夢の中の本人との出会い
お年寄りへの気遣い?は大変です
「私が意見を申し上げてもよろしゅうございますか?」
女官長のリリーヌが発言の許可を求めた。
「よい。何か案があるのか?」
王太子が許可を出す。
「はい。アリス様とカーティスはお知り合いだそうですね」
「ああ。公爵家へ来てくれていたからな」
「カーティスの実家の養女ということにして、国王陛下へお預けになってはいかがでしょうか?」
「ほう……」
公爵の目が輝いた。
カーティスは、もともと貴族家の次男であった。
跡取りではなかったため、王室付き侍従として勤務していたのである。
「それならよいかもしれない。カーティスなら事情もよく分かっている」
カーティスは、現在は国王付きとなっていた。
「ばれませんか?」
王太子妃がおそるおそる尋ねる。
「ばれたらばれたでよい。アリスは何も悪いことはしていない」
王太子はきっぱりと言った。
「三歳で両親を亡くした実の孫を追放するなど、どうかしていたのだ。止められなかった私にも責任がある」
王太子は遠い目をした。
「リリーヌ。悪いが、カーティスを呼んできてほしい。頼めるか?」
「かしこまりました」
やがて、カーティスが王太子の執務室へやって来た。
ちなみに、階が違うだけで、場所は同じである。
「途中でリリーヌから話を聞きました。賛成でございます」
カーティスは嬉しそうだった。
「兄には私から話をいたします。兄も喜ぶと思います。亡き王女殿下と兄は幼馴染でしたから」
こうしてアリスは、国王付き執務官見習いとして、カーティスの下につくことになった。
◇
その頃、アリスは洗濯室にいた。
洗濯室は石鹸の香りがするため、間違えることはなかった。
洗っていたのは、ハンスから借りたシャツである。
うっかり落として踏みつけてしまっていたのだ。
「この足跡、どうしたら落ちるかしら。大事なシャツなの。このままでは困るわ」
他の侍女に、洗濯の方法を教わっていた。
「お任せください」
手慣れた職人らしき老人が現れ、そのシャツの汚れをきれいに落としてくれた。
「ほう……お嬢ちゃん、珍しいシャツを持っているね」
老人は生地を確かめながら言った。
「これは昔、騎士たちに普段着として支給されていたシャツだ。ここに持ち主の名前が書いてあるはずだよ」
そう言って、ある場所の生地の裏側をめくって見せる。
「リ……レ……かな? 文字が薄くなっていて、はっきり読めないな。よほど長い間着ていたのだろう。普通はもっと濃く書いてあるものだが」
「どうして名前を書くのですか?」
アリスが尋ねる。
「亡くなった時、身元が分かるようにさ。騎士の衣類には、それぞれの名前が入っている。そういう決まりなのだよ」
「そうなのですね。でも、あの方はどうしてこんなシャツを持っていたのかしら。騎士には見えなかったわ」
アリスは不思議そうに首をかしげた。
「でも、とても大事なシャツなの。いつかお返ししたいから、今度は踏まないように大切にしまっておきます」
アリスは礼を言い、その場を去った。
そして帰り道、見事に迷った。
発見されたのは、国王の居住区域だった。
「ここは入ってはまずい場所ですよ。見つからないうちに……」
国王付きの護衛たちが、アリスをそっと公共区域へ戻そうとした時だった。
「そなたは誰だ?」
背後から厳しい声が聞こえた。
アリスが恐る恐る振り返る。
そこにいたのは、夢に何度も出てきた、杖を振り上げた老人だった。
あの時と、あまり変わっていない気がする。
「えっと、あの……」
アリスは動揺した。
(どうしよう。公爵家の養女と言ったら、ばれてしまうわ)
その時、カーティスが現れた。
「アリスちゃん、駄目だよ。散々探しました」
そして、国王へ向き直る。
「陛下。この子が兄の養女となったアリスです。どうかよろしくお願いいたします」
カーティスが頭を下げた。
「そなたの兄が養女を取るとは意外だった。すでに娘がいるではないか」
カーティスはふっと笑う。
「この子は、兄の幼馴染によく似ておりまして。それで放っておけなくなってしまったようです」
そして、アリスへ優しく声を掛ける。
「アリスちゃん。国王陛下にご挨拶を」
アリスは慌てて、きれいにお辞儀をした。
「お目にかかれて光栄でございます」
「ふむ……なぜか懐かしい雰囲気がする子だ。不思議だな」
国王は目を細めた。
「実は、亡きエレナ王女殿下と同じ特性を持っているのでございます」
「どういうことだ?」
「左右が分からないのでございます。エレナ王女殿下よりは、まだましだと思いたいのですが……。それ以外はとても優秀でございます。亡きエレナ王女殿下の代わりになれないかと兄が申しておりましたので、連れてまいりました」
「アリスというのか」
国王が小さくつぶやく。
「偶然でございます」
カーティスは静かに答えた。
「さあ、アリスちゃん。これからはアリスと呼び捨てるからね。一緒に仕事を覚えよう。私が教育係としてつくから」
カーティスは優しかった。
だが、仕事には容赦しなかった。
しかし、あちこち城内を歩き回る必要がないため、アリスには楽な職場に思えた。
迷子になる不安がない分、仕事に集中できる気がする。
「なかなかやりますね。筋がよい」
カーティスはほっとしたようだった。
その知らせはリリーヌを通して、王太子夫妻と王子に伝わった。
「さあ、いつ気が付くかな」
王太子はにやりと笑った。
タイトル迷いました・・・(毎回だけど)
お読みいただきありがとうございます




