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追放された王女の娘は侍女となって家族を取り戻します  作者: 鶴見 日向子


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リヒャルトの夢

この回は長文です

「上王陛下、まだ、ご無理でございます!誰か!誰か来て!!」

リリーヌの叫び声が、城のフロアに響き渡る


国王を退位した、上王は、ベッドから降り、杖を頼りに廊下を歩きだしたのである。


「おひとりではなりません!誰かに支えていただかなくては!」

リリーヌともう1人の侍女は、必死で上王を止めようとしたが、杖を振り上げられてしまう。

その時に真っ先に駆けつけたのは、王族の居住区にいた、ハンスとアリスだった。


「陛下、歩く練習なら、付き添いが必要です。私が側でお支えいたします」

ハンスが上王の横に行こうとした。アリスは上王の横に付いた


「そなたは、記憶が戻っていない。まだ信用できない」

上王が叫ぶ


「それとこれとは別でございます」


そう言いながら、上王は階段の手前まで動いてきていた。


「階段がございます。もう引き返してくださいませ」

リリーヌの声が悲鳴に近かった


「うるさい!」


その時、上王の上半身が横にふらりと揺れた。


「おじい様、危ない!」

アリスがとっさに支えようとしたが、ムリであった。


アリスは足をすべらせて、階段から落ちそうになる


その時、ハンスが走り、落ちる寸前のアリスを抱き抱えた。

そして、アリスを抱え込んだまま階段を転げ落ちていく。


そのまま、階段の下まで落ちていった。


「ハンス!ハンス」

アリスの声が響く


ハンスの顔には血の気がない

気を失っていて、ピクリとも反応しなかった。

そして、後頭部からは、血が流れだしていた。


その光景に


「いやあああああ!!!!」

と叫び声をあげて、アリスは、そのまま気を失ってしまった。


護衛達や侍従達、侍女達は大騒ぎになった。


ハンスとアリスが医務室に運ばれていく。


「後頭部を、どこかに強く打ち付けたようです。

傷は縫い合わせました。頭の怪我は出血が多いので、心配はありません。

アリス様を抱えていらっしゃったので、ご自分の身を守れなかったのでありましょう。

全身打撲もあります。

命に別状はないと思うのですが・・・。頭の中はわかりません。

急変になることもあります。決して、動かしてはなりません」


医師がハンスの状態を説明する。


「アリス様は無傷でございます。ハンス殿が必死で守られたのでございましょう」

リリーヌの目に涙が浮かぶ


「父上には、厳重に注意しておいた。ただ、年寄りなので、これからもあるかもしれない、男性を数人付ける。

女性の方がきめの細かい介護ができると思い、そなた達だけに任せてしまった。

私の判断ミスだ。そなた達のせいではない」


国王は、リリーヌ達に頭を下げる


「とんでもございません。私達の力不足でございます」

リリーヌも頭を下げる。


「頭を下げ合っても仕方ありません。とにかく、伯父上の意識が戻るように祈りましょう」

王太子がくちびるを噛みしめる


「父上、伯父上には私が付き添います。執務に戻られてください」

王太子がいう。


「わかった。そなたも疲れたら誰かと交代しなさい」

そういって、国王はカーティスを連れて、執務に戻る

振り返ったカーティスの顔色も悪かった。


王太子は、ベッドの脇にすわり、ハンスの手をにぎる

「アリスを守ってくださってありがとうございます。

それから、取ってきてくださったお魚、とても美味しかったです。

懐かしい味がしました。」


王太子はハンスに向けて語りかけた。


「伯父上は、伯母上と結婚なさる前から、僕とよく遊んでくださいましたね。

執務で忙しい両親の代わりに伯母上といろいろな事に付き合ってくれました。


私にいろいろな事を教えてくださいましたね。

魚を取るのは、全然できるようになりませんでしたけど。

あれは、本当に神業です」


それから、王太子はハンスに延々と昔の話を語り掛けていた。



ハンスは夢を見ていた


「エレナ様、なぜこのようなところに・・・」

城の外で、半べそをかいた女の子がそこに座り込んでいた。


「お部屋に帰ろうと思ったの」


「わかりました。いっしょに行きましょう。私から離れないでくださいね」

少女は、ハンスの腕をしっかりとつかんでいた。


そんな事が何回か続いていた・・・


次の場面


「そなたはエレナを見つけるのが上手いな。エレナ付きの騎士になってくれ」

「私は、農家の倅でございます。騎士さまなんて、とんでもない」

