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追放された王女の娘は侍女となって家族を取り戻します  作者: 鶴見 日向子


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真実と和解

いきなり、王妃と侍女との会話からです

「王妃様は、将来、国母となって国で一番偉いお立場になられるのです」


王妃は、実家から連れてきた侍女に何度もそう言い聞かされていた。


「国母になれば、この国で最も大きな影響力を持つお方になれます。そして、ヘンリー王子を、いとこのエルザ様と結婚させるのです」


王妃はうなずく。


「そうすれば、この国は平和になるのですね?」


「その通りでございます。何が何でもヘンリー様を王太子にするのです。そのためには、あのカイルという男は邪魔です」


侍女は強い口調で言った。


「本人は『元の国へ帰る』と言っていますけれど、それは私を油断させるためですわ。王太子の座を奪うつもりに違いありません」


王妃も侍女に言う。


「毎日厳しく叱責を続けなさいませ。そのうち心が折れ、王妃様の言うことを何でも聞くようになります」


侍女はさらに言い聞かせるように続けた。


「それが、ご実家のお父様をはじめ、有力貴族の皆様の願いでございます。王妃様は、そのためにここへ嫁がれたのですから」


侍女がにたりと笑う。


「お父様のお言葉は絶対です。きっと、その通りにしてみせます」


王妃の目が光った。


「それにしても、国王暗殺が失敗したのは痛かったわ。まさか、あちらの騎士が身を挺して他国の国王をかばうなんて……。あれが成功していれば、ヘンリーが即位し、私が国母になれましたのに」


王妃は悔しそうに唇をかむ。


「あれ以来、騎士に金を渡すことは重罪になってしまいました。やりにくくなりましたわ」


「ですから、今度はカイルを洗脳するのです。毎日罵倒されれば、そのうち判断力が鈍り、何でも言うことを聞くようになります」


侍女は再びにたりと笑った。


「ええ。説教の時間をもっと長くしてみましょう」


そんなやり取りが交わされていることなど、別の区域に住む国王やヘンリー、家臣たちは知る由もなかった。


だが、その会話を密かに盗み聞きしている者がいることも、二人は知らなかった。



アルディア王国の国王は、日に日に元気を取り戻していた。


そして、ある日、


「カーティスの義理の姪であるアリスを、わしの養女にしたい」


と王太子に告げた。


「はあああ???」


王太子は思わず声を上げた。


「養女? なぜです?」


「わしのせいで亡くなってしまった孫娘と重なってしまって仕方がないのだ。代わりにするつもりではない。ただ、あの子にも孫と同じように愛情を注いでやりたい」


「お待ちください。それなら、うちが養女に迎えたいです。もともと我々が迎えるはずだったのを、父上が『追放だ』などとおっしゃったから……」


王太子の拳が震えていた。


「悪かった」


国王は素直に頭を下げた。


「本当に申し訳なかった。あの子に『おじい様』と慕ってほしかった。なのに、わしは……」


国王の目から涙がこぼれる。


「変な意地を張ってしまった。公爵に引き取られたと聞いて安心していた。ここにいたら、わしは甘やかしすぎてしまうかもしれない。公爵のもとで育つ方が、この子のためだと思った」


王太子の拳の震えが止まった。


「まさか川へ落ちるなどとは思ってもみなかった。わしがふがいないばかりに……。リヒャルトが呼んだのだろうか。わしもあの川へ飛び込んで後を追いたい。だが、それではあの子に会えなくなってしまう。体も動かぬ……だから……」


国王は言葉を詰まらせた。


「アリスが憎かったわけではないのですね?」


王太子が静かに尋ねる。


「憎いわけがない。たった一人の孫娘だ。エレナとリヒャルトの娘だ。だが、一度甘やかしたら、とことん甘やかしてしまうと思った。だから厳しく育てようとした。……その加減が、わからなかった」


