暗殺未遂と賞金稼ぎ
またまた冒頭から王妃登場です
「いいですか? あなたは、これから私の言うことだけを聞くのです。私の言う通りに動きなさい」
カイルは相変わらず、王妃から長時間の説教を受け続けていた。
面倒だったが仕方がない。
気が済むまで言わせておかなければ、周囲の者たちに当たり散らすのだ。
(また始まるのか)
そう思った時だった。
しかし、今日の王妃は違った。
猫なで声で優しく言ったのである。
「あなたは賢いわ。今まできつく叱ってごめんなさいね。でも、それはあなたのためだったのよ。
心を入れ替えて私についてきてくれたら、これからはかわいがってあげますからね」
王妃の豹変ぶりに、カイルは驚きそうになったが、表情一つ変えず、直立不動のままでいた。
「いいわね。わかったみたいね。さあ、今から一緒にお茶をいただきましょう」
そう言うと、年老いた侍女がお茶を運んできた。
よたよたと歩く姿を見たカイルは立ち上がる。
「重そうですね。私がお持ちしましょう」
そう言って盆を受け取ろうとした。
侍女は慌てて盆をしっかりつかむ。
その拍子にティーカップが倒れ、中のお茶がこぼれた。
「余計なことをしないでください!」
侍女が鋭く怒鳴る。
「申し訳ありません」
カイルは謝りながらも、片方のカップの底に粉状の塊が残っているのを見逃さなかった。
「大変失礼いたしました。服が濡れてしまいましたので、着替えてまいります。
せっかくですので、残ったお茶は別室でいただきます。後ほどティーカップはお返しいたします」
そう言うと、カイルは素早く倒れた方のティーカップを手に取り、そのまま部屋を飛び出した。
「待ちなさい! それは置いて行きなさい!」
侍女の叫びもむなしく、カイルは振り返ることなく立ち去った。
◇
「これは……何だろう?」
カイルはカップの底に残っていた粉を小皿へ移した。
国王、ヘンリー、側近たちが、その粉を見つめる。
「相当量入っていたのであろう。砂糖ではないことだけは確かだ」
薬に詳しい医師が呼ばれた。
医師は粉をじっと見つめ、指先で少量取り、慎重に香りを確かめる。
「これは……麻薬の一種と思われます」
「麻薬?」
皆が医師を見つめた。
「これを服用すると意識が混濁し、中毒になります。
依存性が非常に強く、独特の香りがあります。
香りを嗅ぐ程度なら問題ありませんが、大量に飲めば……」
医師は一呼吸置いた。
「心臓が止まります」
カイルの喉が「ひゅっ」と鳴った。
「味はほとんどありません。香りでしか判別できないでしょう」
国王が静かに命じる。
「その侍女を逮捕せよ」
騎士たちはすぐに王妃の居住区へ向かった。
しかし、そこはすでにもぬけの殻だった。
「王子暗殺未遂だ。ただでは済まさん」
国王はようやく王妃を離縁できる理由が見つかったと、どこか晴れやかな表情を浮かべた。
ヘンリーが冷静に言う。
「侍女が勝手にやったことだと言い逃れるかもしれませんよ」
「侍女の責任は、主である者の責任でもある」
国王はきっぱりと言う。
しかし側近が首をかしげた。
「王妃まで一緒に姿を消したのが早すぎますな」
その時だった。
「そういえば……ディシスがいません!」
いつもディシスをからかっている騎士が叫んだ。
「何だと?」
皆の顔色が変わる。
「まさか、本当に『食われて』しまったのだろうか?」
ヘンリーの顔が青ざめる。
「何を言っているのだ?」
カイルが首をかしげる。
「ディシスに頼んだのですよ。
『母上を口説き落としてくれ』って。
もちろん冗談だったのですが」
「ですが、本当にいません。
王妃専用の馬車もなくなっています。
持ち出されたのは宝石類だけのようですが……いったいどこへ行ったのでしょう」
「ディシス!! 私が悪かった!!
戻ってきてくれぇぇぇ!!」
ヘンリーの叫びだけが、誰もいなくなった部屋に響いていた。
◇
その頃、ディシスは王妃の馬車を密かに追っていた。
豪華な馬車は二頭立て。
速度は決して速くない。
少し早足になる程度で十分追いつける。
やがて馬車は、とある貴族の屋敷へ入っていった。
「うん? 実家ではありませんね」
少し離れた場所から様子をうかがっていると、不意に誰かが肩を叩いた。
振り返ったディシスは目を見開き、思わず声を上げそうになる。
しかし男が素早く口をふさいだ。
「騒ぐな。
兵士ではないな。
騎士様か。
一人か?」
ディシスは無言で何度もうなずく。
「あの屋敷に賞金首がかくまわれている。
悪いが邪魔をしないでくれ。
こちらは生活がかかっている」
男は笑った。
「賞金首?」
ディシスは小声で尋ねる。
「ああ。
極悪人だ。
麻薬を大量にこの国へ持ち込み、売りさばこうとしている。
捕まえて軍へ引き渡せば、懸賞金が手に入るんだ」
ディシスは、不思議そうな顔でその男を見つめた。
ディシス、食べられていなくてよかったです(笑)
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