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追放された王女の娘は侍女となって家族を取り戻します  作者: 鶴見 日向子


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カイルの苦悩とアリスの危機

その頃、ベルンシュタイン城では――


「うーん……基本的な計算ができないのは痛いな。それに、文字もほとんど読めないのか?」


カイルは困ったように頭をかいた。


「それって何ですか?」


ヘンリーが首をかしげる。


「足し算、引き算、掛け算、割り算だ。


家庭教師はついていなかったのか?」


ヘンリーは、そっと視線を逸らした。


「自分が気に入らないからって、追い出したら駄目だよ。


それじゃ、一番困るのは自分なんだから」


「だって、勉強なんて大嫌いなんです!」


ヘンリーは頬を膨らませる。


「でも、そなたは頭がいい。


少し努力すれば、すぐ同じ年頃の子たちに追いつける」


カイルは穏やかに言った。


「でも、僕は王太子になんてなりたくありません。


国王なんて面倒くさいです。


客人に会ったり、領地を視察したり、ずっと気を張っていないといけないでしょう?


そんなの嫌です」


「それと勉強嫌いは別の話だ。


王太子になりたくないなら、なおさら勉強しないといけない」


「どうしてですか?」


「大人になれば、自分の力で生きていかなきゃいけない。


王太子なら苦手な仕事を部下へ任せることもできる。


でも一般の貴族になるなら、読み書きと計算くらいはできないと困るぞ」


「そうなんですか?」


ヘンリーは目を丸くした。


「兄上。


僕に勉強を教えてください」


その目は真剣だった。


「いいよ」


カイルは迷わず引き受けた。


(厳しく教えて、今までの家庭教師みたいに追い出してもらおう)


そう思っていたのだが――


気が付けば、アリスへ勉強を教えていた頃と同じように接してしまう。


「うん、上手だ。


その調子」


褒められるたび、ヘンリーは嬉しそうに笑う。


その笑顔が、どこかアリスと重なって見えた。


(違う、違う!


厳しくしないといけないのに……!)


しかし、その思いとは裏腹に、ヘンリーは面白いように文字を覚え、計算もあっという間に身につけていった。


「兄上、大好きです」


勉強嫌いで、文字もろくに読めなかった第二王子。


それなのに妙な知識だけは豊富だった変わり者が、第一王子の指導を受けてから、みるみる学力を伸ばしていく。


それに伴い、カイルの評価もうなぎ登りになった。


つまり――帰国は、ますます遠のいていく。


「なぜだーーーー!!」


カイルは頭を抱えた。


 ◇ ◇ ◇


アリスはカーティスを見送るため、玄関へ出ていた。


「カーティス様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「いえ。


どうぞ『カーティス』とお呼びください」


彼は優しく微笑む。


「カーティスは、お父様とどういうご関係なの?」


「公爵様が王都におられた頃、筆頭侍従を務めておりました。


現在は王太子殿下ご夫妻にお仕えしております」


「カーティスは結婚しているの?」


「はい。


妻と息子が二人おります。


アリス様より少し年上です」


「そう。


引き留めてごめんなさい」


アリスは少しためらってから尋ねた。


「お城までは馬でどのくらいかかるの?」


「馬なら半日ほどでしょう。


馬車ですと、一泊は必要になります」


「いろいろ教えてくれてありがとう。


お馬さん、またね」


アリスは馬の頭を優しくなでた。


カーティスが去っていく背中を見送りながら、小さくつぶやく。


「お城までの道を調べなくちゃ」


そして、心の中で決意する。


(お兄様は、私が見つける)


(ベルンシュタイン城の場所も調べないと)


しかし、アリスは地理が苦手だった。


その日から乗馬の練習を始めた。


成長して、小柄な馬なら一人でも乗れるようになっていたからだ。


カーティスが走り去った道を何度も往復する。


少しずつ距離を延ばしながら、道を覚えていく。


「うーん……ここで道が分かれているのね。


どっちかしら?」


しばらく考えた末、思い切って言った。


「えーい!


とりあえず右へ行ってみましょう!」


しばらく進むと、道は急に険しくなった。


眼下には川が流れている。


「戻りましょう。


ごめんね」


馬の首をなで、引き返そうとした、その瞬間だった。


突然、地面が崩れた。


馬は必死に踏ん張る。


だが、アリスだけが川へ投げ出された。


「ヒヒーン!!」


馬は崖を必死によじ登る。


そして一目散に屋敷へ駆け戻った。


厩舎へ着くと、激しくいななき、何度も足踏みを繰り返す。


管理人の顔色が変わった。


「お嬢様はどうした!!」


馬は必死に何かを訴えている。


前足も全身も泥だらけだった。


「まさか……分かれ道を川の方へ行ったのか?」


馬は「そうだ」と言うように、大きく首を縦に振る。


「川へ落ちたのかもしれん!


旦那様、大変でございます!!」


すぐに村人たちが集められ、川の捜索が始まった。


お読みいただきありがとうございます

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