ハンスのシャツ
ハンスの話がでてきます
「アリスちゃんのおかげで、国王陛下もだいぶ回復してこられた。
全部押し付けるようになってしまって、本当に申し訳なかった」
カーティスがアリスに頭を下げた。
「いいえ。
自分は憎まれていなかったとわかっただけで、それだけで十分報われました」
アリスはふっと微笑んだ。
国王は回復するにつれ、周囲への当たりも柔らかくなっていった。
アリス以外の者の世話も受けるようになり、
「もう、あの子ばかりに負担はかけたくない」
そう口にするようになったという。
「いい加減、本当のことを打ち明けられたらいかがですか?」
王太子妃があきれたように言う。
「まだだ!」
王太子はきっぱりと言い切った。
「皆の前で『孫娘を追放したのは間違いだった。取り消す』と言わぬ限り、私は許さん!」
「前は『自分に謝ったら』っておっしゃっていませんでした?」
王子があきれ顔で言う。
「両方だ!
かわいい姪を川へ落としたのだからな!」
「あの……少しよろしいでしょうか?」
アリスがおずおずと手を挙げた。
「どうした?」
王太子は一転して満面の笑みを向ける。
その場の全員が思った。
(国王陛下とそっくりだ……)
日を追うごとに、王太子はアリスに甘くなっていた。
「川へ落ちたのは国王陛下のせいではありません。
完全に私の不注意です。
それを言われると、私自身が責められているようで……少しつらいです」
アリスはしゅんとうつむいた。
「いや、そなたのせいではない!
城で育っていれば、あんな場所へ行くことなどなかった!」
王太子は断言する。
(関係ないと思う)
王太子以外の全員がそう思った。
だが、誰も口には出せなかった。
「それに、実際に助けてくださったのは、『ハンス』と名乗っていた男性です。
なぜか皆さん『そんな男はいない』とおっしゃいますが、自ら川へ入ってくださり、流木につかまっていた私を岸まで助けてくださったのは、間違いなくハンス様です。
なのに、その方が最初から存在しなかったことになっています。
私は、それがどうしても不自然で……」
アリスは、あの日のことを思い返しながら話した。
「何か証拠はあるのか?」
王太子が尋ねる。
「はい。
服がびしょ濡れになったので、その時ハンス様が着替えとして貸してくださったシャツがあります。
それが証拠です」
「持ってきてもらえるか」
アリスは自室へ戻り、そのシャツを持って来た。
「洗濯室の方がおっしゃっていました。
このシャツは、昔、騎士へ支給されていた物だそうです」
皆が興味深そうにシャツを見つめる。
「確かに以前の支給品だが……」
カーティスの目が鋭くなる。
「いや、違う。
こちらの方が生地が上質だ。
一般騎士に支給される物ではない」
そう言って、職人と同じように名前が記されている場所を確認した。
「おかしい……。
一般騎士用なら濃いインクで名前を書く。
ここまで薄くなることはない。
これは……刺繍だ。
刺繍で名前を入れる人物など……まさか……」
カーティスは目を見開いた。
「アリスちゃん。
ほかに覚えていることはないか?」
その声は真剣だった。
「えっと……
着替えておられるところを、少し見てしまって……
わざとではないのですよ?」
アリスは慌てて付け加える。
「その時、背中に大きな刀傷がありました。
それで、ハンス様のことを思い出したのです」
その場が一斉にざわめいた。
「その『ハンス』という男を探せ!」
王太子の命令が飛ぶ。
しかし、ハンスの手がかりは何も得られなかった
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