王太子は黙り込んだ。


その時、王太子妃と王子が部屋へ入ってきた。


「話は聞かせていただきました。あなた、お義父様が直接謝られたら許すとおっしゃっていましたよね。ちゃんと謝罪されました。もう、よろしいのではありませんか?」


王太子妃が王太子の手をそっと握る。


「確かに、おじい様はアリスを甘やかしてしまったかもしれません。でも、公爵のおかげで、とても立派に育っています。方向音痴だけはどうしようもありませんけど」


王子が笑った。


「それから、おじい様も父上も養女にするのは反対です。そのままにしてください」


「なぜだ?」


王太子が尋ねる。


「僕が娶りたいからです」


王子は真顔だった。


「養女になったら兄妹になってしまいます。でも、いとこのままなら問題ありません」


国王は目を丸くした。


「いとこ? 何を言っているのだ?」


「おじい様、鈍すぎます。あんなにエレナ伯母上にそっくりなのに」


王子が笑う。


国王の目が見開かれた。


「川へ落ちたのは事実です。でも、無事に助け出され、ここへ連れて来られたのです」


王太子妃も笑いをこらえながら言った。


「ま……まさか……」


「そのうちお気づきになると思っていましたのに、まったく気づかれないとは。陛下も年を取られましたな」


いつの間にかカーティスも部屋へ来ていた。


「あのアリスは、エレナ王女とリヒャルト殿の娘――アリス様ご本人でございます」


カーティスは笑みを浮かべる。


「あ、追放は取り消しということでよろしいですね?」


国王はそのまま固まった。


「追放はとっくに私が取り消した。今は私が国王代理だからね」


王太子はさらりと言った。


「というわけで、我々は失礼します。アリスちゃんが来たら、今度こそ本人にしっかり謝ってくださいね」


そう言って全員部屋を出ていった。


国王はただ呆然と座っていた。


数時間後。


「陛下、お食事です」


アリスが侍女のリリーヌと共にやって来た。


リリーヌがサイドテーブルを用意し、その上へ食事を置こうとする。


「待ってくれ」


国王が静かに言った。


そしてアリスを手招きする。


「こちらへ来てくれぬか」


アリスは首を傾げながら近寄った。


国王は身を乗り出し、アリスを抱きしめた。


「すまなかった。本当に……すまなかった」


ただ涙を流しながら謝り続ける。


「え……陛下に謝っていただくようなことは、何もされておりませんが?」


アリスは固まっていた。


「なぜ気づかなかったのだろう……。そなたが本物のアリスだったということに」


「え? え? ……あーーーーっ!」


アリスは慌てて国王の腕から抜け出し、その場で床に座り込んだ。


「追放されているのに、お城へ忍び込んでしまって申し訳ありません! どうしても、お城へ入りたかったのです!」


そう言って深々と頭を下げた。


付き添っていたリリーヌは、吹き出しそうになるのを必死でこらえていた。


国王は目を見開いた。


「わしが怖くなかったのか? あんなことをしたというのに……。幼いそなたに杖まで振り上げた……」


「あれは私が悪かったのでございます。お葬式で笑えば怒られて当然です。しかも、自分の母のお葬式でした。幼かったとはいえ、もっと周りの空気を読むべきでした。国王陛下にあんなことをさせてしまい、申し訳ありませんでした」


「あの年で理解できるわけがなかったのだ。エレナが『自分の足で歩いていきなさい』と言ったのであろう? そなたは、その言いつけを守っただけだったと、後になって知った」


国王は目を閉じる。


「母の言葉を守って、一生懸命歩いたのだ。偉かった。エレナも、きっと喜んでいる」


アリスの目から大粒の涙があふれた。


ずっと、自分は母の葬式で笑ってしまった子だと思い続けてきた。


その胸のつかえが、ようやく消えた気がした。


「ありがとうございます……陛下」


「立ちなさい」


国王は優しく声を掛けた。


アリスは涙をぬぐいながら立ち上がる。


「陛下ではなく、おじいさまと呼んでほしい」


そう言って両腕を広げた。


「おいで……私のかわいい孫娘」


アリスはその腕の中へ飛び込み、声を上げて泣いた。


「ずっと、ずっと、お会いしたかった……おじいさま」


リリーヌは、その二人の姿を見つめながら、にじんだ涙をそっとぬぐうのだった。


後半ほっこり・・・

お互いに誤解が解けてよかったです


お読みいただきありがとうございます

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