15. 怪物男爵と呼ばれた銀髪の少年
王は、この少年が国に尽くした功績を聞きつけ、彼を大広間へ呼び出した。
大広間は高くそびえ、金色の柱が陽光を反射して輝いている。
騎士団長、魔法師長、文官、貴族……すべての者が左右に並び、その銀髪の少年へ視線を向けていた。
彼らは皆、噂を聞いている。
十歳の子供――王都の治療団ですら手に負えなかった重傷の騎士を治し、裏切り者に奪われた薬の処方を取り戻し、さらに暗部での初任務を完璧にこなした少年。
王国中がこの「怪物少年」の話題で持ちきりだった。
そして今日、王が自ら彼に会うという。
王はゆっくりと玉座から立ち上がった。
威圧するような暴君ではないが、その存在感は山のように重く、揺るぎない。
王は雪誠を見つめ、好奇と観察の色を宿した眼差しで言った。
「お前が……雪誠か?」
雪誠は軽く頭を下げた。
「はい。」
王は階段を降り、雪誠の目の前まで歩み寄った。
この行動に、貴族たちは一斉に息を呑む――王が子供のために玉座を降りるなど、前代未聞だった。
「騎士を救ったと聞いた。重要な薬方を取り戻したとも聞いている。」
王の声は大きくないが、一語一語が重く響く。
「お前は王国に大きな功を立てた。」
雪誠は誇らず、怯まず、ただ静かに答えた。
「王国のためではありません。」
大広間が一瞬で静まり返った。
貴族たちは目を見開く――この子供、王の前で何を言っているのか。
影刃団長は思わず額を押さえ、Qは深いため息をついた。
だが王は怒らず、むしろ微笑んだ。
「では、何のためだ?」
雪誠は顔を上げ、銀色の瞳を揺るがせることなく答えた。
「ただ、一人を救うためです。」
王は一瞬驚き、そしてさらに深く笑った。
「なるほど。名誉のためでも、権力のためでも、地位のためでもない……
心にある“信念”のためか。」
王は振り返り、全員に向けて宣言した。
「このような者こそ――王国が信頼すべき人材だ。」
大広間に驚きの声が広がる。
王は再び雪誠を見つめた。
「雪誠、朕はお前をどの部署にも強制的に入れはしない。
だが覚えておけ――王国はお前に恩がある。」
王は手を伸ばし、雪誠の肩に置いた。
「いつか、お前が王国の力を必要とする時……ただ一言、言えばよい。」
雪誠は一秒だけ沈黙し、そして頷いた。
「覚えておきます。」
王は微笑む。
影刃団長は小声で言った。
「おい坊主、さっきの一言で貴族ども半分は寿命縮んだぞ。」
Qは雪誠の背中を軽く叩く。
「まあ……よくやったよ。」
だが雪誠の瞳は冷静なままだ。
彼の心にあるのは、ただ一人――エリス。
王は雪誠の前に立ち、重々しく宣言した。
「雪誠。お前の功績、勇気、才能を称え――朕はここに、お前を男爵に叙する。」
大広間が爆発したようにざわめいた。
「男爵!? 十歳だぞ!?」
「前代未聞だ!」
「治療師なのに爵位!?」
「いや……あれは人間じゃない……」
「怪物だ……」
王が手を上げると、場はすぐに静まった。
「幼くとも、お前の力、決意、そして功績は――多くの大人を凌ぐ。」
王は爵位を象徴する徽章を雪誠に差し出した。
「今日より、お前は王国の男爵だ。
――雪誠男爵。」
そして王は雪誠の耳元で小さく囁いた。
「これでフェディナ嬢を追うのも、少しは楽になるだろう。」
雪誠は徽章を受け取り、「ありがとうございます」と静かに答えた。
表情は変わらないが、心の奥では王の一言に激しく揺れていた。
大広間を出ると、貴族たちの囁きが波のように押し寄せる。
「本当に十歳なのか……?」
「重傷の騎士を治し、暗部任務を成功させ、王宮にも気配なく侵入できる……?」
「人間じゃない……」
「怪物だ……怪物男爵……」
その呼び名は瞬く間に貴族社会へ広がった。
怪物男爵。
それは侮辱ではない。
恐怖と、畏敬の入り混じった称号だった。
彼らは知っている。
この少年はコネでも、運でも、家柄でもなく――
純粋な「力」と「才能」で貴族階級へ踏み込んだのだ。
影刃団長はその呼び名を聞き、満足げに笑った。
「怪物男爵……似合ってるじゃねえか。」
Qは深くため息をつく。
「この子……これからもっと面倒が増えるな。」




