だ。
この調査自体は彼等が普段から行っていることと大差無い。では何故この地区が調査の対象になっているのかというと、この土地に巣食う霊が悪霊である可能性が高いからに他ならない。
いや。すでに”可能性”とぼかす段階では無いのだろう。
この土地に猛威を振るっているのは間違いなく悪霊だ。
四家の嫡子達が向かう場所、ということで先に現地調査がなされ、報告されている。
”修行”と銘打っているのに、子供達の手に負えないモノと引き合わせるわけにはいかないからだ。
彼等の今の力量に程よく合致したのが今回の場所で、そして例にも漏れず、卯木は今回も彼等の保護者兼サポート役だ。
常のことなので、そこは弁えているし、了承もしているので不満も無い。……だが。
旅館のロビーで受け取った部屋の鍵を受け渡している彼等……いや、滝津の後ろ姿を眺める。
学校が長期休暇となり、会ったのはこれが初めてだ。
滝津はあのメールのことをどう思っているのだろう。
知っているのだろうか、あのメールの内容を。
メールの送り主に問いただしてみようにも、決まったことだ、としか言わないし、卯木の両親も、もしかしたらとは思ったが、取り乱しもしなかった。
滝津と一緒に行動している時点で、自分も候補であることはさすがに認識はしていたが、同年代の彼等を差し置いて、何故自分にきたのか。
しかも、卯木は槌永の直系に近いだけで直系では無い。
今まさに滝津の目の前で笑っている遥が槌永の本命なのだ。
同じ槌永ならば、滝津の同年代の上に直系筋の遥の方へ話が行くのが道理のはず。
にも関わらず、卯木の方へと話が舞い込んできたのだ。
”候補”だった滝津の婚約者の話が。
もし滝津がこの話を知っているのならば、今日会った時に何か反応があるかと思っていたのだが、彼女は常と変わらなかった。
だから卯木は、もしかしたら滝津はまだ何も知らされていないのではないか、と考えたのだ。
思い返してみれば卯木がメールを受け取ってから、滝津からは何の連絡も無い。
今日と限らず、ことの内容を知れば滝津から何かしらのアクションがあるのでは無いだろうか。
ならば今、無理に事を荒立てる必要も無いだろう。
何かの拍子で、まだ何も知らないように見える彼等にバレるのも宜しくない。
何故ならば卯木はこの話を断ろうとしているからだ。
可愛い妹分である滝津には、いらぬ恥をかかせたくは無い。
「つぎ兄ーー。部屋行くよー」
「おう。今行く」
卯木は良くできた方の弟分達の元へと向かいながら、問題児の方の少女に何と連絡を入れようかと口許を緩めた。