リヒャルトは必死に断る


「いや、一般の兵士にしておくには惜しい実力の持ち主でございます。剣の腕もすばらしく、騎士達よりもはるかに凄腕でございます」

騎士団長が強く後押しをする


「知識と教養がございません」

リヒャルトは必死に断る。農民が騎士になるなどありえなった。


「それは、私がお教えします。だから、リヒャルトお願い。あなたが側にいてくれたら安心なの」

エレナ王女からの懇願にリヒャルトは首を縦に振るしかなかった。


こうして、城内に騎士として立ち入りを許された、リヒャルトはどんどん頭角を現していく。


地形に詳しく、近道を見つけるのがうまい。


何でもできて、人柄もよく、次第に皆からも好かれていった。


そして、エレナから教えられる事もどんどん覚えていく


「とても農民だったとは思えないです。どこか、貴族と養子縁組させませんか?」

という声が国王の側近達からでていた。


そして、

「養子にしたい」という申し出も多数届いていた。


リヒャルトはそれらをすべて断った。


「私ごときがそのような、立場になる事など許されません」


何よりも、エレナ王女の側に居たかった。


貴族の養子になってしまえば、それが叶わなくなると思った。

「一生、お側にいて、お守りいたします」

エレナ王女殿下がどこかに嫁いだとしても、自分は付いていきます。」


リヒャルトは、人生のすべてをエレナ王女に捧げる事を誓っていた。


そして、エレナ王女も、リヒャルトと共に人生を歩みたかった。


「自分は、極度の方向音痴です。子供に遺伝したら困ります。

普通の貴族に嫁ぐ事はできません。一生独身を貫きたいと思います」


そういって、若い頃から、国王の手伝いを買ってでていた。

外交において、その手腕が発揮される。


海外の要人達からは「エレナ王女殿下にこの案件をおまかせしたい」という要望が集まった。


そして、国王が裁定に困っている時は、的確な助言をした。


必要と判断すれば、国王との仲介役もしていた。


王太子はそんな姉に頭があがらなかった。

姉より先に結婚する事を迷っていたが


「あなたは王太子です。早く跡継ぎを作らなくてはなりません」

そういって、相手を見繕って、結婚させてしまった。


そうして、2人の間には王子が生まれる

国中が喜びに包まれた。


執務に忙しい、王太子夫妻、エレナに代わり、よく王子の面倒を見たのがリヒャルトだった。

彼の家には、近所や親戚の子供、そして、弟や妹がいた。

子守りは彼の得意とするところだった。

王子はいつのまにか「おじうえ」とリヒャルトの事を呼ぶようになった。

「なりません。私は、殿下の伯父などではありません」

「本物の伯父になればいい。エレナ姉上と夫婦になればいい」

王太子は貴族との養子縁組を勧めたが、彼は断った。


「一生、国王陛下御一家に忠誠を誓います。騎士になれただけで充分でございます」


そんな時だった。


隣国、ベルンシュタインと国王とが、対面して、懇談している時だった。


部屋の隅にいたベルンシュタイン側の護衛がいきなり刀を抜いた。


リヒャルトは国王に頼まれて、その日の護衛を勤めていた。


「危ない!」

彼が身を挺して守ったのは、自国の国王ではなく、ベルンシュタイン国王だった。


相手の護衛は自国の国王を切りつけようとしたのである。

他の者は、てっきりアルディア国王が狙われたと錯覚し、そちらに気を取られていた。

リヒャルトだけが、相手の動きを正確に読んだのだった。


ただ、距離があったため、庇うだけで精一杯だったのだ。

間一髪のところで、国王を庇う事ができた。


そして、背中を切りつけられつつ、振り向きざまに、相手の騎士を殴り倒す。


両国の騎士達が殴り倒した騎士を取り押さえていた


「早く医師に診せろ」

国王が叫ぶ声が聞こえる・・・

その言葉を聞きながら、リヒャルトは意識を失っていた。


ハンスの意識は深い闇の中へ沈んでいた。


その闇の中に、一つの光景が浮かび上がる。


目を開けると、エレナ王女がすぐ側に座り、自分の手を握っていた。


「よかった……!気が付かれたのですね。」


エレナ王女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「お父様が私たちの結婚を許してくださいました。


ベルンシュタイン国王陛下のお命を守った褒美だそうです。


あなたはベルンシュタイン国の子爵に取り立てられました。」


エレナは涙をぬぐいながら微笑んだ。


「それから、国王の婿養子として、このお城でずっと暮らしなさい、と。」


涙と笑顔が入り混じった表情だった。


(これは……夢なのだろうか……。)


