意外な護衛
意外な人物の登場です
「関係ない話合戦はやめて、真面目に、いろいろな意味で国交を回復させましょう。
ヘンリーも一緒であれば心強いですし、何より王子二人が行くのです。あちらの印象も良くなると思います」
カイルは必死に国王を説得した。
そしてヘンリーへ向き直る。
「そなた、乗馬はできるな?」
ヘンリーの顔色が変わり、そっと目を逸らした。
「まさか、乗馬ができないのか? それでどうやって国境を越えるつもりだったのだ」
「馬車で行くのでは?」
ヘンリーは拍子抜けしたような声を出した。
「馬車が通る道では、国境で止められてしまう。山道を行かねばならない」
カイルが言う。
「兄上は馬車で来ましたよ?」
ヘンリーがけろりと言った。
気を失っていたため覚えていないが、確かに馬車だった。
「ああ、関所はございますが、監視の兵士がどちらもやる気がなくて……」
従者がにこりと笑いながら言った。
「それは笑うところではないだろう!」
カイルは思わず声を上げた。
「やはり、最初は私一人で行きます。ヘンリーは、こちらの許可書を持ってくるといい」
「そんなことをしなくても、関所の兵士に銀貨一枚を渡せば簡単に通してくれますよ」
ヘンリーはまたもけろりと言う。
「それが問題だと言っているのだ! 全然、国交断絶ではないではないか!」
そう言いながら、カイルは何かが引っかかった。
「待て。騎士に金を渡したら厳罰だと言っていなかったか?」
カイルはヘンリーと、例の“のぞき見”騎士を交互に見比べた。
「そんなことを言いましたっけ?」
ヘンリーは首をかしげる。
「おもちゃの金貨で遊びましたね」
騎士はにっこり笑った。
その瞬間、隣の騎士から無言の肘鉄をくらっていた。
「もういいです! 勝手に戻ります! あとは好きにしてください!」
カイルは部屋に戻り、自分の荷物をまとめて背負った。
そして厩舎へ向かう。
「馬を一頭貸してくれ」
厩舎の管理人は、不思議そうな顔をした。
「一頭ですか? 何に使うのです?」
「乗るために決まっているであろう」
「その場合、お一人様一日銀貨一枚になりますが……」
ヘンリー。
買収禁止などと、よくもしらじらしく言えたものだ。
そして、まんまと騙された自分とは――。
カイルは頭を抱えた。
「待て。その方は王子だ。王族は自由に馬を使ってよい」
現れたのは、例の“のぞき見”騎士だった。
「ヘンリー様以外に王子様がいるのですか?」
厩舎の管理人が首をかしげる。
「これだからな……。私も王子について行く。二頭連れて行くぞ」
騎士はそう言うと、二頭の馬を選び、引き出した。
「この子たちなら国境も越えられます。参りましょう」
「そなたを信じて大丈夫なのか?」
カイルの目には、疑いの色が満ちていた。
「途中、宿で一泊しなければなりません。私なら、もう殿下の裸を見ていますから、ヘンリー様に『お前が行け』と命じられました」
人選の基準が分からない。
「まあ、一応剣の腕はあります。どうか信頼してください」
騎士は笑う。
「そなた、名前は?」
「ディシスでございます。“おもちゃ”の件は申し訳ありませんでした。私はヘンリー様のお気持ちがよく分かっておりましたので、お付き合いいたしました」
そう言って笑う。
「何となく信用に欠けるが……まあ、馬を出してくれたことには礼を言おう」
カイルが馬に乗ろうとしたところで、ディシスが止めた。
「カイル様。人を信用しすぎてはなりません」
そう言って、ディシスは馬具を点検する。
「おい! 鐙の革紐が傷んでいるではないか! すべて新品に交換しろ!」
ディシスの厳しい声が響いた。
管理人の顔色が変わり、すぐに馬具は一式交換された。
「よし。参りましょう。まったく、城全体というか、国全体が緩みきっております。私が先行いたします。近道を知っておりますので」
ディシスはそう言うと、先に走り始めた。
「本当に大丈夫か?」
疑いつつも、カイルはその後を追った。
しかし、彼の選ぶ道は正確だった。
その日の夕方には、予定どおり宿のある町に到着した。
「部屋を二つ頼む。一部屋は一番良い部屋で。私は普通の部屋で構わない」
ディシスが宿の主人に告げる。
「かしこまりました、ディシス様」
宿の主人はてきぱきと使用人へ指示を出した。
「ここでは誰も覗けません。どうぞゆっくりおくつろぎください。明日の朝、起こしに参ります」
そう言って、ディシスはお辞儀をして部屋を出て行った。
カイルは目を見開いた。
だが、すぐに思い直す。
「もう、何があっても驚かないことにしよう」
そう心に決めたのだった。
翌朝。
まだかなり早い時間に、ディシスがカイルの部屋をノックした。
「入っていいぞ。もう身支度は済んでいる」
カイルが言うと、ディシスが入ってきた。
「おはようございます。ヘンリー様ですと、起きていただくまでに時間がかかるので……」
ディシスは頭をかいた。
カイルは、昔の自分も朝が弱く、両親やアリスに叱られていたことを思い出し、少し懐かしい気持ちになる。
「日が昇り始めてから出発しましょう。その前に朝食を」
そう言うと、ディシスは部屋を出て、カイル用の朝食を盆に載せて運んできた。
「そんなことをしなくても、食堂で皆と食べるのに」
カイルは驚いた。
「王子としての自覚をお持ちください」
ディシスはにっこり笑った。
そして、その場でお茶を淹れる。
それから、独り言のようにつぶやいた。
「昨夜、酒場に行きましたら、『アルディア王国の国王が倒れた』という噂で持ちきりでした。何でも、孫娘が川に流されたことに衝撃を受けられたとか……。王太子殿下が国王代理を務められるそうです」
カイルは食事を取りながら首をかしげる。
「孫娘? 国王陛下には、王太子殿下の男の孫しかいないはずだが」
「そうなのですが、実は孫娘がいたそうです。幼い頃に追放されたとか」
カイルはぎょっとした。
「孫娘を追放? 初耳だ」
「一定の年代以上の者しか知らないようです。何でも大変冷淡な娘で、自分の母親の葬式で笑い転げたとか。それで国王の怒りを買ったそうです」
「何だか信じられない話だが……国に着いたら、すぐに確認しよう」
そうして、カイルは素早く朝食を食べ終えた。
「まだ時間が早い。そなたも何か食べてくるといい。その間、私はお茶をいただく」
「では、そうさせていただきます」
ディシスは食べ終えた食器類を盆に載せ、下がっていった。
カイルはお茶を飲みながら考える。
「いったいどういうことだ? 孫娘? 追放? それなのに、衝撃で倒れた?」
ディシスの淹れたお茶は美味しかった。
「あれも、つかみどころのない男だ……」
隣の騎士に肘鉄を食らっていた姿が思い出される。
「肉体的な疲れはないが、精神的に疲れそうだ」
そうつぶやき、カイルはお茶を飲み終えた。
準備を整え、階下へ下りていく。
「覗きの騎士」に名前が付きました「ディシス」
ネット見ていたらディスカスという魚がきれいだったので、そこからとりました
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