A disagreeable old tale【高坂】
僕らはコンビニを出ると繁華街のビルを適当に散策してみる。
女性モノの服の良し悪しなんて分からないし、じゃあ男性モノならどうかと言えばこれまた自信は皆無。
「リンコはどんな服がいい?」
「…………」
……。
僕の傷を見てからずっとこんな調子である。
黙秘権を全力で行使する遠見さんはこんな時間を過ごしている場合じゃないのに。
残り4日。
僕らに、というか人間に残された時間はこれだけ。シェルターの人間にしたって一ヶ月ほど穴の中で縮こまってるだけで、本質的に結末は避けられない死。こんな事をしてるヒマはないのだ。
僕の過去は自分の手でケリは付けたのだから、もはや気にするだけ損する類のしょうもないモノなのに。
……。
よし。
「僕のあの怪我はクソみたいな両親が笑いながら付けたモノなんだ。13歳位までだったかな」
知らない、という事は想像の余地を与えてしまう。
遠見さんの想像の中で、どんな『可哀想な』僕がいるのか分からないが……僕は哀れみを受けられるほど立派な人間では無い。
「もちろんそいつらはナイフで八つ裂きにしたんだ。20歳の誕生日に。わざわざ実践の格闘技まで5年も習ってね。仕留め損なうなんて絶対に無いって思った。事実簡単だったよ。ごぽごぽ血を吐いてすごく滑稽だったのは良く覚えてる」
そしてひょっとしたら、僕は。
本来遠見さんみたいな子と一緒にいてはいけない種類の人間なのだろう。
「……もっと教えて」
……へ?
遠見さんは俯きながらもはっきりした口調で僕にそう言った。
意外、だった。
街路樹のセミの声は鳴り響いてるんだろうが、不思議と僕らの会話の邪魔にはならない。
「僕には姉が居てね」
「……うん」
「僕とは違う、女の子に対する虐待をずっと受けてた。目だけやたらとギラギラしていつも薄く嗤ってるような女の子にされちゃってさ」
「姉を助けたいって思ってたトコも、あったんだと思う」
そうでなければ意志が続かなかっただろう。
警察に駆け込む選択肢を早々に放棄した僕は、両親の殺害だけを楽しみに生きてきた。どんどんイカレていく僕には姉と言う道標が必要だったし、姉も僕の復讐を心待ちにしていた。
「でもさ」
しかし。
姉は違っていた。
「両親を殺して姉の部屋に飛び込むと、姉は部屋の隅で震えてた。姉は親を見る時と同じ目で僕を見ていて……血だらけの僕を恐怖の対象として捉えてたんだ」
「……うん」
「あの親共以上の極悪人を見る目だった。泣き叫び、全く僕の話を聞かず半狂乱で暴れるんだよ」
心は冷えている。
ありありと思い出されるその情景はもう、僕になんの感情も呼び起こしはしない。
「だから姉もついでに殺したんだ」
「……」
だんだんと朝の空気が陽射しに熱され不快な気温に変化していく。
僕の表面を流れる汗は他人事のように頬を伝うが、やっぱり心は冷えている。
あれ以来、僕はいつでも冷えているのだ。
「……だめですよ?」
と遠見さんが呟く。
ここで朝から通算しても本日一回目、遠見さんは僕の顔を真っ直ぐ見た。
「今更昔の告白なんかして『やっぱり僕は遠見さんと一緒にはいられないよー、腐った人間なんだよー』なんて独りよがりもいいトコロです」
「……」
「何度も言うけど悪ぶったってダメなんです。私が見てきた高坂さんは昔の高坂さんと違うから、そんな別人の話されたって何がなんだか分かりません。はい残念でした!」
どん、と。
僕の胸辺りに自分の頭をぶつける遠見さん。なにしろ僕との身長差が30センチくらいあるからそのままぶつければまあその辺りだろう。
「行きましょうよ!私早く服ほしいの!」
「……了解」
僕の手の平を握りぶんぶん振り回しながら歩く遠見さんは、とても20歳を超えた成人女性には見えない。
「リンコは変わってるね」
「高坂さんに言われたくないです!」
いぃー、と舌を出し僕を見上げる遠見さん。
その姿もやはり年相応の行動には全く見えなかった。