そう思ったところで、リヒャルトの意識は再び闇へと沈んでいった。



リヒャルトの傷が癒えるまでには、数か月を要した。


それでも命は助かり、以前と変わらぬほど元気に動けるようになった。


ある日、リヒャルトがぽつりと漏らす。


「本来なら、騎士が背中に傷を負うなど不名誉なのですが……。」


カーティスが苦笑した。


「その傷でベルンシュタイン国王陛下のお命が助かったのだ。仕方あるまい。」


その後、リヒャルトはエレナ王女と結婚した。


やがて二人の間には、かわいらしい女の子が生まれる。


「アリス」


国王自ら、その名を授けた。


アリスは多くの者に見守られながら、すくすくと成長していった。



ある日のことだった。


数日前から降り続いた雨は、その日ようやく上がっていた。


皆が胸をなで下ろしていた、その時。


城へ軍からの救助要請が届く。


「辻馬車が崖崩れに巻き込まれ、途中で引っ掛かっております。


中にはまだ乗客がおります。


騎士様方のお力をお貸しください。」


「私が行こう。こういう仕事は得意だ。」


リヒャルトは迷わず立ち上がった。


エレナは幼いアリスを抱きながら微笑む。


「くれぐれも無茶はしないでくださいね。」


リヒャルトは笑顔でうなずき、アリスの額へそっと口づけると現場へ向かった。


川は連日の大雨で大きく増水していた。


馬車は崖から突き出た太い木の枝に、辛うじて引っ掛かっている。


リヒャルトは命綱を身につけ、慎重に崖を下りていった。


そして馬車へたどり着く。


「まずは子供からだ。


大丈夫。必ず全員助ける。」


一人ひとりへ縄を結び、馬車の扉から外へ送り出す。


上で待つ騎士たちが力を合わせ、乗客を引き上げていく。


最後の一人を救出した、その瞬間だった。


馬車の重心が崩れる。


リヒャルトの命綱が馬車へ絡まり、そのまま切れてしまった。


馬車とともに川へ落ちる。


リヒャルトは必死に馬車の屋根へよじ登った。


しかし激流は容赦なく馬車を押し流していく。


崖の上から叫び声が響いた。


「踏ん張れ!」


「どこかに引っ掛かってくれ!」


「岩につかまれ!」


「頑張れーー!」


だが増水した川は茶色く濁り、岩はすべて水の下だった。


「ここで死ぬわけにはいかない……。


エレナ……アリス……。


私は、絶対に死なぬ!」



ハンスは勢いよく目を開けた。


全身が汗でびっしょり濡れている。


「夢……?」


起き上がろうとした、その時だった。


「だめです!


まだ起き上がってはなりません!」


リリーヌが慌てて駆け寄る。


「あなた様は階段から落ちて頭を打たれたのです。


動いてはいけません。」


その声を聞きつけ、医師と王太子、そしてアリスが部屋へ飛び込んできた。


「ハンス、私がわかる?」


アリスが心配そうに顔をのぞき込む。


ハンスは不思議そうに彼女を見つめた。


「エレナの声によく似ておりますが……。


お顔が違います。


そなたは、どなたですか?」


アリスに衝撃が走った。


「伯父上……。


僕のことも、おわかりになりませんか?」


王太子が静かに尋ねる。


ハンスは王太子の顔を見つめ、首を傾げた。


「王太子殿下……?


ずいぶんお若くなられましたね。


なぜ私が『伯父上』なのでございますか。


いつものように、リヒャルトとお呼びください。」


かすれた声だった。


王太子も言葉を失う。


医師が静かに首を振った。


「まだ意識が混濁しております。


昔の記憶だけが戻り始めているのでしょう。


焦ってはいけません。


少しずつ回復を待つしかありません。」


そして優しく言う。


「まだ起き上がってはいけません。」


ハンス――いや、リヒャルトは静かに目を閉じた。


「汗で寝間着がぐっしょりですね。


お着替えだけはよろしいでしょうか。」


アリスが医師へ尋ねる。


医師はうなずいた。


リリーヌと男性の従者が手伝い、慎重に寝間着を着替えさせる。


着替えが終わると、アリスは眠る父を見つめ、小さく祈った。


「どうか……。


お父様の記憶が戻りますように。」

ハンスことリヒャルトの過去の夢

夢の中の夢・・・・


お読みいただきありがとうございます

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