ディシスの忠誠
ディシスちゃんとお仕事できます
ディシスの案内どおり、裏道を進み、一行は無事にアルディア王国の城へ到着した。
「公爵家までは、さらに半日ほど走らねばなりません。知り合いの貴族の屋敷で休憩させてもらいましょう」
カイルがそう言った時だった。
「おい! カイルではないか! いったい今までどこにいたのだ? 今、公爵閣下をお呼びしてくる。そこで待っていろ!」
声を掛けてきたのは、同期の騎士だった。どうやら門番をしていたらしい。
「私も連れて行かれなければ、今頃は一人前の騎士だったのに……」
ぶつぶつ文句を言うカイルに、ディシスが笑いながら言った。
「カイル様のことですから、きっと他の騎士より早く出世なさっていたでしょうね」
「他の騎士の裸体も見たのか?」
カイルの口元がひくひくと引きつる。
「それは全員見えてしまうでしょう。不用心ですよ。私は男色の気はありませんが、もし痴女でもいたら大変です。防犯面をもっと考えられた方が……」
「普通は、のぞかないと思う」
カイルはジト目になった。
そんな話をしている間に、先ほどの騎士が戻ってきた。
「至急お会いしたいとのことです。閣下は元のお屋敷を引き払い、現在はこちらにお住まいです」
「アリスはどうした?」
騎士はそっと目を逸らした。
「詳しい話は閣下から直接お聞きください。王太子殿下もお待ちです」
そしてディシスを見て首をかしげる。
「そちらの方は?」
「ああ、ベルンシュタイン王国の騎士だ。私の護衛として来てくれた」
「あ、私は家族の再会を邪魔したくありませんので、その辺をぶらぶらしております。どうぞお気遣いなく」
「そういう訳にはいかぬ」
カイルはディシスの襟首をがっちりつかんだ。
「また浴場をのぞかれては困るからな」
「もうしませんよ。野郎どもの裸なんて見ても面白くも何ともありません」
「余計に一人にはしておけぬ」
カイルはため息をついた。
「すまないが、誰かこの者についていてくれないか。城内をうろつかないように」
「かしこまりました」
こうしてディシスは一人、客間へ案内され、外から鍵を掛けられてしまった。
「ヘンリー様の命令で『アリス』ちゃんを見てこいと言われたんだけどなあ……。何か方法はないかな」
ディシスは部屋の中をうろうろする。
外には護衛が立っている。
「窓から出ましょうかね」
そう考えた時だった。
部屋がノックされた。
外で女の子の声と護衛が話している。
やがて扉が開いた。
そこには、目を輝かせた可愛らしい少女が立っていた。
しかしディシスの顔を見ると、一瞬で肩を落とす。
「お兄様じゃない……」
「アリス様、お部屋をお間違えです。カイル様は王太子殿下の執務室にいらっしゃいます。この建物の反対側のお部屋です」
「あっ、こっちじゃなかったんだ。ごめんなさい」
「誰か、アリス様をお送りしてくれ。私はここを離れられない」
「私もご一緒すれば問題ありませんよ」
ディシスが声を掛けた。
「目を離さなければいいのでしょう?」
(この子が噂の『アリス』ちゃんか)
ディシスの目が輝いた。
「そうしていただけると助かります。左右対称になっているので、どうしても分からなくて……」
方向音痴。
そういえば、亡きエレナ王女もそうだった。
ディシスは懐かしそうに目を細める。
若い頃、何度もエレナ王女と顔を合わせたことがあった。
方向音痴以外は本当にしっかりした方で、必要なことは国王へ掛け合い、数々の問題を解決していた。
「では、一緒に参りましょう」
アリスの目も輝いた。
「はい、お供いたします」
ディシスは跪く。
そして自然にアリスの手を取った。
「この方の後について参りましょう。はぐれないよう、私がしっかりお手をお預かりいたします」
アリスの可愛らしさに、ディシスは思わず目を細めた。
(やっかいな王妃がいる国より、可愛い妹を選びたくなるのも当然だ。……いや、ヘンリー様も裏切れないしなあ)
そんなことを考えながら、騎士の後について歩いていく。
目的の部屋は、「なぜ間違える?」と思うほど分かりやすい場所にあった。
騎士が部屋をノックする。
扉が開くと、アリスはディシスへ振り返った。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って、部屋へ駆け込んでいく。
「お兄様!」
「アリスなのか!」
兄妹の声が部屋中に響いた。
「よし。私の任務は終了っと」
ディシスは満足そうに笑い、その場を離れようとした。
「待たれよ」
部屋の中から、年配の男性の声が響く。
「そなた、見覚えがあるぞ。以前にもここへ来たことがあるな?」
ディシスは跪き、頭を下げた。
「はい、公爵閣下。亡きエレナ様とリヒャルト様には、大変お世話になりました。ディシスにございます」
「懐かしいのう。あの頃とまるで変わっておらぬ。そのふてぶてしいところも、天然を装うところも」
ずいぶんな言われようである。
「お褒めにあずかり、光栄でございます」
ディシスはにっこりと笑った。
「褒めてはおらん」
公爵は即座に返した。
部屋の中に、小さな笑いが広がる。
「まあ、入りなさい。そなたはベルンシュタイン国王への忠誠だけは厚い。そこは信用しておる」
「我が国第一王子、カイル様にも忠誠を誓っております」
ディシスは真面目な顔で答えた。
公爵はジト目になったが、
「……まあよい」
そう言って中へ招き入れた。
こうしてディシスも、王太子殿下へ目通りすることになった。
ディシス、公爵閣下と知り合い??
お読みいただきありがとうございます
カイルがレオンになっていたので修正しました(恥)
気が付いてよかったです




