第1話「お久しぶりです!勇者様っ!」
「|あえあ!ほほうけいおおをおあえお!《誰か!この無礼者を捕らえろ!》」
「では路銀を増やしてください」
聖職者が、国王陛下の頬を鷲掴みにしている。
「ロイドくんの命がかかっていますので」
「|よおいおいおああえいうおああ!?《余の命もかかっておるのだが!?》」
ロイドは数度自分の頬を叩き、エリシャの手を取った。
「エリシャさん! お願いですから、手を離してください!」
ぴたり。とエリシャの動きが止まった。
「ロイドくんのお願いなら」
ぱっ、と手を離す。あっさりだった。
「ごめんなさい。怖がらせちゃいましたね」
「い、いえ……」
エリシャは柔らかく微笑んだ。先ほどまでの恐ろしい形相が嘘のようだ。だが、その目は真っ赤に充血し、よく見ると、唇も震えている。
「……ごめんなさいね。本当に」
何故だろう。なんでこんなに悲しそうな顔をしているんだろう。
「全員、捕らえろ!《《そこの勇者もだ》》!」
「殺すぞ」
「えっ」
次に口を開いたのは、アンリだった。目は殺気立ち、国王を前に「殺すぞ」と言った。
「アンロジャー、いま、なんと申した……?」
「その人に手を出したら、殺す。この場で全員、焼き殺す」
ちゃんと言い直した。それも、かなり具体的に。思わず兵士が警戒すると、その武器を、戦士ルドガーが取り上げた。
「これをロイドに向けるなら、俺達と敵対するってことだ。命賭けろよ」
ぐしゃり、と兵士が持つ鉄の剣が曲がる。鉄が人の握力に負けていいのだろうか。
アンリはツカツカと国王に歩み寄った。
「先程の発言、取り消してくれる? ロイドを捕らえるってやつ。取り消さないなら、私もさっきの発言、取り消さないけど」
ロイドは頭を抱えた。こちらが悪いのだから、陛下にそのような——
「トリケシマス。ミナ、ブキヲサゲヨ」
陛下、取り消しちゃった。
「寛大な王の臣民に産まれられて、私はこの上ない幸せ者です」
先程の殺気が嘘のように引っ込み、アンリは帽子を脱いで頭を下げた。
「この度の非礼、宮廷魔法士である私からもお詫び申し上げます」
国王は「どの口が??」という顔をしていた。ロイドも同じ顔をした。しかし当の本人は、至って真面目に話を続けている。
「ここはどうか、私の官位ひとつで、ご容赦願えませんか」
「なにを!そなた、官位を手放すと!?」
「はい」
即答だった。ロイドも、周囲の兵士も、国王も、目を丸くした。宮廷魔法士とは、魔法士にとって最高峰の名誉だ。それを、こんなにあっさり。
「構いません。そんなもの」
アンリは一度だけ、ロイドを振り返った。
「もう、必要ありませんから」
その表情は、何故かひどく穏やかだった。
何がどうなっている????
結局、アンリの官位剥奪も、一時保留となった。変に刺激したらまた暴れられるのでは?と思われたのだろう。ちなみに、金貨は五枚のままだった。
王宮の外で、ようやく四人向かい合った。
「えっと、あの……」
ひとつ、ロイドには気になる言葉があった。
「生きている」そう言われたのだ。
まるで、自分が死んだかのような物言いだ。
この人たちには、そして自分には一体、何があったんだ……?




