訪問者
「ごめんください」インターホンが鳴り玄関から女性の声がした。
「主人の従姉妹のみゆきさんが亡くなったとあちらの妹さんからお聞きしまして。
近くに住んでるのでお焼香をあげさせていただいてよろしいですか?」と女性が現れた。
「あっ、すみません。今、父が居なくて…良いですか?」と公が玄関で対応すると三笠が後ろで仁王立ちする。
「アナタが大河内さんですか?」とぶ然と聞く。
「…はい、そうですが。あの…どなたですか?」女性は戸惑ったように公に聞く。
「あっ、僕のバイト先の人です。先生もお焼香に来て下さってて…あの」と気まずい空気が流れる。
すると公の携帯でライン音が。
「あっ、父からも連絡ありました!
母の骨壺を大河内さんに渡せと!」公が驚く。
「はい、あちらのお母さまがボケてみゆきさんが帰ってきてると言ってるらしいのです。
なので、骨壺を見せて亡くなったんだと分かっていただこうと話してるそうですよ。
私が預かるように言われて来ました。」女性がやっと安心したように微笑む。
「そんなよく知らない人に渡していいのかい?」三笠が焼香する大河内さんの後でブツブツ言う。
「でも、どうせ豊洲に引っ越す時に持っていくの悩んでたんで、狭い部屋しか借りれないし。
本当に東京家賃高くて。
この家に置いとくつもりだったし。
でも売却の不動産屋が出入りしたら、嫌がられるし悩んでたんです。」と公がオロオロする。
「大丈夫です。またお母さまに見せたら、こちらに持って帰って来ます。」と仏様みたいな顔の女性が微笑む。
「まあ、僕は口はさめる立場では無いので」と三笠が引き下がる。
しかし…なんとも禍々しい気配の女だ。
「では失礼します。」と女は白い家を出た。車に乗るとトートバッグの中に骨壺を入れる。
「フフッ、やっとご対面できたわね。
あちらで主人に謝って下さいよ、本当に…罰当たりが!」と言うとトートバッグを足元に置いて蹴り上げる。
車で暗闇坂の反対側のバス停前に車を停める。
「あら〜ッ、大河内さんじゃない?久しぶり〜」と更地横の屋敷から女性が声を掛けてきた。
「あっ、佳村さんの奥様。ご無沙汰してます〜」と大河内が頭を下げる。
「ウチのおじいちゃんもボケて今お世話が大変なの?
また介護ヘルパーに来てもらえない?」と大河内に頼む。
「今、近くで給食の仕事してるんです〜ごめんなさい。
でも、駅前の訪問介護『弥勒』の大牟田さんがピッタリだと思うので帰りに話しときますよ。
お年寄りは専属の方の方が良いので。割り増し料金になりますが。」と話す。
「えっ、まだお店の方と仲良しなの?」と女性が聞き返す。
「ええっ、皆で飲み会したり旅行もしてますよ。
この住宅街の事はほぼ筒抜けですよ〜」と笑う。
「お隣のおじいちゃん、すっかりヘルパーの大河内さんにゾッコンだったもんね〜
じゃあ、また明日駅前のお店に行ってみるわ〜ありがとう、大河内さん。」と家の中に入った。
「さあ、行きましょうか?みゆきさん」とトートバッグを下げて暗闇坂を大河内は登る。
「あなたのためにピッタリの骨壺入れを山頂に用意してあるのよ。永遠にあの家と共にね。」と微笑んで階段を登った。




