夢のつづき
途中から、アリスの夢の続きになっています
わかりづらくてすみません
カーティスが外へ出ると、少女が自分の馬の頭を優しくなでていた。
「本当におりこうさん」
そう言って笑う少女の笑顔は、まぶしいほどだった。
使者はその笑顔を見つめながら思う。
(なぜ、気が付かなかったのだろう……)
(あの方の面影があるではないか……)
「アリス様、馬を見ていただき、ありがとうございます。
先ほどは大変失礼いたしました」
カーティスはアリスへ深々と頭を下げた。
先ほどまでとは打って変わった丁重な態度に、アリスは少し戸惑う。
それでも嬉しそうに馬の首をなでながら言った。
「この子、本当におりこうさんですね」
「ああ……そのしぐさまで、あの方によく似ておられる」
カーティスの表情がわずかにゆがむ。
込み上げる涙を必死にこらえていた。
「えっ……あ、あの……私、何か失礼なことを言ってしまいましたか?」
アリスが慌てて尋ねる。
「いいえ。風で少し目にごみが入っただけです」
カーティスは何事もなかったように笑った。
「お兄様のお帰りを待っているのですが……まだ帰ってこられないのです」
アリスは寂しそうにうつむく。
「お兄様とは、とても仲がよろしいのですね」
その言葉に、アリスの顔はとろけそうなほどの笑顔になった。
「はい! お兄様がお帰りになる日を、ずっと楽しみにしていました」
その笑顔を見たカーティスの胸が締めつけられる。
「実は……本日は、そのことをお伝えするために参りました。
兄上様は事情があり、しばらく帰郷できません。
ですが、必ずお帰りになります。
どうか、それまでお待ちいただけますか」
その言葉を聞いた瞬間、アリスは目を見開いた。
みるみるうちに瞳へ涙がたまっていく。
「お嬢様、お客様の前で泣いてはなりません」
侍女が背中を優しくさすった。
それでも涙は止まらない。
「……必ず、お帰りになります。どうか、もうしばらくだけお待ちください」
カーティスは静かに言った。
そして馬の手綱をほどき、またがる。
「それでは、失礼いたします。また参ります」
そう言い残し、来た道を引き返していった。
馬に揺られながら、カーティスは思う。
(あの時……泣いてくださっていれば……)
過去を悔やんでも仕方がない。
それでも、そう思わずにはいられなかった。
◇ ◇ ◇
少女は自室で目を覚ました。
どうやら、老人が何かを叫んでいる最中に疲れて眠ってしまったらしい。
少女は慌てて起き上がり、母の部屋へ駆け込む。
そこでは侍女たちが部屋を片付けていた。
皆、目を真っ赤にしている。
「ああ、やっぱりそうなんだ!」
少女は嬉しそうに笑った。
「お母さま、ご病気が良くなって起きられたのね。
お出かけになったの?
いつお帰りになるの?」
侍女たちは目を見開いた。
「ねえ、どこへ行かれたの?
いつお帰りになるの?」
少女は何度も問いかける。
しかし、誰も答えることができない。
「私、お母さまとのお約束どおり、今日、最後まで頑張って歩いたの。
『お母さまのご病気が良くなりますように』ってお願いしながら歩いたの。
神様がお願いを聞いてくださったのでしょう?」
その言葉を聞いた一人の侍女が、とうとう声を上げて泣き崩れた。
他の侍女たちもエプロンを目に当て、肩を震わせながら涙を流している。
部屋中に嗚咽が響く。
その泣き声を聞きつけ、一人の女性が侍女を連れて駆け込んできた。
「いったい、何の騒ぎなのですか?」
「あっ、叔母様。
あのね、お母様の病気が良くなられたから、お出かけされたの。
だから、みんなに『どこへ行ったの?』って聞いていたの。
なのに、みんな泣いてしまうの。
どうしてなの?」
女性は目を見開いた。
そして、思わず少女を抱きしめる。
「あなたのお母さまは、とても遠いところへ行かれました」
女性の目にも涙が浮かんでいた。
「え?
じゃあ、いつお帰りになるの?」
少女は首をかしげる。
「そうですね……。
とても遠いところですから、いつお帰りになられるのか分かりません」
女性は静かに同じ答えを繰り返した。
アリスは目を覚ました。
いつもの夢とは違う夢だった。
「いやな夢……」
そして、なぜか体が異様に重い。
再び目を閉じる。
夢はまだ終わらなかった。
少女は、その後も何度も同じ質問を繰り返していた。
やがて、ある場所へ連れて行かれる。
「こちらでございます」
そこは墓地だった。
「お母さま、こんな狭い場所に、どうやって入られたのですか?」
少女は不思議そうに尋ねる。
「もう、ここから出てくることはない。
二度と会うこともないのだ」
そう声を掛けたのは、現在の父だった。
「そなたは、これから私が引き取る。
今日から私がお父様だ。よいな」
少女は黙ったまま、その顔を見つめた。
その後、馬車に乗せられ、連れて来られたのが現在の屋敷だった。
「今日から私があなたの母です。『お母さま』と呼んでくださいね」
少し年上に見える女性が、優しく微笑む。
「兄のカイルだ。妹ができて嬉しいよ」
そう言って、カイルは少女を軽々と抱き上げた。
その日から、カイルは何かとアリスの世話を焼いてくれた。
近所の子どもたちとも一緒に遊んだ。
しかし、どの子もカイルやアリスとは、どこか距離を置いているようだった。
だからアリスが心から信じられるのは、兄のカイルだけだった。
カイルがいてくれたからこそ、それ以前の記憶は少しずつ薄れていった。
「そのお兄様が……帰ってこない……」
アリスの胸に、不吉な鼓動が響く。
(お兄様も、まさか……)
だが、カーティスは確かに言っていた。
『必ず、お帰りになります』
夢の時とは違う。
必ず帰ってくる。
そう信じたいのに、どうしても体は動かなかった。
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