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追放された王女の娘は侍女となって家族を取り戻します  作者: 鶴見 日向子


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謎の男

アリスどうなった?

落ちた場所は、すぐに分かった。


そこだけ道が崩れていたからである。


「なぜ、こんな所まで来たのだ? 近くを走っていたのではなかったのか?」


厩舎の管理人の顔が青ざめる。


「この川の先は二つに分かれていて、その先には滝があります。もう一方であれば、下流は穏やかな流れなのですが……」


川に詳しい村人が、管理人へ説明した。


「どうか、滝に落ちていませんように……」


皆で祈ることしかできなかった。


アリス行方不明の知らせは、早馬で城にも届けられた。


村の若者が公爵の手紙を携え、王太子殿下のもとへ走ったのである。


「何ということだ。すぐに城からも捜索隊を出せ!」


しかし現場は両側が崖になっており、途中で道も途切れている。


捜索は難航した。


「なぜ、こちらへ行ったのだ? 普通、馬に乗っていれば広い道を選ぶであろう?」


捜索に来た騎士たちが不思議そうに言う。


「そこが、お嬢様ゆえでございます……」


管理人は頭を抱えた。


「なぜか、困難な方をお選びになるのです。カイル様も、ずいぶん困っておいででした」


やがて皆の胸に、アリスも父親と同じ運命をたどったのではないか、という不安が広がっていった。


王太子夫妻の嘆きは深かった。


だが、それ以上に打ちのめされたのは、公爵夫妻と侍女たちだった。


「いったい、なぜ……」


アリスの部屋を調べると、荷物がきちんと整理されていた。


机の上には地理の本と地図が広げられ、ベルンシュタインの地名に印が付けられている。


「まさか、カイルを探しに行くつもりだったのでは……」


夫人は言葉を失った。


「無茶です。あんなに方向音痴でいらっしゃるのに……!」


アリスは近くの村でさえ迷子になり、村人に連れられて屋敷へ戻ってくることがあった。


「あの子は、最初からいなかったものとして諦めるしか……」


公爵夫人はその場に崩れ落ちた。


「まだ、そう決まったわけではない」


そう言う公爵も、目を閉じていた。


(まさか、父親と同じようなことになるとは……)


屋敷の中は静まり返っていた。


ただ、厩舎の馬だけが、必死にいななき続けていた。



その頃、アリスは――


川に落ちた直後、ちょうど流れてきた流木をつかみ、何とかその上によじ登っていた。


「ああ……私って馬鹿だわ。もっと他に方法があったのに」


自分が方向音痴であることを、しみじみ思い出したのである。


「最近、外に出ていなかったからなあ……」


流木は川の流れに乗り、ゆっくりと下流へ進んでいく。


次第に川幅は広くなっていった。


辺りもだんだん暗くなってくる。


その時だった。


岸の方から、たいまつの明かりが見えた。


「こっちへ来い!」


男の大きな声が響く。


行きたいのはやまやまだが、流木は自然に流されるままである。


「どうしたらいいのですかあ!?」


アリスは大声で返した。


しばらくすると、声の主がたいまつを掲げたまま、岩の上をひょいひょいと飛び移り、アリスの乗る流木へ近づいてきた。


「何をしているのだ、そなたは」


男は呆れたように言った。


「あの……道を間違えて、川に落ちました」


「道? この川の上流沿いに道などなかったと思うが……まあよい」


男はたいまつを差し出した。


「そなた、このたいまつを持ちなさい。もう片方の手で、この枝をしっかり握っておくのだ。振り落とされぬようにな」


そう言うと、男は水の中へ入り、流木を後ろから押した。


流木は右へ左へと蛇行しながら、少しずつ岸へ近づいていく。


「どうして、まっすぐ進まないのですか?」


アリスが尋ねる。


「浅瀬が蛇行している。一つ間違えば深みに落ちる。気が散るから黙っていてくれ」


男の顔は真剣だった。


アリスはその表情を見て、口を閉じた。


そうして、流木に乗ったアリスは、何とか岸までたどり着いた。


「ふう……」


男は大きく息を吐く。


「たまに崖から落ちた人間が流されてくることはあるが、女の子は初めてだ。いったい、そなたはどこから来たのだ?」


「えっと……あっちからです」


アリスは少し考え、上流の方を指さした。


自分の住んでいた村の名前は思い出せなかった。


「お父様の家の近くを馬で走っていて……道を間違えました。村から出たことがないので、全然分からないのです」


男は、農村の娘だと判断したようだった。


「まあ、たまたま私が見つけてよかった。今日はもう日が暮れている。私の小屋で休むといい。明日、明るくなったら町へ連れて行く。家族も心配しているであろう。ついてまいれ」


小屋に着くと、そこは本当に小さな小屋だった。


「ここで二人、眠れるのですか?」


アリスはきょとんとして尋ねた。


「とにかく中へ入ろう。私もそなたもずぶ濡れだ。暖炉で体を温めなければ」


確かに、外の風は冷たかった。


「私は外で待っているから、先にこの服へ着替えなさい。私の服だが、何も着せないわけにはいかぬからな。できるだけ早く頼む」


男も少し震えている。


アリスは慌てて中へ入り、濡れた服を脱いだ。


そして男の大きなシャツを借りて身にまとった。


「着替え終わりました」


戸を開けて男を呼ぶ。


男は中へ入ると、濡れた服を脱ぎ始めた。


アリスは何事もないように、その様子を見つめていた。


「すまぬが、後ろを向いてくれぬか。見られたくない」


「あ、すみません。兄が着替える時、普通に一緒だったので」


そう言って後ろを向いた。


だが、窓ガラスに男の上半身が映り込む。


アリスは思わず息を飲んだ。


背中に大きな切り傷の跡があったからだ。


それは一瞬のことで、すぐに服に隠れてしまった。


「ふう……すまぬが、食事は一人分しかない。何も食べないよりはましであろう。分けて食べよう」


しばらくすると、川魚の焼き物、温かいスープ、そしてパンが出てきた。


お読みいただきありがとうございます

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