↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された王女の娘は侍女となって家族を取り戻します  作者: 鶴見 日向子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

魚捕り

ハンス、意外に薄情?

次の日、戴冠式は無事に執り行われた。


カイルは国王の名代としての役目を果たし、ディシスを残して、他の騎士たちと共に帰国していった。


式典が始まる前、一人の青年が騎士の甲冑を身にまとい、護衛に紛れ込もうとした。


だが、すぐに見破られた。


甲冑のサイズがまったく合っていなかったのである。


「ちくしょう!せっかく付いてきたのに!」


青年はそのまま城の牢へ入れられ、ディシスたち騎士の尋問を受けていた。


「ああ、昨夜のうちに我が国王陛下から連絡があった。


『甲冑が一領盗まれた』ことと、『王に逆らわない』と血判を押したはずの反逆貴族の次男が姿を消した、とな」


ディシスは呆れたように言う。


「その体格では騎士は無理だったな。


血判に書かれている通り、そなたは炭鉱送りだ。


他の者と違って、一生足かせ付きになる」


「それは自国の王に対しての誓いだろう!


他国の王は関係ない!


契約違反ではないか!」


青年が叫ぶ。


「そうか。そういう解釈もあるか」


ディシスは面白そうに笑った。


「だったら、この国の法で裁いてもらおう」


その時、ディシスの後ろからカーティスが姿を現した。


「幸い、まったくの未遂だった。


処刑だけは勘弁してやる」


青年はあからさまに安堵した。


「監獄で一生を過ごすか、それとも川へ入るか。


好きな方を選べ。


川を泳いで向こう岸まで渡り切れたら無罪放免。


途中で流されても構わん。逃げ切れたなら、それも運だ」


カーティスはにやりと笑った。


「私は泳ぎには自信がある。


川を渡ろう」


青年は即座に答えた。


「よかろう。では明日の早朝だ」


その裁きを聞いたディシスは苦笑する。


「愚か者め。まあ、せいぜい頑張れ」


そう言い残し、ベルンシュタインへ帰国していった。


翌朝。


囚人用の馬車で運ばれた青年は、川岸へ連れて来られた。


そこで縄をほどかれる。


「さあ、行くがよい」


青年はそのまま川へ放り込まれた。


その場にはハンスも来ていた。


「申し訳ありません。


魚を捕って帰りたいのです。


アリス様が、また召し上がりたいとおっしゃっていたので」


どうやら青年のことはまったく気にならないらしい。


「また流されないでくれよ」


カーティスは呆れたように言う。


「この川岸には数え切れないほど来ました。


記憶を取り戻したい一心で。


ですから、この辺りの流れは熟知しております」


そう言うと、袖をまくり上げ、持参したたらいを川辺へ置いた。


そして――


素手で魚をつかみ、次々とたらいへ放り込んでいく。


「……上手いな」


思わず全員が見入ってしまった。


普通なら、一匹捕まえることすら難しい。


それをハンスは、水の流れを読むように次々と捕まえていく。


「少し多めに捕って帰ります。


王太子殿下も召し上がりたいとおっしゃっていましたね」


王子は新国王の即位とともに立太子し、正式に王太子となっていた。


皆、いつの間にか青年のことなど忘れていた。


その時だった。


「助けてくれーっ! 流される!」


悲鳴が響いた。


ハンスが顔を上げる。


「ああ……滝へ向かう流れに入りましたね。


お気の毒ですが、あれでは助けようがありません」


そう言うと、一度様子を見ただけで、再び魚を捕り始めた。


「なぜ、わかるのだ?」


「何人も流されていく人を見ましたから。


私が見た限りでは、滝へ落ちて助かった者はおりません」


そう答えたところで、ハンスは首を傾げた。


「私は滝へ落ちたと皆様おっしゃいますが……


なぜ私は生きているのでしょう?」


「そなた自身が覚えておらぬのなら、誰にもわかるまい」


カーティスが静かに答える。


「それもそうですね。


これだけあれば十分でしょう」


たらいの中では魚が勢いよく跳ねていた。


しかし、ハンスの視線は滝へ向けられたままだった。


「あ、滝へ落ちました」


見張りの騎士が淡々と言う。


「自国で強制労働を選んでおけばよかったものを。


愚かだな。


ベルンシュタインは罪人に甘い国なのだな。


国王への反逆を企てておいて、軽い罰で済むわけがあるまい」


付き添ってきた騎士が複雑そうな表情を浮かべる。


その時だった。


ハンスは滝をじっと見つめたまま歩き出した。


まるで無意識に引き寄せられるようだった。


声を掛けようとした騎士を制し、


「魚を見ていてくれ」


そう言い残して、カーティスだけが後を追う。


ハンスは川岸をどんどん歩いていく。


その足は驚くほど速く、カーティスは見失いそうになっていた。


やがてハンスは滝脇の急斜面を下り始めた。


カーティスはぞっとする。


上から見守っていると、突然ハンスの姿が消えた。


「まさか、落ちたのか?」


慌てて下を見ても、人影はない。


十分ほど待った頃だった。


再びハンスが姿を現し、何事もなかったように斜面を登ってきた。


「記憶は戻りませんでした。


ですが、一つわかったことがあります」


「何だ?」


「滝の裏に空洞があります。


そこに、古い馬車の部品が残っていました」


カーティスは目を見開いた。


「おそらく、一緒に落ちた馬車に弾き飛ばされ、その空洞へ飛び込んだのでしょう。


だから助かったのだと思います。


見に行かれますか?」


「いや、遠慮しておこう。


私には、そなたほどの運動神経はない」


カーティスは首を振った。


「だが、なぜ空洞があるとわかった?」


「私は、こんな時間にここへ来たのは初めてです。


いつも昼か夕方でした。


今日は滝に朝日が当たり、裏側に妙な影が見えたのです。


それで確かめてみました」


「まったく……恐ろしい視力の持ち主だ」


カーティスが感心したようにつぶやく。


「農家の倅ですから」


ハンスは笑った。


その瞬間、カーティスの表情が変わる。


「……今、何と言った?」


「え?」


ハンス自身も驚いたように首を傾げた。


「何か、大事なことを思い出しかけた気がしたのですが……


消えてしまいました」


「まあよい。


きっと、よい兆候なのだろう」


カーティスは穏やかに笑った。


その後、一行は他の騎士たちと合流し、その夜はハンスが捕った魚が夕食として振る舞われた。


「本当においしいですね」


皆、大喜びだった。


特に王太子とアリスは、満面の笑みを浮かべていた。


「収穫もありましたしね」


カーティスは新国王へ、


滝の裏に空洞があったこと、


そしてハンスが自ら「農家の倅」と口にしたことを報告した。


「少しずつ、つながってきているな。


きっと思い出すだろう」


ハンスの未来は、確実に明るい方へ向かっていた。


騎士は国王に反旗を翻した者は絶対に許しません。という設定。

お魚の手づかみ、普通の人には絶対できないです

お読みいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。