カイルとディシスの真実
公爵が真実を確認します
公爵は馬車に乗り、ベルンシュタイン王国へ向かっていた。
ある事実が判明したからである。
城に到着すると、国王との謁見が許された。
公爵は開口一番、静かな口調で切り出した。
「我が親戚に、カイルの出生について問いただしました。
その結果、カイルは間違いなくアルディア王国の貴族の忘れ形見だと判明しました。証拠も見つかっております。
それに、あの子の背中には竜のあざなどありません。
いったい、どういうことですかな?」
公爵の鋭い視線が国王を射抜いた。
国王は静かにディシスを呼ぶ。
「説明しなさい」
ディシスは一歩前へ進み、静かに頭を下げた。
「カイル様がお生まれになった後、前王妃陛下がお亡くなりになり、そのお子を預かったのは我が両親でございます。
そのことは陛下もご存じかと存じます。」
国王は黙ってうなずいた。
「その後、陛下は後妻を迎えられました。
やがて男児がお生まれになりましたが、そのお子は一歳にもならぬうちに病で亡くなられました。
もう少し早く医師に診せていれば助かったかもしれません。
しかし、王妃の周囲には頼れる侍女がおらず、手遅れとなったのでございます。」
部屋が静まり返る。
「その後、あの年老いた侍女から、
『亡くなった王子の代わりになる子がほしい』
と言われました。
そこで私は、我が家で預かっていた本当の王子――ヘンリー様を、そのまま王宮へお返ししたのでございます。」
公爵が息をのんだ。
「つまり……」
「はい。
ヘンリー様こそ、陛下と前王妃陛下との間に生まれたご子息でございます。
国王陛下の実子は、現在、ヘンリー様お一人だけです。」
国王はその場で固まっていた。
「老婆が私に逆らえなかったのも、この事実を王妃に知られたくなかったからでしょう。
自分の失敗が明るみに出ることを恐れていたのです。
幸い、ヘンリー様は幼い頃はとても小柄でいらっしゃいました。
そのため誰も疑問を抱かず、そのまま後妻の子として育てられました。」
ディシスは少し表情を和らげた。
「私は、できる限りヘンリー様のお側にいるよう努めました。
ところが、ある日、『前王妃の子が生きている』という噂が流れ始めたのです。
私は身代わりを探さねばなりませんでした。」
公爵は黙って聞いている。
「国内では出自がすぐ判明してしまいます。
そこでアルディア王国へ向かいました。
田舎から出てきたという素朴な少年。
成績は首席。
誰にでも優しい。
身代わりには、これ以上ない人物だと思いました。
その時点では、まさか、公爵家の養子だったとは夢にも思いませんでした。
後から知りました。
この件につきましては、心よりお詫び申し上げます。」
長い沈黙が流れた。
国王がようやく口を開く。
「ということは……カイルは、私の息子ではなかったのか。」
「その通りでございます。」
ディシスははっきりと言い切った。
そして少しだけ目を伏せた。
「私は陛下にも、前王妃陛下にも深く感謝しております。
ですが……亡くなった後妻は、元々、私の兄の婚約者でございました。」
公爵が目を細める。
「彼女は王妃になりたい一心で、前王妃様が亡くなられた直後、兄との婚約を破棄し、王宮へ嫁ぎました。
兄はそのことを苦にし、自ら命を絶ちました。」
静かな声だった。
だからこそ重かった。
「兄は本当に優しく、尊敬できる人でした。
だから私は、ヘンリー様が『兄に会いたい』と願われたお気持ちが痛いほど理解できたのでございます。」
ディシスは公爵へ向き直る。
「公爵閣下には関係のない昔話までしてしまいました。
申し訳ございません。」
そして深く頭を下げた。
「図々しいお願いとは承知しております。
どうか、カイル様に時折こちらへ来ていただけませんでしょうか。
ヘンリー様は、カイル様がおられた間、本当に幸せそうでございました。
どうか、お二人の絆だけは失わないでいただきたいのでございます。」
深々と頭を下げたまま動かない。
公爵はしばらく黙っていた。
国王への忠誠は理解できる。
だが、息子を勝手に連れ去った事実を簡単に許すことはできない。
「少し考えさせてくれ。
また来よう。」
公爵が立ち上がった、その時だった。
「公爵閣下。」
部屋へ入ってきたのはヘンリーだった。
「どうかディシスを責めないでください。
兄に会いたいと頼んだのは、僕なのです。」
ヘンリーは真っすぐ公爵を見つめた。
「カイル兄上は、本当の兄以上の存在でした。
恩人です。
最初から何度も『帰国したい』とおっしゃっていました。
それを引き止め続けたのは、僕です。」
ヘンリーは頭を下げた。
「謝って済む問題ではありません。
それでも、お許しをいただきたいのです。」
公爵はしばらくヘンリーを見つめ、静かに言った。
「国王陛下はまだお若い。
今度こそ、よき王妃を迎え、子が生まれたなら、そなたは兄になれる。
その弟や妹を大切に育てなさい。
それができた時、私はそなたを許そう。」
ヘンリーは力強く頭を下げた。
「必ず、そのようにいたします。」
公爵は微笑んだ。
「よい子だ。
カイルが、なかなか帰って来られなかった理由がよくわかった。」
そして、ふと思い出したように付け加える。
「もう一つだけ。」
ヘンリーが顔を上げる。
「アリスに一目惚れして、求婚したそうだな。
あの子は、もともとカイルと結婚させるつもりで引き取った。
だから、もう求婚はせぬでくれ。」
ヘンリーは一度目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。
「はい。
父上にも家臣にも、『勝手に相手を選ぶな』と叱られました。
私の肩には国の未来があります。
もう軽率な真似はいたしません。
ですが……
アリス殿は、本当にかわいらしい方です。
これからは妹として接してまいります。」
公爵は満足そうにうなずくと、そのままベルンシュタイン王国を後にした。
えーーーー!そんなのあり??(作者が言うな!)
お読みいただきありがとうございま




